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【マンガ紹介 #7】インハンド【微ネタバレ】

根絶されたハズの伝染病、研究家としては見過ごせぬため感染経路を確認しながら判明したのは、バイオテロの可能性だった。


作品データ

巻数:6巻(完結済み)
作者:朱戸 アオ

あらすじと1話

ビル上に曇天「君の右腕を貰っていくよ紐倉。君の幸運の右腕を」フィクションのような腕の千切れ方をかき消すのは悪夢。実際に無い右上の代わりに義手を取り付け、朝を迎えるように白衣を着る。
「Hakone Tropical Plant Garden」という大きな玄関アーチに、名札の所に上書きするように「紐倉研究所」。補佐の高家が主任の紐倉から「またコックが逃げた」と言い、彼らの環境が特殊過ぎていることを示唆する程の動植物とジャングルのような背景。この温室を買える程の高い給料を出してるが定期的に高家以外の従業員が辞めるヘンテコな研究所。
自身のストイックさを表すように補佐が精査済みでも溜まりに溜まったメールを所かまわず削除する。それを止める高家。講演に学術査読にバイオセキュリティのレビュー。「炭疽菌ワクチンの改変」「シカに対するオルフウィルスを用いた不妊ワクチンの開発」等、素人が目にするだけでも要精査な内容であることが伺える。「俺の専門はバイオセキュリティではない!」と声を荒げるが即座に「内調健康危機管理部門の牧野」とてつもなく必要あって偉い所から電話を受け取った瞬間に切る。
バイオセキュリティとはインフルエンザや炭疽菌等のバイオテロに論文内容が転用できてしまえそうな安全保障に基づいて自己規制をかけるべきかを問う領域のこと。幾度の牧野らしき人物からの電話を受け取り、物理的に破損させることで電話を受け取れなくさせようとしたが、予期してた牧野は研究所に既に訪れていた。どうやら過去のやり取りにて彼女のアドバイザーをすることを取り付けているらしい。足掻くように紐倉が好きそうな寄生虫に関する論文を読もうとするが、牧野から見せられた写真には教科書だけでしか見たことない、1977年に人類が勝利を飾る形で終止符を打ったハズの天然痘を患う現代の患者が映されていた。
以降の内容は天然痘の事件に差し迫るための基礎的な事実の確認。天然痘の症状、1977年の勝利に伴う現代ではほとんど打たれてないワクチン実態、そしてその付近の年代のずさんな管理実態を晒してる2大国。生物兵器転用予定のソ連が管理不行き届きで無くしたという噂と、アメリカ国立衛生研究所が引っ越し時に段ボール内の瓶の中にあった「1954年天然痘」という、ピクルスでも置いてたかのようなずさんな管理状態。また理論上ではあるが数十万で人工合成も可能だとか。また「天然痘」に似た症状を引き起こすサル痘は現在でもアフリカで進行中。
そして誠に残念なのがこれらは全て対症療法しかないという現実。一刻も早く天然痘の感染経路を探す紐倉と高家。
酷い「脅し」のような捜査を(恐らく著しく非公式な捜査)実施した矢先に、第一感染者が居たホテルにてベッドメイキング直前のタオルにてシュッとスプレーする怪しげな男を監視カメラの記録で見つけてビンゴ。このままホテルを封鎖すれば終わりそうな矢先に、ウィルス解析をしていた牧野から連絡があった。
「天然痘と同じポックスウィルス科」且つそれを「オルフウィルス」であることが判明した。
試し読みは以上になるため終了とする。

惹かれた点

第1話内にあったアムヘルスト(アマースト)卿が天然痘に感染しているタオルを戦争中のインディアンに向けて贈与することを示唆した(現Wikiでは卿が当作戦を示唆し部隊が承認なしで実行した可能性が高い)点を話すように、まったくもってバカにできない手口をいけしゃあしゃあと紹介する、この漫画の姿勢は余りにも挑戦的過ぎる。だが同時にいつでもこういうことが起こりえることの示唆でもあり、塩漬けにされたままの倫理観や知識だけではいともたやすく裏切られその毒牙が大き穿たれることも示してる。
その傾向はこの1話だけに留まらず、様々な規模の研究機関と国家団体並びに怪しい団体の登場や、疫学だけでなく基礎的な四肢、血、脳、遺伝子、精神にも関わる。比較的健康体が多い日本でも、インハンドが取り扱う議題があまりにも身近過ぎて固唾を飲まずにはいられない。
これら話は「○○編」のように区分けされており「ペルセポネの痘」編として1話がタイトル付けされてる。神話の代表格または古代ギリシャの冬に対する解釈の現れとして有名な地獄の王ハデスに嫁入りせざるを得なかったペルセポネ。そんな彼女の悲劇とも愚行とも呼べる様子を、人類が長らく苦杯、いや大敗を喫していた天然痘と結びつける点に、神話マニアとしては芸術点の高さに圧巻されるばかりだが、自分が知らないだけで学術論文界隈では高度な詩的表現は日常茶飯事なのかもしれない。

若干ネタバレ有りの感想

正直アスリートの件は大変衝撃だった。またその重責から考えられる期待と実態が赤裸々に紹介されてる場面を見ると、努力だとか勝利だとか折れない心なんぞはフィクションの延長線上とも思えてしまうし、アスリートたちが身近に魅了されまくってる様子もあり、何故肩を竦めるのかも頷ける。
また紐倉が患っている幻肢痛に関してここまで細かく深入りした作品は本作以上にないと思ってる。筆者は存在や原理自体は理解してたが、それらの発生理由と解消方法とその有用性がスルスルと読み込めた。
「次に似たことがあったら、こういう方面から知ろう」と言った場合には実質的に時事とも取れてしまうのか。だが作者の意図としてはより深くこういう事件の実態とかを知った上で正しく畏れて欲しいのかもしれない。

最後に

何を根拠に疫学や健康に関する知識は測り難いが、筆者がバイオインフォマティックスの道に行った世界線もあったので実は結構身近に感じていたが、この漫画を通して改めて自分の無知を知らされた。
またサスペンスでありつつも深堀は忘れず、かといって大作程の巻数を要していないのでスナック感覚で読める、は誉め言葉になるか分からないが、少なくとも筆者は1巻を深夜0時に購入して1巻読み終わった後に慌てて全巻を購入して読み耽ったら朝5時になったので、以上を踏まえてどう読み解くかは読者たちに委ねたいので是非皆さんも手に取って頂きたい。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。

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