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『旅するゲームブック:ウィーン』制作記録

2020年1月19日に『旅するゲームブック:ウィーン』という自主制作本の販売をはじめました。今回は、このゲームブックを作ろうと思ったキッカケや、制作過程、試行錯誤した点などをお伝えしたいと思います。初めにゲームブックの概要です。

本作は、オーストリア・ウィーンの街を旅するゲームブックです。プレイヤーの選択肢で、観光する行き先が変化します。カフェや美術館、歴史的な建築や遊園地など数百の選択肢の中からお気に入りの場所を見つけて、ウィーンの地図を作りましょう!旅には複数の分岐があるので、何度読んでも楽しめます。

まず、今回語るゲームブックとは「読者の選択肢で物語の展開や結末が変わる」形式の本を指しています。そのため、クイズやなぞなぞ等、遊びを集めた本の方ではないということが前提です。最近では、今回取り入れたようなゲームブックは市場に出回っていないため、触れる機会は少ないと思います。私も1980年代にアメリカで発売された『きみならどうする?(Choose Your Own Adventure)』(ChooseCo)という子ども向けのゲームブックシリーズの存在は知っていましたが、それ以外の知識はあまり持ち合わせていませんでした。

しかし、一般的な本のように「最初のページから順番に読み進めていく」読み方ではなく、読者が選択肢を選び、ページを行き来する体験というものにとても惹かれていました。5年ほど前から、いつか作りたいと思いつつ制作の難易度が高そうで、実践に移せなかったという経緯があります。背中を押したのは、昨年制作した写真集とエッセイ『オットー・ヴァーグナー:アム・シュタインホーフ教会』でした。この本はオーストリア・ウィーンのとある教会に焦点を絞り、「あたかもそこを訪れているかのような体験をしてほしい」というコンセプトから制作しました。しかし、もっとこの体験を現実に近づけるにはどうしたらよいかと考えた結果、次はゲームブックという手法を試みることにしました。

そういった経緯があるので、次は「ウィーンの街を散策するゲームブックを作ろう」と、自分の中で自然とそのような考えになりました。ただし、これを実現するためには、
① ウィーンの街や歴史をもっと知り尽くす必要があること。
② ゲームブックというものを何度も遊び、仕様を知ること。
この二つが重要でした。

①については、2019年の夏に再びウィーンを訪れ、2週間で本当に色々な場所を巡り、写真におさめることができました。今回ゲームブックに掲載されているのは、実際に自分が訪れた場所であり、墓地で迷ったエピソードなども体験できるようになっています。

そして②については、ちょうどゲームブックに親しんでいた世代の方におすすめを聞いてみることにしました。すると、スティーブ・ジャクソンの『ソーサリー』四部作(創土社)を教えていただき、それなら今でも気軽に入手できたので読んでみることにしました。

ソーサリーシリーズを実際に読んでみて感じた面白ろさは、やはり自分が最初に感じていた「選択肢を選び、ページを行き来する体験」を再確認できたことでした。もちろん、ゲームブックの醍醐味は、最初にキャラクターシートを作り、ダイスを振って敵と戦ったり、運試しをしたり、生きて最後の冒険まで辿り着くことでもあると思います。しかし一方で、デジタルのアドベンチャーゲームに慣れている現代の読者からすると、どこまでをアナログでやってもらえるかという問題もあると感じました。

具体的には、キャラクターシートを作る最初の準備に加え、地図に居場所を書き込んだり、時間の経過や分岐をメモしたり、体力やお金のパラメーターを削っていったりと、アナログで処理しなければいけない行動が多く盛り込まれているので、本腰を入れて取り組む遊びであることがわかりました。そして、初めて制作するには大掛かりな仕様のため、自分が感じた面白さだけを残して、実験的に大きく要素を削ぎ落としてみることから始めました。

今回作るゲームブックは、上記のRPGのような、勇者が敵と戦って冒険する架空の物語ではなく、実際に旅行をしている気分を味わうことがコンセプトなので、まずは大きなウィーンの地図を作り、自分が訪れた場所や行動の記録をメモしていくことから始めました。

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このような形で、大まかな土地の図に付箋を貼り、旅の体験を思い出しながらウィーンの街の全体像を把握していきました。この地図をデスクの壁に貼り、それを見ながらエピソードの分岐を作りました。初めは名刺サイズのカードに手書きで書いていき、それを並べ替えて分岐を作成していましたが、どんどんカードの枚数が増え、作業スペースが確保できなくなったので、Cacooというフローチャートが簡単に作れるサービスを利用して、作っていきました。このサービスはアプリゲームを開発していたときも使っていましたが、遷移図やワイヤーフレームをエクセルより簡単に作ることができ、今回とても助けられました。

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例えばベルヴェデーレ宮殿の中でも、詳細な分岐を作りたいと思ったので、全体の遷移図を作ってから、宮殿の中の分岐も作るという少々込み入った仕様にしました。そのため、最終的には149のエピソードが完成しました。(ゲームブックの中では、きっと少ない数だとは思いますが!)そして、遷移先のページが近くならないように気をつけながら、そのエピソードに番号を振り、文章をつけていきました。

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もっとも大変な作業は、149のエピソードの文章を書いていくということでした。一つの文章量は少ないながらも、少ない中でどう書けば伝わるのか、次のエピソードに自然に入れるのかを考えながら書くのは骨が折れるものです。それに加え、初めて読む読者に対して、その場所がわかる概要や歴史を入れる必要があるため、書籍や各観光地のホームページを参照しながら執筆を進めました。ゲームブック制作の難しいところは、分岐を作り文章をつけて読んでみて初めて、どんなプレイ感覚かを確かめることができるので、テストプレイまでの速度が遅くなってしまう問題がありました。これは、他の制作者の方がどのように工夫しているのかを知りたいので、作っている方がいましたらぜひ教えてください。

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もう一つ取り入れた要素が、地図です。今回のゲームブックには、別紙でA3サイズの地図をつけました。この地図はエピソードの番号が散りばめられていて、訪れた場所の名前を記していくことで、最終的に自分で地図を作るというものです。旅行のガイドブックでは、初めから全ての場所が地図に掲載されていますが、これはその逆で、まっさらな状態から自分で地図を書いていくことにより、ウィーンの街を把握していくことができます。実は今回、裏テーマとして「新しいガイドブックの形」を目指していました。結末によっては、オススメのコースなんかも提案できたら良いと考えていましたが、今回は盛り込めなかったので、次回なんらかの形で入れたいと思っています。また、おまけとしてGoogleマップのQRコードをつけ、それをスマホで読み込むことで答え合せをすることができ、実際の旅行にも役立つようにしました。今回紹介している建築は、特にガイドブックにも載っていないような場所が多いので、ぜひ活用していただけたらと思います。

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また、視覚的なデザインに関してはInDesignで制作しました。本を作るときは、InDesignでレイアウトの骨組みを作って流し込むのが一番楽なので、独学ですがなんとかデザインできています。私は視覚的にものを作る作業が一番好きなので、これを目指していつも頑張っています。デザインをつけるのはいつも仕様が固まってからの作業になるので、どうしても時間がなくなってしまうのですが、今年はデザイン業務にゆとりを作るのが目標です。実際にゲームブックを手に取っていただいた方から、「(本文が)カラー版のもお願いします」という声をいただいているので、次はカラー版でもっと視覚的に楽しめる工夫ができたらと思っています。引き続き、ご意見お待ちしています。

長くなりましたが、以上がゲームブックを制作する上で試行錯誤したことでした。最後の最後まで、体力やお金、時間のパラメーターを入れるべきではないかと悩んでいましたが、まずは、どシンプルなものを完成させてから次のステップで考えようと決断しました。完成させてから見えてきたことがたくさんあるので、これから再び改良したり、新作に取り組んでいきたいと思います。4月、5月のゲームマーケットと文学フリマにも出店しますので、ぜひ楽しみにしていただけますと幸いです。





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今日も素敵な1日になりますように。
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東海地方で暮らすデザイナーです。Bitaby(ビタビィ)というブランドで「美術をめぐる旅」をテーマに、本やボードゲームを製作しています。イベントや製作のお話、ゆるい日記などを投稿していきます。https://www.bitabywork.com/

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