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日本の自治体でのナッジの広がり③:安藤如照さん(岡山県)

このシリーズでは、日本の自治体における、ナッジ実践の広がりについてご紹介します。

3回目の今回は、日本の都道府県初のナッジユニットが設置された岡山県にて、ナッジユニットメンバーとして活躍している安藤如照さん(岡山県)をご紹介します。

安藤如照さん(岡山県)

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ー岡山県では、日本の都道府県初のナッジユニットを2019年11月に設立されましたね。普段はどのような活動をされているのでしょうか。

岡山県のナッジユニットは、有志の活動ではなく、政策推進課の業務として位置付けているのが特徴です。「担当課の職員から相談を受けて、ユニットメンバーがナッジ案を考えて提案し、担当課において実施してもらい、結果のデータをもらって効果を分析する」というのが一連の流れです。ただし、全ての案件がこの理想的な形になるものばかりではなく、既存のデータ分析によるターゲットの特定、あるいはロジックの整理などの課題解決支援を行うものなど、一連のプロセスのうち、部分的な支援を行うこともよくあります。

まずは、「ナッジを使いたい」と思ってもらえるように、県の様々な部署から気軽に相談してもらえるように心がけています。そして、相談を受けたら、ユニットメンバーができるかぎり伴走してお手伝いするようにしています。

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相談もナッジ案を考える際も、ユニットメンバー個人ではなく複数人で行うことを大切にしていますね。そうすることで、多様な視点を取り入れることができます。それから、新規事業立案の中で、EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング:根拠に基づく政策立案)に取り組んでいることもあり、できるだけ客観的な効果検証ができる形をとろうと心がけています。

(ナッジユニット設置時の記者発表資料)


ー今回、ナッジを使って、保健所が飲食店に発送する通知の改善をされたとお伺いしました。どういった経緯で安藤さんたちが関わることになったのでしょうか?

食品衛生法が改正され、飲食店では新たに「衛生管理計画」の作成が義務付けられました。県の保健所では、その計画を作成してもらうための飲食店向け研修会を以前から開催していました。自らこの計画を作るのは大変だし、この研修会に参加することでそのまま必要な計画が作れるので、ぜひたくさんのお店の方に参加して欲しかったのですが、いまいち参加率が良くなかったんです。そこで、通知をナッジの観点から改善してほしいという依頼がありました。

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ーなるほど。お店の方にはメリットがたくさんあるにも関わらず、あまり参加してくれなかったんですね。

はい。その原因を、次のように考えました。まず、「通知の封筒を開封してもらえていないのではないか?」その対策として、開封する手間を省くため、封筒ではなくA4サイズのハガキに変えました。また、従来の通知は、「チラシ風のデザインだったため、他のチラシと紛れてしまったのでは?」と考え、岡山県章を入れるなどして、行政機関からの郵送物だということがはっきり分かるようにしました。そして、法律で義務付けられていることを理解してもらうため、その点を赤字で強調しました。また、「研修会という名前のために、その場で計画を作成できることが伝わっていないのでは?」と考え、「研修会」から「計画作成会」と名称を変え、これに参加せず自分たちだけで計画を作成しようとするとより多くの時間がかかる可能性を示したり、指定の日時に参加できない人のために電話番号も明記するなど、参加してもらうための仕掛けをナッジの観点を参考にして取り入れました。

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ー一目みるだけでも大変わかりやすく改善されていますね。ナッジの大原則である「シンプルかつ明確に」(EASTのEASY)が効いていますね。

はい。字数を減らすことには本当にこだわりました。本当に伝えたいことだけを入れた上で、さらに何度も見直して字数を削って、極力シンプルになるよう仕上げました。我々は通知などを作る際、ついつい情報を盛り沢山にしたくなりますが、以前の発表で勝山さん(茅ヶ崎市)も言われていたとおり、シンプルにすることは、一番伝えたいことが伝わるようにするために非常に重要な点だと感じました。


参考:ナッジのチェックリスト「EAST」(YBiT作成)


ー効果検証の結果はどうだったのでしょうか。

この通知のアウトカムは、「作成会への参加者数の増加」ですが、まずは中間目標として、「作成会への申込者数の増加」をアウトカムとしました。効果検証方法としては、ランダム化比較試験(RCT)という手法を用い、通知送付対象事業者を地域、業種などの要素を考慮した上でランダムに2群に割付け、介入群にはナッジを取り入れた通知を、対照群には従来の通知を送付しました。ナッジを取り入れた介入群では、従来の通知の対照群と比較して、申込率が15.2%ポイント上昇しました(p<0.05で統計的に有意)。エビデンスとして、他の自治体で使えるものになったと思います。また、今回のようにランダム割付が容易な通知の効果検証においては、明瞭で信頼性の高いRCTが行いやすく、説明責任の観点からも望ましいと感じました。

RCT(ランダム化比較試験):介入の対象者と非対象者をランダムに分け、政策実施後に両群のアウトカム比較を行う方法。最も理想的な評価デザインと言われている。


ー素晴らしい事例の共有、どうもありがとうございます。こうした知見が広まることは、行政にとっても市民の方にとっても望ましいことですね。今後の展開としては、どういったことをお考えですか?

最近は、コロナウィルス対策として、ナッジを取り入れた外出自粛のお願いポスターへのアドバイス依頼がありました。



また、稲わらの野焼きを減らすように、農家の方向けのチラシの作成などの案件があります。

YBiTの研究会では他の自治体の方々と情報交換したり、皆さんがそれぞれがんばって取り組んでいる姿を見ると、自分たちも頑張ろうという気になります。都道府県初のナッジユニットとして、県内市町村にも広めていければと思っています。

(岡山県内市町村向けナッジセミナーの様子)


ー安藤さん、どうもありがとうございました。

今回は、業務としてナッジユニットの活動をされている岡山県の安藤さんにお話をお伺いしました。安藤さんは、実はお坊さんでもあり、地域への優しい眼差しに溢れている方です。県に設置されたナッジユニットとして、たくさんの部署からの相談を受け、少しでも施策が良くなるよう知恵を尽くしている姿に、行政職員としての原点を感じました。また、広域自治体として、県内市町村への研修や講演会を行っている点は素晴らしく、全国の都道府県でもぜひこのような取組を期待したいと思いました。

今後も、全国のナッジユニットを引っ張っていくような素晴らしい取組を期待しています!


(衛生管理計画の通知改善に関する発表資料)


この記事は20/5/13のYBiT研究会をもとに構成しています。
聞き手・構成:植竹香織

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