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UCL R16 1stleg ビジャレアル vs ユベントス 〜得点へのルート

結果は1-1のドロー。悪くはない結果ですが、試合内容はどうだったのでしょうか?簡単に振り返っておきます。

まさかのミラーマッチ

ユベントス

スタメンはシュチェスニー、クアドラード、ダニーロ、デリフト、サンドロ、デシーリオ、マッケニー、ロカテッリ、ラビオ、モラタ、ブラホビッチ。基本的な布陣は4-4-2ではなく5-3-2もしくは5-4-1だった。守備時は5バックで5レーンを埋めて守り、攻撃時は左右のWBを上げて、ブラホビッチ、モラタ、マッケニーが中央を使う。3バックとロカテッリでボールを保持、運び出しを担い、ラビオがサポートに入る形だった。トランジションはゆっくりとしており、ネガティヴトランジションではボールを奪うというよりは、前進を阻んで遅らせるイメージ。ポジティブトランジションについては、前に前にダイレクトな攻撃を志向していた。それが無理ならボールを保持し、それも厳しければブラホビッチめがけて蹴るという優先順位をつけて攻撃していたように思う。

ビジャレアル

スタメンはルジェ、フォイト、アルビオル、パウ・トーレス、モレーノ、チュクエゼ、パジェホ、カプエ、ロチェルソ、ダンジュマ、ペドラザ。4-4-2をベースに攻守でポジションを可変させていた。ビジャレアル側はボール保持により強い意欲を見せていたので、必然的にハイプレスにも積極的だった。ユベントスから時間とスペースを奪うために前からマンマークで人を捕まえにきていた。2トップと左SHがユベントスの3バックにマークにつき、チュクエゼとモレーノは下がってクアドラードとデシーリオをケア。主にパジェホがロカテッリをマークに出てユベントスのビルドアップ隊に素早くマークについていた。

攻撃時は、フォイト、アルビオル、パウ・トーレスが3バックを形成し、その前にパジェホとカプエが構えてこの5人でボールを保持。右はチュクエゼ、左はモレーノが幅を取り、ロチェルソ、ダンジュマ、ペドラザが中央レーンと左右ハーフスペースを使う。3-2-5に可変して5レーン理論に基づいたポジショナルな攻撃を仕掛ける。さらにアウトサイドレーンに位置する選手とハーフスペースに位置する選手がポジションを入れ替える。横のポジションチェンジも行っており、ユベントスのマークを混乱させる仕組みを用意してきた。守備時はチュクエゼがディフェンスラインまで下がってデシーリオをケアしたため、実質的には5-3-2もしくは5-4-1で守っていた。

両チームとも、攻撃時は3-2-5へ変化してポジショナルな攻撃を仕掛け、守備時は右SHを守備ラインまで下げて5バックに変化して5-3-2か5-4-1で守るという、ほぼ同じゲームプランを用意してきた。違いが出ていたのはハイプレスの強度の点で、ビジャレアルの方がよりアグレッシブにハイプレスに出ていた。つまり、チームとしての狙いは似ていた両チームだったが、ボール保持により強い意欲を見せたのはビジャレアルの方で、ユベントスは相手にボールを持たせてもOKという選択をしていたように思う。

どうやって点を取るか

この試合は、開始32秒というまさかの時間帯でユベントスが先制した。ハイプレスに出てくるコンパクトな陣形の裏を狙うというコンセプトがハマった形だが、あまりに出来過ぎだったように思う。その後は互いにサイドを起点にして何度か決定機を迎えていた。5バックで5レーンを埋めて対応するという守備の路線は似通っていた2チームだったが、点を取るためのアプローチには違いがあった。

ユベントス

ユベントスはボールをビジャレアルに持たせた上で、奪ったボールは早めに前に入れていく。ダイレクトな攻撃で相手が守備をセットする前にチャンスを作りたいという意図があったように思う。ブラホビッチに加え、素早いトランジションでマッケニーとクアドラードが猛スピードで右サイドを駆け上がっていく。ビジャレアルに戻りながらの守備を強いている状態で攻撃を仕掛けるシーンが何度かあった。その時は高い確率でシュートに持ち込むことができていた。

ダイレクトな攻撃がダメならボールを保持して、ポジショナルな攻撃に移行する。ユベントスの課題はボールを保持した攻撃が構築しきれていないことだ。マッケニー、モラタ、ブラホビッチが真ん中にいるのだが、ボール保持からの攻撃で、ビルドアップから彼らにボールが入ることが少ない。モラタ、ブラホビッチは守備を背負って受けようとしていたが、フォイトやアルビオルが強く当たってきてキープしきれないことが多かった。ジャッジも背中からのアプローチに対してはかなり寛容で、背中にぶつかっていってもノーファールの判定ばかり。失点直前のブラホビッチへの背後からのプレスもブラホビッチのダイブを取られていたくらいだ。中へのパスを潰されるとなるとサイドへのパスが中心となる。しかし、ビジャレアルの守備もサイドへのルートに対して準備しているのでそう簡単には崩せない。いっそのこと、ブラホビッチ、モラタ、マッケニーに加えてラビオをペナルティエリアに飛び込ませてクロスを連発する方がいいのではないだろうか。とにかく、ボール保持からの攻撃では、どうやって点を取ろうとしているかのプランが見えなかった。ブラホビッチがいるのだから、ペナルティエリアに人数をかけてクロスをメインに攻撃するのもアリなのではないか。

ポジショナルな攻撃をさらに活性化させるためには5レーンを埋めた上でさらにもう1人、攻撃に参加する手がある。5レーン理論+1だ。この試合のユベントスであれば、ビルドアップ隊にも常時参加することはなく、5レーンを埋めるタスクも与えられていなかった人物。ラビオが+1になりえたはずだ。ラビオの攻め上がりの回数を増やして攻撃を仕掛けたいところだ。しかし、ラビオはフィジカルに特徴のある選手であり、攻め上がりのタイミングなどの戦術的な動きはここまで輝いてはいない。試合の状況を読んで+1として効果的に攻撃参加できるとしたらロカテッリの方だろう。ロカテッリの戦術眼はユベントスの選手の中でも抜きん出ていると見ている。アタランタ戦やトリノ戦のように、ラビオに後ろを任せてロカテッリが上がるシーンをもっと多く作りたかった。

ビジャレアル

一方のビジャレアルは、ダイレクトな攻撃よりはボールを保持した攻撃を志向しているように思えた。ユベントスが前進を阻んで遅らせることを優先した守備をしたこともあるだろう。ダイレクトな攻撃はほとんど見られなかった。ボールを保持して押し込んだビジャレアルだったが、ユベントスの5-4-1の守備ブロックが中のスペースを消し、かつWBに加えて右はマッケニー、左はモラタを下ろしてサイドにも2枚守備者を用意してサイドを封鎖。ダニーロのクリアミスとデリフトのポジショニングミスによる決定機以外ほぼチャンスはなかった。

こちらも5レーンを埋めた攻撃を仕掛けているものの、ユベントスも5レーンを埋めて守っており、サイドも封鎖されているとなると、やはり+1を作りたいところだ。横のポジションチェンジなど、やれることはほとんどやった上でチャンスが作りきれなかった。あとは人数を増やすか、チュクエゼが抜き切るかどちらかだろう。チュクエゼはスピード、テクニックを持ち合わせており、一度デシーリオを翻弄してチャンスを作っている。左サイドにモラタがいたこともあり、チュクエゼにボールを集めて仕掛けさせ続けていたらさらに決定機を作れたかもしれない。

なお、ビジャレアルの得点についてだが、おそらく、ボヌッチの起用が響いている。前半はデリフトは5バックの中央にいた。しかし、後半からボヌッチが入ったことによって左CBの位置に入ることになった。得点シーンでは、マッケニーも守備ラインに下がってきており、右サイドの守備には人が足りていた。にも関わらず、デリフトは右サイドにポジションをずらしてしまっている。直前にブラホビッチが後ろからチャージを受けて倒れており、一瞬集中力が切れた可能性もある。慌てて守備を立て直そうとして、前半のマーク、ポジショニングをしてしまったのかもしれない。その空いたスペースを抜群のタイミングで突いたパジェホとカプエは素晴らしいが、ユベントスからしたら防げた失点だった。

総括〜2ndレグに向けて

ユベントスがビジャレアルにボールを持たせるのも許容してダイレクトな攻撃を志向したことで、ボール保持率には差が出た。しかし、それは両チームの点を取るためのプランが異なったことによるもので、実力を表しているものではない。決定機の数を考えても、互角の戦いだったといえよう。特に守備戦術において同じような選択をしてきた点がとても興味深い。ただ、5バックで守る相手からどうやって点を取るかのソリューションが異なっていた。それが、ダイレクトな攻撃を志向するか、ボール保持にこだわるか、の差になっていた。試合を見ていた限り、ユベントスが選んだ道の方が点に結びつく可能性は高いと思った。ビジャレアルは、ユベントスのミスがなければ得点はできなかっただろう。チームの完成度ではビジャレアルが上だが、選択肢の幅はユベントスの方がありそうだ。

2ndレグに向けてキーポイントになりそうなのが、ユベントスの左サイド、ビジャレアルの右サイドの攻防だ。ユベントスは今季、左サイドの攻撃に課題を抱えてきた。幅を取る選手を用意できず、効果的な攻撃が仕掛けられなかった。守備を重視してサンドロを起用してきた結果、サンドロが左サイドを攻め上がることが少なくなってしまった。ペッレグリーニはドリブルを武器に攻め上がって左サイドの幅を取ってくれるが、守備には不安が付きまとう。ビジャレアル戦最終盤でも守備の軽さを露呈してしまっている。しかし、ここへきてデシーリオという一つの解決策を見出した。一定の守備を計算できる上、左サイドを攻め上がって幅を取るタスクはそつなくこなしてくれる。ドリブルで突破することはほぼないが、好機を演出するクロスは持っている。一方のビジャレアルにとっても、チュクエゼという単騎でディフェンスを切り裂けるドリブラーを配置している。前半は何度かデシーリオをドリブルで翻弄してチャンスを演出した。中央、左サイドが手詰まりだっただけに、チュクエゼにかかる期待は大きい。1stレグではチュクエゼにチャンスは数回作られたもののそれ以外は無難に対応しつつ、左サイドの高い位置をとって逆にチュクエゼを押し込んだデシーリオ。ややデシーリオが優勢だったかと思うが、最後は足が攣って交代した。

今回の戦い方がうまくいかなかったわけではない。基本的な戦術は変更しないとすると、修正すべきはダイレクトな攻撃に参加する人数を増やすことだ。ブラホビッチ1人では流石に厳しい。ブラホビッチがボールを収めて時間を作っている間に前線まで走り込む選手を増やしたい。

戦術を変更するなら、トリデンテを起用してハイプレスを強めに行うことも考えられる。モラタ、ブラホビッチ、ディバラの同時起用だ。なかなかリスキーな戦いにはなるだろう。ネガティヴトランジションが少しでも緩めば、早い時間帯でビハインドを背負うことになる可能性もある。ただ、マッケニーが負傷交代している。彼のケガが長引くようなら、ライン間を使うのはディバラしかいない。マッケニーが使えないなら、ザカリアを起用して守備を任せた上でトリデンテをスタートから起用する可能性は高い。来季のことも考えると、ここで選手の質とメンタリティに賭けるのも悪くないかもしれない。

左サイドを重視するなら、キーマンは、ベルナルデスキかもしれない。彼が復帰して左サイドに置くことで、チュクエゼを守備に奔走させられる可能性がある。ただ、その場合の守備陣の並びや攻撃時のタスクの割り振りは新しいものになる。

いずれにせよ、「新エースのブラホビッチにどうやって点を取らせるか」アッレグリは真剣に考えてほしい。実はアッレグリ政権の中で一番得点力が高かったのは、ロナウドがいた18-19シーズンだった。その時は、ロナウドに点を取らせることから逆算して攻撃を組み立てていたふしがある。今季はブラホビッチに点を取らせるためのアプローチを組み上げてほしい。2ndレグは勝たなければならない。そろそろ攻撃にも本格的に手を付けないといけない時期が来たのではないだろうか?

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