見出し画像

【イベントレポート】特集12月6日『秋の理由』ゲスト:伊藤洋三郎、佐野和宏

福間健二監督特集5日目は、2016年の『秋の理由』。今日のトークゲストは、編集者宮本役の伊藤洋三郎さん、作家村岡役の佐野和宏さんです。本作は、村岡の作品に惚れこんでいる宮本は、次作を心待ちにしているけれど、心身不調にあり書けない村岡はますます苛立ちをつのらせる。そんな二人の男の友情を軸にした、福間作品にはめずらしい男性が主人公の物語です。お二人が、どんなふうにそれぞれの役に挑んだのか、お話ししていただきました。
実際に声を失っている佐野さんは筆談器を使ってのトークで、音読は福間恵子が担当しました。

佐野和宏さん

伊藤「ホンを読んでから福間監督と初めてお会いしたんです。福間さんのホンは、詩の部分とか難しいところもあるので、僕なりの解釈でいいのかと尋ねたら、それでいいって笑顔で応えてくれたのをすごく憶えてます。宮本の役は、村岡を支える人、村岡のことを常に思っている人、それで生きていくというか普通の人、どこにでもいるような人でいいのだと、監督と話しました」
佐野「元々この話は断ろうと思ってた。でもある人に、やってみないとわからないんじゃないかと言われて、出ることにした。福間映画には狂気がないから、堕ちた男をやるにはどうしてもそれが必要。もしかしたら福間イズムを壊すかもしれないと思ったけど、福間さんと相談せずに勝手にやったところもある」(笑)
村岡の狂気についてのシナリオは、佐野さんが「チョット」書き直したそうです。
 
お二人の、寺島さんと趣里さんへの印象について聞きました。
伊藤「寺島さんは年下なんだけど、大人っぽい。なんかDNAというか、プロって感じですよね。趣里ちゃんは、伸び伸びしてて、一緒にいて、どこか他人じゃないって印象なんです。趣里ちゃんのミクは、不思議な、人間離れしてる役なんだけど、それが普通にできてる。そういうところが福間さんの映画のおもしろさかもしれないですよね」
佐野「俺は個人的な話はあまりしてなくて、芝居だけで感じたことだけど。寺島さんは本当に真剣勝負的。あのケンカのシーンは、鈴木一博カメラマンがフィックスでいく段取りしてたんで、この芝居はそれじゃあ無理だろうと、自分が言った。それで手持ちで撮った。趣里ちゃんとの芝居は、どちらかというと決まった型でやった」
林の中での趣里さんと佐野さんのシーンは、確かに一つの型ではあるけれど、幻想的で美しく謎めいていますよね。
伊藤「とにかくほとんどのシーンをその場で作り上げる、という福間さんのやり方は大変だけど、逆にそれがよかったんじゃないかと思います」

伊藤洋三郎さん

客席からの質問を受けました。
Q「伊藤さんと寺島さんが情を交わすところ、手のシーンですが、映画全体として、落ち着いた上品な感じになってるけど、いかがだったんでしょうか?」
伊藤「台本には、性的な関係を持つと書いてあったんです。だけど、現場に入って福間さんは、自分はピンク映画をいっぱい見てきてるから、日本のベッドシーンみたいなものは撮れないと。手で表現したいって言ったんです。そのイメージを聞いてから、寺島さんと二人テーブルに座って、勝手にやりました。不思議な感じでしたね」
佐野「いいシーンですよね」
トークの場では思いつかなかったけれど、手を使うというのは、ミク=趣里さんが「宮本さんの手ってきれいですよね」と宮本=伊藤さんに言うシーンとつながるのではないでしょうか。実際、伊藤さんの手は美しいのです。
 
『秋の理由』の撮影は6日間と朝の2時間。6日目の夜、村岡=佐野さんがロープを持って夜を徘徊したシーンのあと、最小スタッフと佐野さんがスタッフルームに泊まり込んで、翌朝暗いうちから首を絞めるシーンを撮影した。その夜の佐野さんは、お酒を飲み続けてほとんど眠らないままに、そのシーンに挑んだのでした。「狂気」をつくったのですね!
 
伊藤さん、佐野さん、ありがとうございました。
そしてお二人の話に、真剣に耳を傾けてくださった観客のみなさん、ありがとうございました!

Not Born Yesterday 福間健二監督特集1969-2023は、12月22日までつづきます。
新作『きのう生まれたわけじゃない』で初めて福間映画に出会った方も、これまでの作品を何度でも見たいという方も、ぜひポレポレ東中野に足をお運びください!