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行動科学おすすめ本解説①:人を説得したいときに押さえておくべき5つのポイント


ポリシーナッジデザイン合同会社の植竹香織です。

このシリーズでは、仕事や生活に活用できるヒントが盛りだくさんの行動科学(行動経済学や心理学)の本をご紹介していきます。

今回は、「THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術」(ジョナ・バーガー著/かんき出版/2021年)から、そのエッセンスをご紹介します。



仕事でも、私生活でも、自分の意見や考えをなかなか人に理解してもらえなかったり、反対されたりしてしまうことってありますよね。

そんなとき、あなたならどうしますか?

私たちがよくやってしまうのは、さらに自分の主張を裏付ける証拠を集めたり、資料を作り込んだりして、自分の正しさを主張すること。

押して押して押しまくる(Push, push and push)という行動です。

その結果、相手は納得してくれるのかというとそうは限らず、さらに頑なになったり、関係がこじれてしまったりすることも多いものです。

相手のために良かれと思ってやったことが、トラブルのもとになってしまうこともあります。

では、自分の考えや意見を、相手にスムーズに理解・納得してもらうためには、どうしたらよいのでしょうか?

今回は、立場や考えの異なる人に対して、自分の意見や考え方をわかってもらいやすくするために押さえておきたい5つのポイントを紹介します。

これらのポイントを理解した上でコミュニケーションをとれば、よりスムーズに納得してもらえるようになるでしょう。

ポイント1:  心理的リアクタンス

心理的リアクタンスとは、人に何かを指示・命令されると反射的にそれに反発したくなる心の動きのことです。

みなさんも、子どもの頃、「宿題やりなさい」と言われてすっかりやる気がなくなったことはありませんか?

人間は、自分の自由や自主性を尊重されないと、理屈とは関係なく反発してしまうものなのです。

そういう性質を持っていることをふまえると、たとえいくら正論であっても、それを押し付けてしまったら相手を説得できないし、行動変容にもつながらないことが納得できるかと思います。

この本では、この課題への対策として、
・相手の主体性を大事にする
・自分が相手を説得するのではなく、相手に自分で自分を説得させるようにする
・選択肢を与える(相手に選ばせる)
・理想と現実の差に気づかせる

といった手法が紹介されています。

「理想と現実の差に気づかせる」
の例として、相手の持つ理想と現実の差を、相手自身に気づかせるような仕掛けを用いたタイの禁煙キャンペーンが紹介されていました。

そのキャンペーンの内容は、

・街なかでタバコを吸っている大人に対して、子役が「タバコの火をちょうだい」と話しかける
・大人は、「タバコは健康に悪いからダメだよ」と伝える
・そう答えた大人に対して、子役が「あなた自身の健康も心配して」というメッセージと、禁煙サポートのための電話番号を渡して立ち去る

というものでした。

子役の問いかけとそれへの自分の反応によって、「自分は健康に良くないと分かっていながら喫煙している」、つまり理想と現実が乖離していることに気づく仕掛けとなっているわけです。

ポイント2:保有効果

保有効果とは、今現在自分が持っているもの(保有しているもの)を、非常に高く評価してしまうという心の動きのことです。

人は現状から変化した方が良いと分かっていても、今持っているものを捨てたり、今持っている立場から変わったりすることができないものです。

皆さんも、携帯電話が不調で新しいものに変えた方がいいと思っていても交換せずに使い続けたりしたことはありませんか? 

この保有効果は、得を得ることよりも損を避けることを優先する「損失回避」、合理性を欠いても現状からなかなか抜けられない「現状維持バイアス」、本来関係ないはずの過去の状況に囚われて合理的な判断ができなくなる「サンクコスト(埋没費用)」などにも深く関係しています。

この本では、
・何もしないことのコストを明確にする
・退路を断つ(今までと同じではいられないように仕組みを変える)
・変化を、新たな状況への変化としてではなく、これまですでにあった状況への復帰(元に戻る)として表現する

などの手法が紹介されています。

ポイント3: 距離

「距離(Distance)」とは、自分から遠すぎるもの、人、意見には拒否反応を示してしまうということです。つまり人それぞれ現状の立場が異なるので、それに伴って変化できる幅が異なるということです。

例えば禁煙という行動変容を促したいとき、どちらの方が説得したり、行動変容が実現しやすいと思いますか?
・もともと禁煙したいと思っているが、なかなかできていない人
・禁煙しようと全く思っていない人
この「距離」の考え方では、もともと禁煙したいと思っている人の方が「禁煙」との距離が近いので行動変容をサポートしやすいというように考えます。

では、禁煙を全く考えていない人に対してはどうしたら良いでしょうか?
このままでは、「禁煙」までの距離が遠すぎるため、スモールステップとして、その人が受け入れられる範囲の変化を提案します。そうして、徐々に自然と「禁煙」を受け入れられる領域まで近づけていくことが重要だということです。

ポイント4: 不確実性

変化にはどうしても不確実性が伴いますが、人は、不確実だったりあいまいなことそのものを嫌う傾向があります。それが理由で、行動変容が阻害されていることもあります。

そのような場合への対応としては、
・お試しや体験が気軽にできるようにする
・最初に使うコストやリスクを下げる

などの手法が紹介されています。

オンラインショッピングでは、無料で試着でき、合わなければそのまま返品できるという仕組みを取り入れているところは多いですよね。

また、ホテルの宿泊者に対して試乗サービスを提供している高級車の例が紹介されています。わざわざディーラーに行くのは面倒でも、ホテルに宿泊したついでに利用できるのであれば、試乗する人が増え、中には気に入って購入する人も出てくるでしょう。

ポイント5: さまざまな方向から働きかける

あなたなら、どちらの映画を見てみたいですか?
・一人の同僚から勧められた映画
・同僚、友人、家族、地元の同級生など、多くの異なる方面の人から勧められた映画

人は、同じ意見でも、その情報源の種類や大きさに影響されます。ある人に対して、多くの人が、多くのルートから働きかけることが有効だということです。

例えば、高齢者に健康維持のための運動習慣を身につけてほしい場合を考えてみましょう。
この考え方を用いると、行政や同居している家族から働きかけるだけでなく、

  • 別居している孫

  • 仲の良いご近所さん

  • 普段かかっている病院の医師や看護師

  • よく行くスーパーの店員さん

など、その人が関わりを持つ多くのルートから、異なる人々に同じことを勧められることで、納得してもらえる可能性が高まるかもしれません。

まとめ:人間の考え方の癖を理解した上で、行動変容を促そう


いくら自分の言っていることが正しかったとしても、相手に納得してもらうことができなったり、相手の行動変容につながらなければ意味がありません。

多くの人が持つ考え方の癖(バイアス)を理解した上で、効果的なコミュニケーションを取れば、行動変容につながる可能性が高まります。

今回ご紹介した5つのポイントのうち、まずは取り入れやすそうなものから始めてみてはいかがでしょうか。

<より深く知りたい方へ>

今日ご紹介した5つのポイントは、こちらの本で紹介されています。
さまざまな具体的事例とともに、非常に読みやすくまとめられていますので、
ぜひ手に取ってみてください。

THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術(ジョナ・バーガー著)
かんき出版、2021年


文責:植竹香織(ポリシーナッジデザイン合同会社)

この記事は、ポリシーナッジデザイン合同会社のBlog記事からの転載です。

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