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幻のターメリック

数年前に南インドの山奥で友人がオーガニックコーヒーを栽培しているとのことで会いにいったこたがある。彼はコルカタ出身で私と同じインドの高校に通っていた同級生である。同じ苗字とということもあり「兄弟」と良く言い合っていた。約20年ぶりに南インドの山奥で再会するとは思わなかったが、同じ食に携わる者ととして考え方や、生き方などをたくさん話せた良い時間であった。彼のコーヒーのことは今度書くとして今回は彼のキッチンで見せてくれたターメリックの話を書きたいと思っている。


南インドのIT都市バンガロールから車で8時間、最後の3時間近くは山間をジープで入ったところに彼のコーヒー農園はある。コーヒー農園と自然を様々な人たちに体験してもらいたいとそこで夫婦でゲストハウスも運営している。3泊4日で彼が運営するゲストハウスに泊めさせてもらっている間、毎回違う料理を美人の奥さんが作ってくれた。どれも美味しく、レシピなどを知りたい私は何度かキッチンにお邪魔しては色々と見せてもらった。そして同級生が東インドの作り方でマトンカレーを作るというので一緒に作っているときに自慢げに彼が見せてくれたのがターメリックである。一目見たときに色が普通のターメリックと違うことがわかった。香りを見せてもらってその土の香りの強さにびっくりした。聞くと彼はコーヒー農園を始めるまで自然農法を勉強したくてインドの様々な農家に行っては修行をさせてもらったのだとか。その中で出会った一人がターメリックを栽培していてそこで採れたものを送ってもらっているとのこと、オーガニックで栽培されたそのターメリックは今まで見たオーガニックターメリックとは全然違う力強さがあり、そんなターメリックなら私も買いたいと彼に行ったところ、そのターメリック農家もそうしたいのだけどなかなか流通が難しいらしく良いターメリックを作っても結局は他のターメリックと混ぜて市場に出回ってしまうらしい。

世界中のターメリックの8割はインドで作られていて、その内の7、8割は南インドで作られている。上質なターメリックは南インドのものが多いと言われる中、彼が見せてくれたそのターメリックは北東インドで作られているとのこと。ぜひそのターメリックやそれ以外の知らない上質なスパイスを見てみたと思い、その時は話で盛り上がるだけで終わった。

それから数年経った今年(2020年)南インドから北インドにかけてムスリム料理のニハリの探求の旅をしていたので足を伸ばして北東インドまで行くことにした。

最初は州全体でオーガニック農法に力を入れているシッキムと言う州に行ったらあのターメリックと出会えるのではないかと思い色々調べてみたらシッキムではあまりターメリックは栽培していないらしくもっと東にあるメガラヤという州でどうやら面白いターメリックがあるとのことを聞きつけた。そして調べていくとどうやらメガラヤにはラカドンターメリックというものがあり、そのターメリックはクルクミンの含有量が他のターメリックより高いらしく、昔から栽培していたが数年前にその事実がわかり今は州を挙げてラカドンターメリックを盛り上げようと頑張っているらしい。そしてその中心人物となって農家を引張ているのが小学校の教師であるということもわかった。そんな素敵な先生がいるのであればぜひお会いしてみたい。と連絡を試みるが全然繋がらない。州政府にも連絡を取ってみるがなかなか返事は来ない。しかし時間は流れ徐々に出発の日は近づいてきてる。まあなんとかなるだろう、と私は南インドに旅立ち日々ニハリを食べ始めた。

「幻のターメリック」を探す旅には新聞記者の人も興味を持ってくれて一緒に行くことになった。
私がのんびりと日々南インドでニハリを食べている間も一生懸命にメガラヤ州の役人などと連絡を取ってくれたみたいでどうやら役人には会えることになったとの連絡が入った。

南インドから北インド、ニハリ探求の旅を終えた私はとりあえずデリーにあるスパイス屋さんが集まる地域に行って実際にどのようなターメリックが売られているか調べて歩くことにした。どの店にも店頭にドーンとターメリックが並んでいて鮮やかな黄色が輝いていた。何種類かのターメリックを売っている店に行っては店主にこれはどこのターメリックか聞いて歩いた。どれも南インドのタミルナドゥ州、アンドラ州、ケララ州などで栽培されているターメリックで北東インドのターメリックがあるかと聞いてもそんなものはないと言われるばかりであった。10件近く聞いて歩く、どこもないと答えるのの繰り返しで少し疲れてきたところに一軒おしゃれなスパイス屋があったのでこちらでも聞いてみたところ英語が流暢な若い店主が話を聞いてくれたのでここでも北東インドのターメリックを扱っているか聞いていた。若い店主は少し考えてから、話には聞いたことがあるけどあれは医療用だよ。と教えてくれた。彼はラカドンターメリックも知っていて、そのターメリックのクルクミン含有量が高いことも知っていた。料理にも使えるが医療の現場で少し注目されているらしいと彼は教えてくれた。

北東インドに本当にターメリックがあるのか半ば諦めかけていたが彼のその話を実際に聞けてようやくワクワク感と早く見てみたいと強く思った。

いよいよ明日はメガラヤに行くのである。デリーからコルカタに飛んで翌日コルカタから飛行機でメガラヤの州都シーロンに向かうのである。その前に北東インドの人たちがコミュニティーを作っているデリーの地区に行きご飯を食べることにした。そこには北東インドの人たちがお店もやっているのでターメリックの更なる情報があるかもしれない。
北東インドの人たちが多く住むエリアではスーパーみたいなものもあり北東インド産のスパイスが販売されていた。ただ私が求めているあの色、あの香りのものとは全然違った。料理は豚肉をメインとした少し和食に近いものであった。美味しかったがスパイス感はあまりなく少し不安になりながら翌日飛行場に向かった。

到着したシーロン空港はガランとしていた。1日に1便しか飛んでいないらしく我々の飛行機ついたらそれで終わりである。

見晴らしの良い場所で予約しておいた車を待っていたがなかなか来ない、数人いたタクシーの運転手もいなくなりついには我々だけが空港の出口近くのベンチに座っているだけであった。

なかなか来ないので手配した運転手に連絡してみたところ別の飛行場にいることがわかった。

旅にトラブルはつきものである。メガラヤのターメリックがより一層貴重なもものに感じた。

メガラヤとはサンスクリットで「雲の住処」という意味である。
山と山の間に雲海が流れる。幻想的な自然豊かなその土地で出会えるターメリックを楽しみにしてなんとかタクシーでメガラヤの州都シーロンに着くことができた。


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