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好きな作家を15人選んでみた(日本文学編)

お知らせ

大阪で作家の澤西祐典さんと「芥川賞受賞予想イベント」をします。

「芥川賞受賞作を予想する。」
出 演:大滝瓶太 × 澤西祐典
日 程:2020年1月11日(土)
時 間:開始/18:00~(開場/17:50)
入場料:500円(税込)
定 員:20名
場所:toi books(大阪府大阪市中央区久太郎町3-1-22 OSKビル2F)
問合せ:mail.to.toibooks@gmail.com
詳細はこちら

出演者のプロフィールはこちら

大滝瓶太(おおたき・びんた)
1986年兵庫県生まれ。主にWEBメディアで文芸書評や自然科学コラムを執筆。2018年、「青は藍より藍より青」で第1回阿波しらさぎ文学賞を受賞。同年、たべるのがおそいvol.6(書肆侃侃房)に短編小説「誘い笑い」を発表。著書に『コロニアルタイム』(惑星と口笛ブックス)、『エンドロール』(PAPERPAPER)。
澤西祐典(さわにし・ゆうてん)
1986年生まれ。作家、文学研究者(専門は芥川龍之介)。2011年、「フラミンゴの村」で第35回すばる文学賞を受賞。その他の著書に『雨とカラス』、『文字の消息』、共編訳書『芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚』(柴田元幸との共編訳)などがある。龍谷大学国際学部講師。毎年、ゼミで芥川賞予想を行なっている(戦績は2勝2敗)。

芥川賞予想は「文学を読んでみたいかも!?」というひとにとって、とてもよい入口になるとおもいます。こうしたイベントは東京ではちょくちょくあるみたいなのですが、関西ではあまり聞かなかったのでやってみようということになりました。
ちなみに、予想イベントのなかでも「解説(?)が作家」というのはたぶん他にないので、実作の感覚みたいなところにつっこんでお話できれば…とぼくはおもいます。まぁ、澤西くんとは論点がちがうとおもうのだけど!それもたのしみにしていただければ!!!!

第15位 桜井晴也

オススメ小説 世界泥棒

文藝賞受賞作。この賞は綿矢りさや山崎ナオコーラがデビューした賞。この作品はここ数年の5大文芸誌(文學界、群像、新潮、すばる、文藝)新人賞受賞作とくらべてもずば抜けた質と量がある。セカイ系、って感じの作家。これからがすごくたのしみ。

注:この作品は2019年12月発売『早稲田文学増刊号 「笑い」はどこから来るのか』に大滝が寄稿した論評でも取り上げています。

第14位 中島敦

オススメ小説 文字禍

「山月記」でみんな知ってる作家。中島敦の小説はそもそも舞台が異国であることが多いのだけど、日本文学って感じがあまりしなくて、感触としてはラテンアメリカ文学に近い。マルケスとか、ボルヘスとか。そういう小説をずっとむかしで書いていたひとがいるっていうのを改めておもうとなんかいいなーっておもう。

第13位 青木淳吾

オススメ小説 私のいない高校

最も芥川賞を受賞しないといけない作家であり、そして同時に絶対に芥川賞を受賞させてはいけない作家。いうまでもなくあやしい小説を書くひと。とにかくこのひとは、なんというかいわゆる「人間を書くこと=文学」という悪しき思想がまったくないのがすがすがしくて、興味は徹底してひとでないものへと向いている。とくに、かれは空間がいかにあるのか、いかにつくられるのか、といったものへの興味が強い気がする。シムシティとかシビライゼーションとか、そういう系のゲームが好きなひととか意外と楽しく読んじゃうかも。

 注:2018年8月、大滝が本作のパロディ小説「私のいない就活」を就活メディアONE CAREERで発表しています。

第12位 柴崎友香

オススメ小説 わたしがいなかった街で

青木淳吾からの柴崎友香だと、保坂!って感じがするし、個人的に保坂和志のいっていることはよくわかるけれどなんだか好きになれないっていうのはある。そして一青木淳吾、柴崎友香、山下澄人あたりを紐づけてしまうのは、ひとりひとりの作家さんにとても失礼だしいけないなぁともおもう。けれどもやっぱり、青木淳吾と柴崎友香は似ている。空間への興味が。もっともどういう風に空間を認知するのかとか、そのへんは全然違う。
柴崎友香はとりわけ「街」に空間イメージが特化している。人と人の会話、テレビのニュース、記憶、あらゆるひとの営みから他者の営みへと潜り込んでいく場がゆっくり、丁寧につくられる。

第11位 金井美恵子

オススメ小説 柔らかい土をふんで、

金井美恵子を読むとことばへの執念というか、執着というか、それがえげつないな、とおもう。読者が、書く、ということを作家と共に経験するというか、そういう感じの小説におもう。一文の長さや煩雑さに途方にくれるひとも多いだろうけれど、一文のなかにある世界の深さにふれることができる小説はなかなかないと思う。

第10位 小島信夫

オススメ小説 微笑

 このひとのことばは生きていて、生き物としての気持ち悪さや怖さ、こっけいさがある。ひとの発話の瞬間に正しく小説を書いているのが、すごい。  

第9位 川上未映子

オススメ詩集 先端で、さすわさされるわそらええわ

ぼくはこれを読んで小説を書こうとおもった。詩集だけど。ことばは意味・情報とかそんなもんじゃない。

第8位 伊藤計劃

オススメ小説 虐殺器官

早逝の天才・伊藤計劃のデビュー作にして最高の作品。もう、ほんとうに長生きしてほしかった。フィリップ・K・ディックを超える大SF作家になってほしかった。卓越したストーリーテリング、ウィットに富んだユーモア、スピード感あふれる戦闘描写、なによりも作品が哲学をきちんともっている。
また、現代SFでは「科学と言語」の問題が頻繁に提示されているるけれども、虐殺器官はその種の小説の代表作ともいえる。「虐殺器官」・「ハーモニー」・「屍者の帝国」と三つ合わせて読みたい!

第7位 最果タヒ

オススメ詩集 死んでしまう系のぼくらに

詩人、だけどたまに文芸誌などで小説も書くひとで、「死んでしまう系のぼくらに」は詩集。ことばをことばとして使い、ことばを使うじぶん自身もことばであろうとしている強さがすき。

第6位 舞城王太郎

オススメ小説 好き好き大好き超愛してる

ポップでファックな現代的な小説を書く覆面作家。エネルギッシュな文体にかれの持ち味があるというわけじゃない気がする。人一倍、小説に何ができるかを真摯に考え実践しているんだなーっておもう。好き好き大好き超愛してるは舞城のひとつの到達点だったように思う。軽薄に思える言葉で渦巻く世界のなかに、どうして小説を書くのか、なぜ小説を読むのかという切実な想いがあふれている。じぶんが物語になる覚悟はできているか、読者にはそれが問われているのかもしれない。

第5位 夢野久作

オススメ小説 ドグラ・マグラ

小説を書き始めた当時にすごく影響を受けていたのは夢野久作のドグラ・マグラだった。 メタ構造というか、メビウスの輪みたいな形をした小説。脳髄論にはじまる雑多なあれこれをよくここまで凝縮したなぁっていうのはいまだに感動できる。チャカポコで心を砕かれるひとが多いけど、そこを乗り切ってあと下巻はすごく読みやすいからがんばって!

第4位 安部公房

オススメ小説 箱男

小説を書き始めたときに好きだった作家はやっぱりずっと好きなままで、安部公房を読んで小説っておもしろい!っておもえた気がする。砂の女がやっぱり人気だけど、ぼくは抜群に箱男がすき。安部公房の世界は機械仕掛けの冷たい質感がある。構造そのものの成り立ちは、ひとがひとであることに等しく尊い気がする。

 第3位 木下古栗

オススメ小説 Tシャツ

なんか2ちゃんねるの住人が間違って小説かいちゃったみたいなひと。とにかくに中学生レベルの下ネタをいいたいだけ、とかそんな小説が多いけれど、それを実現するために技術を惜しみなく使う作家。川端康成文学賞の候補に某女性誌のセックス特集号を立ち読みする小説「本屋大将」が上がっていたけれど、辻原登や津島佑子から完全に無視されていた辺り、ファンとしてうれしい。
オススメにあげた単行本「金を払うから素手で殴らせてくれないか」は表題作よりも「Tシャツ」という2つめに収録されている短編の方がすごい。この小説のあらすじを説明するのはかなり困難だが、ようするに不良中年まち子のサクセスストーリーと読んだら10%くらいは正しいだろう。文学文学ブヒブヒいってるひとほど、木下古栗を読むべきだとおもうし、木下古栗を文学として評価できる日本であってほしい。
また、そんな木下古栗が紹介する「野糞本」も強烈におもしろい。

おそらく、読んだものをある程度模倣しながら小説を書いているような痕跡があるので、かれの作品と比べながら読むと面白い。

第2位 円城塔

オススメ小説 これはペンです

どこまで真面目でどこからふざけているのか、ずっと真面目なのかそれともはじめからずっとふざけているのか、円城塔はそれが全然わからない作家だ。
読んでいておもしろいのは、物理や数学、数値計算のことを事実の通り書いているだけなのに、それが奇妙な詩性を帯びることが頻繁にあって、たぶんそれは何かのメタファや文学としての試みとかそういうのは全然ない。きっと“ほんとうに”現実を書いているだけなのだろうと思う。
円城塔をSFや構造遊びとして読んだらそれ以上でもそれ以下でもなくなってしまう。書かれてあることをすべて事実として、100%真に受けて読まないと、書かれている世界の豊かさに気がつけない――そんな気がする。

第1位 村上春樹

オススメ小説 「ねじまき鳥クロニクル」「めくらやなぎと眠る女」「象の消滅」

なんだ結局ハルキかよ!!って怒られそうな気がするけれど、なんだかんだで村上春樹はほんとうにすごい小説を書いていると思うし、日本人作家で一番好きなのは村上春樹だ。「ねじまき鳥クロニクル」は「僕」という素朴な一人称に似合わない巨大な世界や歴史、「僕」と直接的な関係を持たない様々な人間の膨大な物語が抱え込めてしまうこと、潜在的に抱え込んでいるということを「僕」の物語として示してしまったのは、大偉業なんじゃないかっておもう。第3巻がわかんないっていうひとが多いけれど、第3巻こそ読んでほしい…!

あと春樹は短編もすごくいいよね。村上春樹の短編が優れているのは、余計なエクスキューズがまったくなく、論理的な説明とはすこしちがう「感覚的な事実」として物語を提示してくる点だ。その秀作として挙げられるのが「めくらやなぎと眠る女」という短編。ともあれ、現実を超えたところで現実を描きだせる力において、日本だけでなく世界の作家のなかでも稀有な才能を持っている。ハルキの比喩が嫌いっていうひとは、そういうジョークだと思ったらもう少し楽に読める気がするのでおすすめ。

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