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No.210より 「国産ハードエンデューロ専用タイヤを生んだ情熱」

それまでのオフロードタイヤの常識を覆す製品は、エンデューロシーンに変革をもたらし、以降のタイヤ開発にも強い影響を与えた。代表的な製品であるiX-09W GEKKOTAは、当初、レースに参加するライダーのために試験的に販売を開始。のちに正式なプロダクトとしてリリースされた。



GEKKOTAを作った男達

Interview 飯塚勧
井上ゴム工業株式会社

Text : 春木久史
Photo : ENDURO.J


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―― それまでの常識では考えられなかった、極端に柔らかいコンパウンドを持ったオフロード用タイヤですが、こうしたタイヤが製造・販売できるようになったのは、どのような理由からなのでしょうか。製造技術、あるいはマテリアルの面でブレイクスルーがあったのでしょうか。

飯塚 むしろ発想の転換に拠るものだと思います。技術的には既存のものの延長ですし、こういう柔らかいコンパウンドというのもトライアルタイヤやミニバイクレース用のタイヤで使用している既存の配合がいくつもありますから。当時、AMAエンデューロクロスなどで、モトクロスタイヤや普通のエンデューロタイヤが、岩や丸太などで滑っているのも見たり、それに対応するため、トライアルタイヤを使うライダーがいたり、また、トライアルタイヤでは泥つまりするので、加工してブロックを間引きしたタイヤを使っているのを見たりして、じゃあそれならトライアルタイヤのように柔らかく、包み込むようにグリップし、かつ排泥性のあるパターンを持ったタイヤがあったら良いのではないかと考えたのが始まりです。
 モトクロスは他社が相当力を入れていますし、国内営業になった当時、JEC(全日本エンデューロ)では欧州メーカーのタイヤシェアが非常に高かったので、まずは敢えてニッチな市場を狙って勝負したいなと思っていました。社内でも、そんなタイヤが、採算がとれるほど売れるだろうか、と疑問視されていました。当然だと思います(笑)。日本でもまだハードエンデューロという呼び方はされていなかったですし、ジャンルとして確立したものではありませんでしたから。

―― 最初はテスト的な販売でした。

飯塚 極端なキャラクターで、一般の方に使用していただけるものではなかったので、最初はテスト的な発売とさせていただきました。2012年に、CGC池の平(中部)のレースに参加するライダーを対象に30本だけ限定発売したんです。初期のモデルは、とにかく構造を柔らかく、またサイドウォールもよくたわむように薄く設計していましたから、グリップ力が強い反面、耐パンク性能が低いものでした。その後、改良して現在の仕様になるんですが、サイドウォールの厚みと剛性を増しています。

―― ネガティブ比が高く、コンパウンドが柔らかいために耐久性を持たせるのが難しかったのではないかと想像しています。ゴムが柔らかいということは、減るのも早いのだ、と理解していていいのでしょうか。

飯塚 はい、一般的にはコンパウンドが柔らかいほど摩耗は早いと言えます。もちろん路面との相性や、配合する材料の違いもありますが、おおむねそういうことになります。GEKKOTAの場合には、摩滅の問題ともうひとつ大きな課題として、強いパワーをかけた時にも、ブロックが根本からちぎれてしまわないようにすることが必要でした。タイヤの基本骨格を作るケーシングの強さと、ブロックの強さのバランスですね。ケーシングが強すぎるとブロックにばかり負担がかかってちぎれやすくなる。トラクションがかかった時に、ケーシングとブロックがバランスよく荷重を吸収することで、グリップ力と耐久性が両立するんです。ケーシングというのはタイヤによって異なりますが、ナイロンやポリエステル、レーヨンなどのコードにゴムを被覆したものでカーカスとも呼ばれています。素材に何を使用するか、またコードの角度をどのようにするかによってケーシングの強さが変わります。10種類以上の組み合わせをテストして、グリップ力、フィーリング、そして耐久性とのバランスを探りました。

―― コンパウンドとはどのように構成されていて、硬さはどのように決められるのですか?

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