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ベッドひとつ分の個室。

ICUの天井は3日間もいたのに覚えていない。

意識不明だったこともあるし、意識が戻ってからはベッドを起こしてもらっていたから。


病棟のあてがわれた4人部屋は、最初わたし1人だった。

窓際のベッド。緊急入院だったからタオル一枚手元にない。ただ横になることしかやることがなかった。

トイレに通う人の足音、重症患者のうめき声、機械の電子音、それなりに音はしていたはずだけど、カーテンを閉めるとそこは静かになった。

眺める天井は白。カーテンレールだけが見えて

「独りなんだなあ…」


昼食も夕食も独り。

部屋に独りだから、なんとなく不安でカーテンは少しだけ開けておいたら、消灯時間にピシッと閉められてしまった。

まだICUでの疲れが残っていたのかすぐに寝ついたけれど夜中に起きた。病室だけでなく、廊下にも誰もいない。

わたしは元来一人でいることが苦ではない。

病気はとても大きな問題のはずなのに、不思議な開放感を味わっていた。


3日後、脚を痛めたご年配の女性が同室になった。

ご挨拶をして、常識のある節度を持ったお喋りをする人だとわかって安心したけれど、その頃には独りの空間がやけに気持ちよくなっていた。

日中はなんだかんだと看護師さんも出入りする。トイレにも通う。チームのドクターからは「寝てばかりいると体力落ちるから起きててくださいね」と釘を刺されていたのでフラフラ売店など覗いていた。

夜はカーテンを閉めて、天井を見る。

ベッドひとつ分だけ、好きにできる空間。

家族の世話や会話、友人との外出や食事、どれも楽しくてわたしを形造る大切なもの。けれど物理的にたった独りになってみると案外ホッとしている自分がいた。

誰にもひとかけらも邪魔されない時間と空間は、なんだかとても贅沢をしている気分だった。




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