キンモクセイは二度花を咲かす
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キンモクセイは二度花を咲かす

びんこ/長谷川敏子

今年の秋は、キンモクセイが咲くのが早いな、と思った。あれはたしか、9月のはじめの頃だった。

7月も8月もあんなに暑かったのに、9月になって急に肌寒くなり、あっという間に秋が来た感じがした。

あのとき、たしかに窓を開けるとキンモクセイの香りがした。


あれから約1か月が経った。10月になると、東京には再び、夏のように暑い日が戻ってきた。

今年はちょっとヘンなお天気だな……と思って窓を開けたら、再びキンモクセイの香りがした。

あれ?今年はもう9月に咲いたはずなのに。

そう思って調べてみたら、なんとキンモクセイの中には、二度咲くものがあるのだそうだ。

金木犀(キンモクセイ)、関東を中心に再び香る(ウェザーニュースの記事)


散歩に出かけて、キンモクセイの香りがする道を通り、写真を撮ることにした。気温は夏のように高いとはいえ、空気は秋である。カラッとしていて、日陰を歩くのにはちょうどいい。

しかも、空は雲ひとつない青空。あの金色の小さな花を撮るには絶好のチャンスだと思った。

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まぶしいほどの日差しを浴びたキンモクセイの花は、金色をさらに輝かせて咲いていた。今年の9月に咲いたときには長雨が続いていたから、青空をバックにしたキンモクセイの花は、一層キラキラして見えた。

お気に入りの写真が撮れたので、SNSに投稿する。投稿する際には、キャプションが要る。

そうして、私は考えた。

「キンモクセイは、二度咲く。」これだけのことを伝えるのに、なんて書けばいいだろう?


「キンモクセイの花は、1年で2回咲くものがあるんですって」

「キンモクセイって、2回咲くんですね。知らなかった!」

「あなたのまわりのキンモクセイも、2回咲いてますか?」

「キンモクセイ、再び」

「キンモクセイが1年で二度咲くことは、あまり知られていない」

前半の書き方は、やわらかくて女性らしい。後半の書き方は、カタくて新聞っぽい。

だけど……どれも、なんだかイマイチだなぁ。

ことばを細かく見れば、「2回」なのか「2度」なのか「二度」なのか。

「1年に2回」なのか「年に2回」なのか「再び」なのか。

「キンモクセイ」なのか「キンモクセイの花」なのか。

どれも、間違いではない。間違いではないからこそ、かえって迷う。


迷って悩んで、私はハタと気がついた。

「○○は二度△△する」という語感を、どこかで聞いたことに。


そうして、思い出した。ものすごく有名な映画のタイトルだった。

「郵便配達は二度ベルを鳴らす」

映画のタイトルとしても有名だが、実はもともと小説だったことを、私は知らなかった。そして実は、この作品に「郵便配達員」は登場しないことも、知らなかった。

こんなことを言ってはなんだが、今、私にとってこの作品の内容はあまり関係がない。関係があるのは、そのタイトルの語感である。

「郵便配達は二度ベルを鳴らす」

なぜ、「郵便配達員」ではなくて「郵便配達」なのか。

なぜ、「2回」ではなくて「二度」なのか。

なぜ、「ベルを二度鳴らす」ではなくて「二度ベルを鳴らす」なのか。

そう思って調べてみたら、原作の英語から日本語に翻訳する際、翻訳者によって少しずつタイトルが違うことがわかった。

日本語では、1953年に飯島正の訳で荒地出版社から『郵便配達はいつもベルを二度鳴らす』という題名で出版されたが、その後、1960年代に田中西二郎の訳した『郵便配達は二度ベルを鳴らす』という題名が普及し、以降に映画の各作品が日本公開される際にはこのタイトルが用いられた。1981年に出版された小鷹信光の新訳では、『郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす』とされた(ウィキペディアより)

『郵便配達はいつもベルを二度鳴らす』

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』

『郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす』

同じような意味だが、微妙に違う。「いつも」がついているのか、ついていないのか。「郵便配達」なのか「郵便配達夫」なのか。

きっと出版されるたびに、翻訳者も出版社の担当者も、かなり悩んだのではないだろうか。

だけど、私がよく覚えているタイトルは、明らかに『郵便配達は二度ベルを鳴らす』である。「映画の各作品が日本公開される際にはこのタイトルが用いられた(ウィキペディアより)」からだと思う。


と、いうことで、私が撮ったキンモクセイの写真には、こんなキャプションをつけた。

「キンモクセイは二度花を咲かす」


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びんこ/長谷川敏子
東京在住のライター。山形→沖縄のテレビ&ラジオ局→東京。書く&司会も。得意分野は沖縄・酒・食・ビジネス系など。「いろんな自分があっていい」なのでnoteのテーマは絞らず、徒然に書きます。仕事内容はホームページをどうぞ。 https://www.binco-hasegawa.jp/