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ショートショート49 『いつも悪いな』

老夫婦が営んでいる、冷房がバカみたいに効いた近所の喫茶店。
夏の暑い日、金もない俺たちにとってそこは絶好の溜まり場だった。


カランコロンカラン


「…もう二度と電話してくんなよ!分かったか?!じゃあな!……おう、来たか」

「なに、今日は鈴山だけ?」

「ああ、みたいだな」

「てかなに?電話。誰かと揉めてんの?」


俺たちは特に約束することもなく、暇なやつが自然と喫茶店に足を運ぶスタイルをとっていた。
なので一人で過ごしてしまうこともままあったが、今日は鈴山がいち早くアイスコーヒーのおかわりをし続けている。こいつの話は面白いから好きだ。今日もなんかありそうだぞ。


「ああ。ちょっとな。揉めてるっちゃ揉めてる」

「なんかあったの?」

「いや、聞いてくれよ。メリーさんから何回も電話かかってきてさ。分かる?メリーさん」

「…お化けの…?」

「そうそうお化けお化け。もしもし私メリー。今からあなたの家にいくね、とかさ、今あなたの家の前よ、とかさ、今…あなたの後ろにー!みたいな、なんか、だんだん近づいてくるストーカーメンヘラお化けなんだけどさ」


「ははは。なんだよそれ」


鈴山は霊感が非常に強いらしく、強すぎるがゆえに、お化けが怖い、という感情が欠落してしまったようで、こんな感じでいつもたんたんとお化けとのやり取りを話してくれる。
本当か嘘かはもうどうでもよくて、仲間内はみんな鈴山の話が楽しくて大好物だった。俺にいたってはもうファンの領域だ。
今日もテンポをあげ軽快に話を続ける鈴山。


「でさでさ、オレ、メリーにムカついてさ、来れるもんなら来いよ!ってかましてさ、ここに来たわけ」

「うんうん。それで?」

「したらさ、さっき、今あなたの部屋にいるんですけどどこにいるの?って。オレ今、喫茶店じゃん。メリー、オレのこと見失ってんだよ。あいつバカだわ」

「ヤバいなお前。ははは」

「あ、ごめんちょっと待って」

「どうした?」

「いや、今さ、おびただしい数の手がオレの足首にまとわりついててさ。ちょっと全員にしっぺするから待って」

「やめとけよ。はははは」

こんな調子でずっと、霊感が強いという付加価値を下げに下げてくれる鈴山。ある種、お化けより怖い鈴山。俺は堪らず続きを引き出す。

「最近他にはなんかあった?」

「んーーー、そうだな。なんか井戸で皿数えてるお化けの皿でパスタ食ったな」

「あれ大事な皿だろ。ははは」

「髪が伸びまくる日本人形にエクステつけたわ」

「やめたげろよ。てかよくつけれたな」

「トイレの花子さんに男子便所に入ってくんなよって一時間説教したわ」

「かわいそうすぎるわ」

「あとさ」

「まだあんのかよ」

「なかなか成仏しない連れの相手毎日してあげてるわ」

「いつも悪いな」




老夫婦が、カウンターの奥で今日も、少し心配そうに鈴山を見ていた。
 




~文章 完 文章~






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