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「どうせ辛い思いをするのだから優しくする必要はない」・・・一時保護所で言われたこと

「どうせ施設で辛い思いをするんだからここで優しくする必要はない。」

子供たちを受容すること、子供たちが過ごしやすい環境を作ることを主張するぼくに児童相談所一時保護所の職員が言った言葉です。
会議の場での発言で、所長を含めてこの言葉に反論する人は職場に誰もいませんでした。

ぼくは以前、臨時職員として一時保護所で勉強を教えていました。

一時保護所というのは虐待を受けた子どもたちが親から保護されて生活をする場所です。保護期間は原則2ヶ月で、その間に児童相談所の職員が保護者と子とやりとりをして家庭に戻すのか、里親や施設に行くのかを決定しますが、児童相談所の人手不足、施設の数も不十分なので保護期間は長期化の傾向にあります。ぼくが働いていた時は1年近くいた子どもがいました

その間子どもたちは一時保護所の中で過ごすので、学校に行くこともできません。そのため学習の権利を保障するために学習指導職員が勉強を教えます。

ぼくが働いていた一時保護所は幼児が中心で、小学生の受け入れを始めたのが
遅かったのでそれまで学習指導職員はいませんでした。
前年からアルバイトが時々教えにきていて、実質ぼくはその保護所での初めて学習指導職員でした。

採用の面接で所長からは虐待を受けて満足に勉強ができない子どもたちなので、教える時はゆっくりと優しく、教えて欲しいと言われ、ぼくはいかに子どもを受容することを心がけているのかをアピールしました。放課後等デイサービスで働いてきた経験、勉強ができない子どもの家庭教師をしたときの経験などを話しました。

ところが採用されて現場に行くと、一時保護所の職員はほとんど笑顔がなく、子どもたちを厳しい規則で管理をして毎日怒鳴りつけていました。まるで刑務所でした。

研修が続いて実際に現場に入るようになったのは4月の下旬でした。
はじめは保育士が用意していた課題を保育士と一緒に教えていたのですが単調な課題を与えて飽きたら子どもを怒鳴りつける、運動の時間はただひたすら走らせる、休み時間は列になってみんなでトイレに行くという異常な光景が日々繰り広げられていて、これはえらいところに来てしまったと思いました。

数日働いてGWに入り、連休が明けた5月7日、日本テレビのnews everyで一時保護所の問題が取り上げられました。よその保護所でぼくと同じ学習指導職員として働いていた方の告発でした。一時保護所で子どもたちが厳しく管理され追い詰められていることを告発する内容で、ぼくが働いている保護所もほとんど変わらない状況でした。

職場で報道の話になったとき、他所のことだから自分たちは関係ないと言う顔をしている職員が多数でしたが、次年度からこの現場でも導入されると言う話になって、わずかですが動揺の色が見えました。
ぼくはこれを盾にして改革するチャンスがきたと思い、子どもたちに合わせた課題を用意して、もっと優しくしたいと提案しました。

職員は「やってもいいけど言うこと聞かせられなくてできません、はナシだからね。」と嫌味をつけてきましたが、許可は取ったので自分のやり方を導入することにしました。子どもの負担を減らして、楽しく過ごすことができるように課題を変え、接し方を変え始めると子どもたちは元気な笑顔と学習意欲を見せ始め、職員からは猛烈なバッシング、嫌がらせが始まりました。

あれから5年勤めている間に東京都の一時保護所はずいぶん変わりました。ぼくの現場も外部評価の高い支持を後押しにして積極的に改革を進めて、大きく変えることができたことには満足しています。

でも、よその学習指導職員の話を聞くとまだまだ多くの問題を抱えたままの一時保護所があり、辛い思いをして入所した子ども達がさらに辛い思いをしています。

一時保護所に向けられていた社会の視線はコロナ禍で逸れていますが、一時保護所が子供たちが本当に安心して過ごすことができる場所になるには、まだまだ社会の目で監視をする必要があると思っています。

ぼくはすでに現場を離れてしまいましたが、一時保護所で見てきたことを発信することで一時保護所や虐待の問題に関心を持つ人が増えること、子どもの人権がもっと守られる社会になることを願って、ポツポツ発信していこうと思っています。

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