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NHK 教育とユニバーサルメディアについて本気で考えてみた(前編)

こんにちは。システムデザイナーの松島宏佑です。

今回は、共創型戦略デザインファームBIOTOPE が、教育・福祉のテレビ番組を制作するNHK Educational の皆さんと取り組んだ「インクルーシブデザイン」のプロジェクトについて、書きたいと思います。

インクルーシブデザインとは、「高齢者、障がい者、外国人など、従来、デザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、デザインプロセスの上流から巻き込むデザイン手法(Inclusive Design Solutions より)」と定義されています。

いま、デザインの世界では、「インクルーシブデザイン」はひとつの大きな流れになり始めています。実際、デザインとテクノロジーに関するグローバルのトレンドレポートとして知られる、「Design in Tech Report」の2018年版では、大きなアジェンダの1つとして「インクルーシブデザイン」が取り上げられていました。

しかし、「インクルーシブデザイン」といっても、実際どういうこと?と疑問を持つのが普通だと思います。

今回のプロジェクトは、メディアがこれまで届けきれなかった、「視覚障害者」「聴覚障害者」を対象に、メディアができることを捉え直し、プロトタイプまで落とし込み、それを、2020年のオリパラまでに実際の形にしよう、というものです。

この取り組みを通して、僕自身にとっても多くの学びがあり、ぜひ多くの方にその学びを共有したい!と思い、今回の記事を書きました。

▼目次
(前編)
1. プロジェクトの背景
2. プロジェクトの内容
(1)インタビュー
(2)フィールドワーク
(3)企画ブラッシュアップ
(4)プレゼンテーション
3. プロジェクトの成果

(後編)
4. プロジェクトをやってみて気付いたこととこれからのこと
5. BIOTOPE と インクルーシブデザインのこれから

1. プロジェクトの背景

NHK Educational(以下、NED)は、主に教育・福祉関連のテレビ番組を作ってきた会社です。世間一般には「Eテレ」の呼称と、『おかあさんといっしょ』『バリバラ』などの番組が、よく知られていますよね。

僕たちは、NEDのディレクター陣(番組企画を担当)をはじめ、様々な職種の社員が集まり、外部の専門家や新技術の知見を入れながら、NED社内で新しい事業や番組を開発する「創発カフェ」という場を、ここ3年ほど作ってきていました。
※ BIOTOPE 事例紹介:ボトムアップ型のワークショップから社内と外部を巻き込み新規事業を開発

その創発カフェの次のテーマとして話題に上ったのが、2020年のオリンピック・パラリンピック。公共メディアだからこそできることがきっとあるんじゃないか、そういう議論をしているときに、テレビがこれまで届けきれなかった「視覚障害」「聴覚障害」の方たちに、公共メディアとしてどう情報を届けていくのか、という議論になりました。まずはテレビとして出来ることを、その上でそこからもっと広げていけたらいいよねと。

とはいえ、テレビは音声や映像を楽しむもの。目の見えない視覚障害者、耳の聞こえない聴覚障害者の日常に、そもそもテレビは必要とされているのか?と疑問が出ました。そこで実際に、視覚障害や聴覚障害を持っている方にお話を伺ってみたところ、僕たちの先入観に反して、こんな声が出てきました。

「家ではラジオではなく、テレビをつけていることが多い」(視覚障害の方)
「テレビを字幕表示にして、日常的につけている」(聴覚障害の方)

メディアの当事者も、僕たち自身も知らない生活実態があるはず。きっと、そこから発想するアイディアは、今までになかったようなものになるかもしれない、そんな想いを元に、このプロジェクトはスタートしました。

2. プロジェクトの内容

まずは、プロジェクトの狙いをNEDと共に整理しました。

・障害者の中でも、「視覚障害者」と「聴覚障害者」を対象にする。
・社内での障害者理解を促進し、人材育成につなげる。
障害者に関する様々なインサイトを得られるようにする。
・アウトプットとして、具体的な番組提案かサービス提案に落とす。

そして3ヶ月ほどをかけ、合計4回のセッションを実施しました。アウトプットの「番組もしくはサービスの提案」に向け、インサイトの収集にも時間を割きます。

(1)インタビュー
障害のある方が普段触れている情報やメディアを知り、潜在ニーズを知る
(2)フィールドワーク
渋谷の街を歩き、無意識的に障害者が悩んでいるポイントを見出す
(3)企画ブラッシュアップ
上記(1)〜(2)で構想した企画をブラッシュアップ
(4)プレゼンテーション
障害者の方へ企画をプレゼンテーションし、ユーザーとしての反応を聞く

具体的に何をやったのか、ご紹介します。

(0) まずは、相互理解から

セッションでは、NED社内のメンバーだけで議論するのではなく、視覚障害者、聴覚障害者、盲導犬、企業社員が一同に介しながら、議論を進めていきました。リサーチの対象としてだけではなく、共に議論する仲間として、目が見えない人や、耳が聞こえない人ともコミュニケーションを取ります。

↓真ん中の方と左の方が視覚障害者。

↓手話通訳士もいます。

↓更には盲導犬まで。

セッションで意識したのは、NEDや僕たちBIOTOPEのプロジェクトメンバーが持っている障害者に対する先入観をどうやって外すか。障害者のニーズをいきなり考えようとしても、どうしても先入観が働いてしまい、一般論になりがちです。

そこで、自分たちも目を隠して、視覚障害者の立場で話をしてみたり、

耳栓をして、聴覚障害者の立場でコミュニケーションをとってみたり。

また、事前に行った障害者へのレポートを共有し、いかに自分たちは何も知らないか、に自覚的になることから、プロジェクトをスタートしました。

(1)インタビュー

まず作成したのは、メディアマップ。障害者が普段、どういった情報に、どんなデバイスを使って、いつ、どのように接しているのか、インタビューを行いました。

例えば、「弱視の方は、健常者よりもはるかにスマホを使いこなしていたり、人によっては、Slack もバリバリ使っている人がいる」ことに驚きました。

次に、コンテンツマップ。好きで見ているコンテンツは何か、逆に見たいけど見れないコンテンツは何か、つまらないけれど視聴しやすいから見ているものは何か、といったことを理解していきます。

こうしたリアルな生活様態をインプットしたところで、一旦、障害者が抱えるニーズ・初期アイディアを考えてみます。

とはいえ、インタビューで聞けることは自分が理解できることだけ。このニーズ、アイディアは頭に置いておきつつ、次のフィールドワークに進みます。

2)フィールドワーク

フィールドワークでは、各チームがテーマに沿った場所に出掛けます。スポーツがテーマなら、スポーツバーへ。エンタメがテーマなら、ゲームセンターへ。他にも、駅での通勤、レストランでの食事、コンビニでの支払い方法など、テーマごとにフィールドワーク先を選びました。

街の中でともに時間を過ごすことで、インタビューでは出てこないような、障害者本人が無意識に行っている、もしくは当たり前だと思っている行動を目の当たりにすることができ、新たなインサイトの発掘に繋がります。

例えばエンタメをテーマにしたチームからは、「弱視の人はテレビを見ることは難しいが、VRゲームなら楽しんで遊ぶことが出来る」といった発見がありました。

(3)企画ブラッシュアップ

ここからは、(1)、(2)で得たインサイトを元に、具体的な番組企画/サービス企画を考えていきます。

ポイントは、「障害者からのインサイトをもとに発想するが、結果的に障害者・健常者に関わらず、より多くの人に届くコンテンツ」になっていること。

つまり、障害者の課題に応えるのはもちろん、それをインスピレーションに新しい企画につなげよう、ということです。ここが、参加者のクリエイティビティーの発揮のしどころ。

実際にデバイスを使いながらイメージを膨らませていきます。

「弱視の方は黒ベースで白文字なら読める」、ということに気付き、資料をその色合いで印刷して、議論を進めるチームも。プロジェクト中に気付いた、こうしたコミュニケーションの工夫が、番組の演出にも直結します。

聴覚障害者の「字幕があっても、感情の情報までは分からない」というインサイトから、字幕をアップデートする企画を考えるチーム。技術者がプロトタイプを作り、「これ、わかりやすい!」「これ、違う!」と、その場で聴覚障害者からフィードバックをもらいながら、ブラッシュアップしていきます。

BIOTOPE サイドからは、UI / UX デザイナー、コミュニティデザイナー、エンジニアが議論に混じり、ともにコンテンツを作り上げていきました。

そして、他チームからのフィードバックを得るため、いったん企画を発表。ここでは、パワーポイントのスライドは使わず、「演劇」形式で発表を行いました。企画を使っている具体的なシーンを演じることで、障害者がどのような感情を持ったのか、フィードバックが得られます。

実は、この演劇形式のプレゼンテーションをやってみると、これが「めちゃくちゃ難しい!!」ということに気づきます。というのも、「演劇」なのに、目の見えない人がいて、耳が聞こえない人もいる。一体、どうやって情報を届けるのか、という壁にぶつかったのです。

これは、オリ・パラの競技を、どう視覚障害者・聴覚障害者に届けるのか、という課題とまったく同じです。

(4)プレゼンテーション

ブラッシュアップを経ての最終的プレゼンは、社内の取り組みに興味ある人、また担当役員の方にご参加いただきました。参加者たちの熱量を更に盛り上げるべく、本格的なポスターもこのために制作。

詳細な企画・発表内容についてはご紹介できないのが残念ですが、企画に対して、社員や障害者から鋭い指摘、また温かいメッセージも飛び交いました。

3. プロジェクトの成果

最終的に、4つの案が社内企画としてNHKに提出されました。その中でも、字幕をアップデートする企画を提案したチームの案が関連技術を持っている会社とつながり役員プレゼンが行われたり、他の案も実現に向かって動いているそうです。

もちろん、オリ・パラ2020に向けて本当に形になっていくのか、具体的にどんな企画になっていくかは、これからです。

プロジェクトディレクターの僕としては、企画は形にならなければ意味がないと思っています。一方で、障害者のリアリティーを知り、そのインサイトを組織文化に浸透させていくための取り組みとしては、非常に大きな第一歩を踏み出せたのではないかと思っています。

プロジェクトに参加したNED社員や障害者からも、様々な感想がありました。

(NED社員より)
今回参加してみて大きな気づきだったことは、自分にも無意識の心のバリアーがあったことです。どうやって話せばいいのか。変なこと言うと迷惑に思われるんじゃないか。こんなことはきっとできないんだろうな・・・。
過剰な気配りが働き、無意識にぎこちない行動になってしまっておりました。普通に振る舞うことの難しさ、本当に「普通」っていったい何なのかを考えさせれました。
今回のワークショップは、思い込みから番組やサービスを考えてきたんじゃないかと疑い、障害があるなしに関わらず、ユニバーサルな世界にとって価値のあるものとは一体何なのかを、考え抜いた時間でした。

(障害者より)
・メディアの方に視覚障害者と聴覚障害者のペルソナを持ってもらえたことが一番価値があるように思います。きっとこれからもなにかの折に触れて思い出してもらえると思うので。そして、僕たち障害者もテレビ番組を作る人とつながれたことで、「ただの見る側の人」や「ただ意見を言うだけの人」ではなくなったことも大きいと思います。

・今回のワークショップは、4日間と長かった事、一緒にランチをしたりお茶したりお買い物をした事で、みなさんと強い心の繋がりが育めたと感じています。「洗濯出来るの?」「掃除機かけられるの?」の質問も時間があったからこそ出来たんだと思います。

・「見えない」「聞こえない」などのハンディキャップがあることであきらめていた情報取得やエンターテイメントコンテンツなどの娯楽にも、自分たち障害者の側から、もっとどん欲になっても構わない、という励ましを受けたような感じだった。

このような挑戦的な取り組みをされた、NHK Educational さんには本当に感謝しています。この取り組みが真に価値があったか分かるのは、オリパラ2020のときだと思いますが、少しでもお役に立てていること、祈っています。

以上、ここまで、何をやってきたのかについて紹介しましたが、後編ではこのプロジェクトを経て気付いたことと、今後BIOTOPEとしてインクルーシブデザインにどう関わっていくか、書きたいと思います。

後編へ。

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企業や組織をひとつの生命体ととらえ一人ひとりの妄想や想いに熱を吹き込む”共創型戦略デザインファーム”のBIOTOPEです。 こちらのnoteではスタッフブログとして社内外での取り組みを随時発信していきます。

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