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イベントレポート:防災ナッジ講座(あれから12年スペシャル@仙台市)

今回は、2022年11月27日に仙台市で行われた防災イベント「あれから12年スペシャル」での「ナッジ講座」についてレポートします!

「あれから●年スペシャル」は、東日本大震災の経験を記録し、伝える活動を行っている仙台市役所職員の有志のグループ Team Sendai が中心となる「あれからスペシャル実行委員会」主催のイベントです。同実行委員会は、2022年2月に消防庁主催「防災まちづくり大賞」の「消防庁長官賞」を受賞。日々の伝承活動に加え、メンバーが中心となり、防災士、NPO、市民センター職員なども実行委員として一緒に企画運営をして、全国の行政職員や防災関係者が参加する本イベントを開催しています。今年は3年ぶりの対面開催となり、現地とオンラインで合わせて90名ほどが参加しました。

「あれから12年スペシャル」では、「防災ナッジ講座」として、横浜市行動デザインチームの髙橋勇太さんによるレクチャーと、ポリシーナッジデザイン合同会社の植竹香織によるワークショップが行われました。

当日のプログラム

「ナッジ講座」前半のレクチャーでは、横浜市行動デザインチームの髙橋さんから、行政でナッジが活用されている背景や必要性、さらに、ナッジの具体的なチェックリスト「EASTーEasy(簡単に)、Attractive(魅力的に)、Social(社会的に)、Timely(タイムリーに)」のそれぞれの要素をエビデンス(根拠)とともに紹介がありました。

ナッジを活用していくための手順として、市民等の施策対象者の行動プロセスを洗い出し、そのプロセスごとにどのような阻害要因があるか検討し、阻害要因を取り除く(あるいは促進要因を強化するための働きかけを行う)必要があることを、具体的な事例とともに紹介しました。

ナッジ講座(レクチャー)の様子

「ナッジ講座」後半のワークショップでは、植竹より、まずは具体的に防災分野でナッジを活用していただくために、前述の「EAST」の観点で防災事例を整理してご紹介しました(概要はこちらのYoutubeからもご覧いただけます)。

また、これまでの防災啓発施策との違いとして、人が合理的に行動することを前提とした「ジャッジ」と、人が限定合理的であることを前提とした「ナッジ」という軸で整理する考え方や、その具体的事例をご紹介しました(中野ほか、2022)。

その後、数人のグループに分かれてのワークショップは、防災関係者が陥りがちな悩み「防災イベントに参加してもらうには?」をテーマに設定。

現地とオンラインでそれぞれ数人ずつのグループとなり、EASTや行動プロセスマップを活用して各グループでディスカッションしてもらい、どのような案が考えられるか、検討しました。

ナッジ講座(ワークショップ)の様子

検討後のグループごとの発表では、EASTの各要素を踏まえた魅力のある提案が数多く共有されました。

例えば、あるグループからは「転入者向けの防災&地域交流イベントの開催」という案が出されました。これは、転入してきたばかりの人は、地域の防災知識が少ないこと、まわりの人との交流や人的ネットワークも少ない状態であることから、転入者向けの地域の紹介イベントを実施し、地元の人と交流しながら地域の防災についてもあわせて説明する、というアイディアです。防災と地域交流(Attractive)の一石二鳥のイベントを、転入してきたタイミングに合わせて(Timely)行うという素晴らしい案でした。

多くのグループから出されたのが、このような防災との掛け合わせのイベントです。例えば、地元ならではアイディアとして「芋煮会との掛け合わせ(秋に屋外で大鍋に東北地方の郷土料理・芋煮を作り、参加者に振る舞う催し)」。そのほかに、「防災備蓄食を体験できるキッチンカー」「スポーツ(運動会や地元プロスポーツ)と防災の掛け合わせ」などです。

そのほかには、行政と接点を持つ機会を活かして、子どもの生活環境が変わる保育園や小学校入学などのタイミングに合わせて防災行動を促進する(Timely)というアイディアもありました。

参加者が現場で実際に防災に関わっている方が多いためか、総じて、実現可能性の高い、今すぐにで実施できそうな魅力的なアイディアがたくさん共有されました。

今回のナッジ講座の感想として、次のようなお声をいただきました。

「自治体の業務全般、防災イベントのチラシ作成などに取り入れたい」
「町内会の防災訓練に取り入れてみようと思った」
「興味を持っているが参加する行動への一歩が踏み出せないでいる方へ対して、ナッジを活用して背中を押せるような手法で呼び込むことができると思いました」


本ナッジ講座は約2時間で、概説からワークショップまで盛りだくさんの内容となりましたが、みなさんから出たアイディアの素晴らしさに講師一同とても感激しました。

最後になりましたが、素晴らしいイベントの企画・運営をしてくださったあれからスペシャル実行委員会の皆様、また素晴らしいアイディアを共有してくださいました参加者の皆様に御礼申し上げます。

(後記)

この記事では、私も講師として参加させていただいた「ナッジ講座」についてご紹介しました。

今回のワークショップでは、「防災イベントに参加してもらうには?」をテーマに話し合いましたが、ナッジは防災のさまざまな場面に応用できます

何か行動を促したい際には、
・どのようなプロセスで行動が行われるのか?
・各プロセスには、どのような阻害要因があるのか?
・その原因にはどのような心理的バイアスが影響している可能性があるのか?
・そのボトルネックを克服するために活用できそうなナッジは何か?
と、手順に沿って検討、整理し、また組織内で共有していくことで、行動科学の知見が現場から得られた経験知と融合し、より良いアイディアへとつながっていくということを、今回のワークショップを通じて実感しました。

今回ご紹介した考え方や手法を、ぜひ実際の事業や身の回りのことに活かしてくださいましたら嬉しく思います!

(文責:ポリシーナッジデザイン合同会社 植竹香織)
(写真提供:あれからスペシャル実行委員会)


〜参考資料〜

■EAST チェックリスト(横浜市行動デザインチーム)


■ナッジの観点からみた防災事例の整理(21:50〜)


■月刊ガバナンス2023年1月号にイベント全体のレポートが掲載されています


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