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日本の自治体でのナッジの広がり⑦:福島県庁におけるナッジラベルを活用したごみ分別行動促進(一般財団法人電力中央研究所+ポリシーナッジデザイン)

日本の自治体におけるナッジの実践をお伝えするシリーズ、今回は、2021年度に福島県で実施された「ナッジラベルを活用したごみ分別促進ナッジプロジェクト」についてご紹介します。

本プロジェクトは、福島県の省エネ行動促進事業の一部として実施された、一般財団法人電力中央研究所およびポリシーナッジデザイン合同会社の共同研究です。

<本記事のポイント>

・海外ナッジユニットのエビデンスを参考にナッジラベルを開発し、日本でも分別行動促進効果があるのかどうかを福島県庁内で実際に検証しました。

差の差分析の結果、意識的選択」「簡素化」を取り入れたナッジラベルにより、平均6ポイント(約38%)の分別率の改善効果が見られました。また、その効果は介入後も継続することがわかりました。

課題:なぜごみが適切に分別されないのか?


 みなさんは、ごみを捨てるとき、分別ルールを注意深く確認しますか?

 そもそも、ごみの分別は、リサイクル可能なものを分けて回収し、スムーズにリサイクルするために行われるものです。基本的には捨てる(ごみ箱に入れる)段階で消費者が適切に分別を行うこと、というルールになっています(循環型社会形成推進基本法)。

 とはいえ、地域や家庭ごみ・事業ごみなどの区分によって、同じごみでも異なる分類を求められたりと、分別ルールそのものが複雑でわかりづらい。そして、頻度の高い日常的な行動であるゆえに、捨てる際にじっくり分類を考えたりすることは少なく、習慣的、無意識に意思決定や行動が行われているのではないでしょうか。

 そのため、①ルールをわかりやすく示すことと、ごみを捨てる人に、②ごみ箱にごみを入れるタイミングで自分の行動に意識的な注意を向けてもらうことが必要だと私たちは考えました。

先行研究:カナダでごみ分別効果のあったナッジとは?


ルールをわかりやすく示し、かつ分別ルールに注意を向けてもらうにはどうしたらよいでしょうか?

先行研究に、カナダのオンタリオ州ナッジ・ユニットが実証し、分別促進効果が確認されたナッジラベルのエビデンスがありました。

オンタリオ州裁判所の陪審員控室では、ごみの分別を適切に行なってもらうために、現状のラベルとナッジラベルをランダムに掲示し、ラベルが分別行動に与える効果を検証しました。


検証された4種類のラベル


この4種類のポスターを比較したところ、最も分別促進効果が高かったのが、こちらの「質問文(Question)」バージョンでした。

Source: Behavioural Insights in Ontario: Update Report 2018


<正しく分別された割合>

Source: Behavioural Insights in Ontario: Update Report 2018


日本でもごみ箱の近くに何らかのラベルがあることは少なくありませんが、このような形のものはあまり見た記憶がなく、ぜひ日本でもその効果を測りたいと思い、これをベースにしたナッジラベルを作ることにしました。

なお、介入を検討する際には、費用、手間、受容性などの観点から、横展開が容易に行えることを重視しました。


<カナダ・オンタリオ州の実証実験の詳細はこちら>


日本でも効果のあるラベルの開発

本実証では、実際に設置する場所に合わせてラベルをローカライズしました。

本実証で開発したナッジラベル(デザイン:Yuko Koike)


このラベルは、「意識的選択(deliberate choice)」「簡素化(simplification)」の2つの要素のナッジが含まれています。

「意識的選択」とは、普段は無意識でおこなっているような行動に対して、注意を喚起することを目的としたナッジです。

「それは燃えるゴミ?」という質問文形式のメッセージは、「今自分が捨てようとしているこのごみは、燃えるごみでよかったんだっけ?」と一度立ち止まり、自分の行動を振り返るきっかけとして機能することを目的にしています。

「簡素化」は、情報をシンプルにわかりやすく提示することです。情報の量を絞ったり、直感的に理解できるようなデザインにより、情報過負荷(information overload)を避け、望ましい行動を促すことができる仕掛けです。

このラベルでは、燃えるごみと直感的に理解できるように、炎を連想させる赤を基調にしました。最下部には、ごみの排出状況の事前調査をふまえ、実証場所にて燃えるごみに混入してしている代表的なごみ3つをアイコンで示しました

ナッジラベルの掲示場所は、ごみを捨てる際にナッジラベルが必ず目に入るようにすることが重要であるため、ごみを捨てる際の動線を確認しながら、設置部署の方と相談して決定しました。

効果検証

2021年11月〜2022年1月の6週間、人数の規模やごみ箱の設置状況が近い4つの部署(環境系2部署、その他2部署)にて行いました。

介入中の様子

4部署を介入群(ナッジラベルを設置するグループ)と対照群(何も設置しないグループ)に割り当て、ナッジラベルの設置前・設置中・設置後の期間、次の項目を測定しました。

①燃えるごみ中のプラスチックごみ混入率
②燃えるごみの重量
③プラスチックごみの重量
※①は手計測、②と③はIoT計量計で自動計測

介入中の様子

日本でも同様にごみ分別効果が見られた

■結果
差の差分析の結果、ナッジラベルを掲示した介入群では、燃えるごみへのプラスチックごみ混入率が平均約6ポイント(約38%)低下しました。その効果は、ラベル取り外し後の期間にも続きました。

燃えるごみの重量は、介入中の期間には対照群のごみ排出量が増えているのに対して、ほぼ変わらない傾向が見られ、介入が増加を抑制したと解釈できます。プラスチックごみの重量は、群ごとの傾向の違いは特に見られませんでした。

■考察
介入群では、介入中に加えて、介入後の期間にも混入率が下がり続けました。これは、正しいルールによる分別が持続し、習慣化したと解釈できます。

ただ、それが、正しい分別が行われたからなのか、そもそもプラスチックごみとなるようなものの購入を控えたからなのかは、ごみの重量データからは判別できませんでした。

今後考えられる取組は?


本実証では、「意識的選択」「簡素化」を取り入れたナッジラベルにより、平均6ポイント(約38%)の分別率の改善効果が見られました。また、その効果は介入後も継続することがわかりました。

本実証の課題としては、短期間の検証のみであったため、もう少し期間を長くとった場合にどのような変化が生じるか検証することが望ましいと考えられます。

社会実装時の効果としては、介入当たりのコストは非常に安価(A4用紙へのカラー印刷費用のみ)であり、印刷したラベルをごみ箱近くに掲示するだけですので、横展開が容易です。また、仮に福島県全県で展開した場合、最大年間約8万t-CO2の削減効果が期待できます(分別されたプラスチックが全てリサイクルされたと仮定した場合)。

今後の取組としては、本実証のターゲットは県庁に勤務する行政職員の職場(執務室)でのごみ捨て行動でしたが、対象者や場所の性質もふまえて介入に効果があるのかどうか(例えば学校で子どもに対してだと効果が見られるか?あるいは、不特定多数の人が利用する一般的な公共の場では効果が見られるか?)、またその効果がどの程度持続するのかがわかると、各施設管理者がエビデンスに基づく施策を行う際の助けになります。


(後記)

今回は、2021年度に福島県庁で行われたごみ分別促進ナッジについてご紹介しました。

海外のエビデンスを参考に、直感的理解を促すシンプルなデザインと、質問文により注意を向けるナッジを取り入れることで、ごみ分別の促進効果が見られました。

ラベルを貼るだけですので、さまざまな場所や場面で応用可能性の高いナッジではないでしょうか。

もし、自分たちの管理している場所でこのナッジを試してみたい!という方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください!


行動経済学会でのポスター発表資料(2022年12月17日)

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本プロジェクトに関するお問い合わせはこちら

(執筆:ポリシーナッジデザイン合同会社 植竹香織)

謝辞:本実証にご協力いただいた福島県庁の皆様に心より感謝申し上げます。

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