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実験体 | weekly vol.0098

「99回ダメでも、100回目には成功するかもしれない。そう励ます人もいるようだけれども、アインシュタインは同じことを繰り返して違う結果を期待するのは狂人であると言ったとも言われている。どちらが正しいのか、というのは、実のところ結論を下すまでにどのくらいの時間が残されているのかに大きく依存するのだろうと思っている。まだまだ時間があるのなら、100回試すのも悪くないだろうし、崖っぷちにいるなら次はないわけだ。今欲しい結果が得られそうかどうかを見極める能力というのが勘だったり、あるいはそれを裏付ける経験というものなのかもしれない。今欲しいのものが何かを明確化するのも能力の一つだ、崖っぷち、という例を引くのであれば、命綱を想起するのか、翼を想起するのかで運命は分かれるかもしれない。何かを創造するというのは、その時々の分岐点での選択の積み重ねの末に、見たことのないものを生み出すということなのだろう。もちろん、その分岐点で飛躍するようなアイディアが出てくるかもしれないけれど、それは突然出てくるわけではなく、それまでの積み重ねの結果なのだということを忘れてはいけない。とはいえ、世の中にはとんでもない飛躍を見せてくれる人もいるので一概には積み重ねが大事、とは言えないけれども、ないよりはあった方が飛びやすいよね、ということは言えるのではないだろうか。まあそれもこれも残された時間と得たい結果によるのだろうけれども。」

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彼女は音読をやめると窓の外の虹を眺めた。虹は太陽光を受けて七色に輝いているが、地場の影響でアーチ型ではなくなっておりひどく歪んだ形をしている。地球の磁場は大きく乱れてしまい、大気の流れも地場の影響を大きく受けて、気候は不安定になっているが、気候予測テクノロジーはより進化し、ほぼ正確に気候の変化を予知し対策を促すようになった。そもそも人類が外界での活動を極力減らしているというのもあり、自然災害の影響というのは通常の社会運営においては織り込まれている変化ということになりつつある。一時期、気候を操作しようという力づくな試みもいくつかあったが、意図していない副作用というか、複雑系である気候の予測が不十分で、予想外の自然災害を招いてしまったために、操作から適応という方向にシフトしてきた経緯がある。とはいえ、一時的にでも気候を操作しようという壮大な計画を支持してしまう程度には人類は追い詰められていたわけで、なんとかそれを乗り越えてきた末に今があるということをもっと自覚せねばならないのだろう。

かつて湾岸エリアと言われた場所はすでに深く海の底に沈み、当時のタワーマンションの頂上部が海上に一部その姿を見せているだけになっている。海洋資源研究所の試算によると、海中のタワーマンション跡地は海洋生物には意外と住み心地がよいようで、人魚の繁殖の拠点になっているという。人魚自体の観測報告も増えており、生態系は着実に変わりつつあるようだ。

試行錯誤というのは時間がかかる。因果関係が分からない中で手探りで試行を繰り返していくわけで、当然成功よりは失敗の方が多い。それを多くの人が理解して、社会の政策に適用できるようになるまでにはとても長い時間がかかった。思考実験や社会実装など、言葉は色々と生み出されてきたものの、失敗の可能性を受け入れつつ、実験に自らの人生を差し出すとなるとやはり覚悟が必要なのだろう。なし崩し的に様々な試みがされていく中で、迷走し、諦めとともに受け入れるという姿勢の人が多かったように思う。しかしあの日を境に世界は前へと進み始めたのだった。

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4月も間もなく終わろうとしておりますが、我らが日本は、一部地域で3度目の緊急事態宣言が発出されるような事態になっております。ワクチンは5月に入って安定的に供給されるというような話もありますが、我々小市民にはいまだに案内もありませんし、どうなるのでしょうか。一方で初夏の気持ちよい気候に誘われ、徘徊、路上飲みをするものも多く生み出しているようです。まあ実際、この時期は店内よりも外の方が気持ちよかったりしますし、快/不快を判断基準にするのであればその行動は理解できないものではないのかもしれません。4月、5月の夜にほろ酔いで散歩するくらい気持ちのいいことはそうはないのではないかと思います。家にずっといるとそういう感覚が薄れてきてしまうので、その点は季節を楽しむという人生を豊かにするであろう営みから遠ざけてしまうよくない点かもしれません。街の灯が消えてしまうと怖いので余計に出づらくなりますしね、東京都の意図としては成功なのかもしれません。

相場はアフターコロナの織り込み中という感じですが、正直なところ毎日なぜ上がったり下がったりしているのかサッパリ分かりません。分からないなりに相場を張っている以上は方向性を見極めようとしているわけですが、気が狂いそうですね。アルゴリズムが動かす相場というのはこういうものだ、というのを早く体得するか、自分もアルゴリズムで取引する仕組みを
早々に作らないといけないのかもしれません。しかし、スイッチを入れるとお金を稼いでくる仕組みというのは果たして楽しいのでしょうか。稼いでくれれば楽しいに違いありませんが。

家の近況ですが、早くも建築概要なるものが出てきており、建て替える気が満ちてきている感じがいたします。一方で、階下の住人から、夜中に子どもが走り回る音がうるさい、と怒られており眠剤を飲んで寝てしまっているため全く状況が分かっていないまま謝罪を要求されるという日々を過ごしておりストレスフルです。集合住宅というのはこういう点が最悪だなと思います。早く海辺の戸建ての家に住みたいです。

では、本日の話題である試行錯誤を許容する社会へ、という話を。

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