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悪酔いするほどの「青春」追体験:TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』

昨日の日曜日、時間のできた時にと温存していたTVアニメ『響け!ユーフォニアム3』のラスト3話を一気観した。
そして激しく後悔した。
日曜の夜なんかに観るものではなかった。
ただでさえ月曜日が来てほしくなさ過ぎてサンデーナイトブルーだというのに、こんなえげつないシロモノを見せられてしまっては。

まるでドラム式洗濯機の中に放り込まれて、この世のありとあらゆる感情という感情をしこたま振りかけられてまぶされた上に気絶する寸前までぐわんぐわん回された後のような余韻だ。
あまりにも濃い「青春」成分に悪酔いした。
すさまじく凝縮された切り取られた人生を追体験させられたものだ。

この『響け!ユーフォニアム3』は物語を最後まで描く集大成である。
これまでも1期2期、そして映画でまー色々あったユーフォアニメ。
「こりゃ覚悟して臨まねばならん」と気合を入れて腰を据えて視聴開始。

なんだこいつは。
とんでもない異分子が北宇治に注入されたぞ。
その名は黒江真由
類まれなる容姿と演奏技術も相まって、自分からは動かないのに勝手に周囲が波風を立てて巻き込まれて翻弄されていく。
本人には気の毒だが、そこにいるだけトラブルメーカーまである。
存在自体が反則。
おまえはジャンボ鶴田か。

悪気がないだけに余計始末が悪い。
自分に執着がない分周囲に気を遣い、良かれと思って言ったことが逆効果を生む。
考えて考えて悩んだ末に切り出したことが伝わってくるから相手は強く言えない。
憎みたくても憎めない、実に厄介な魔王だ。

久美子にしてみれば自らウェルカムした人間だけに心境はさぞ複雑だったことだろう。
少なからずシンパシーを感じていただけになおさら。
黄前久美子の高校3年生の人生において黒江真由は何度も何度も常に立ちはだかり続けた。
しかも真正面ではなく背中を見せて。
何度歯噛みし、髪を掻きむしったことか。

人生は、いや、特に青春時代は「もしも」「たられば」の見本市である。
「あの時ああしていれば」
「もしもあの時ああだったら」
秒単位で選択肢が浮かび上がり、岐路を迎える。
「もしも黒江真由が転校してこなかったら」
「もしも黒江真由が入部しなかったら」
考えても仕方ないのだが、考えずにはいられない。

まだある。
「黒江真由がソリを吹いたからこそ全国金を穫れた」
そうだろうか?
もしかしたら久美子が担当していても穫れたかもしれない。
だが、それではあの時の北宇治の「最強メンバー」にはならない。
あの方法で、しかも最終判断を下したのが誰あろう高坂麗奈だったのだから。
もう誰からも文句も不平不満も言えはしなかったのだから。
もしもあの時久美子が真由に敗れていなかったら彼女は教師になっていなかったのかもしれない。
そんなことは誰にも分からない。
「もしも」と「たられば」に意味などない。
対して真由は大学へと進学するらしいが、将来が最も気になるキャラクターだと言える。
あ、ちなみに私は久石奏派です。
訊いてませんかそうですか。

3期では久美子と麗奈に過去最大級の衝突があった。
その前に予兆が何度かあり、それが激震へとつながり、亀裂を生んだ。
「これはさすがに修復不可能か」と思われたが、きっかけも収束もなんとも呆気ないものだった。
私は何週も引っ張っておいての唐突な雪解けに拍子抜けし、この作品に対する評価を大きく下げかけたのだが、ひとつ大切なことを思い出した。
そう、彼女たちはまだ高校生なのだ。
高校生なんてそんなもんだ。
自分の当時を振り返ってみるといい。
些細なことで大喧嘩して延々とそれを引っ張って引き摺っていたではないか。
アニメとして視聴する私がすっかりオッサン極まっているからキャラクターについつい人格者を求めてしまうだけで、実際の人間はもっともっと愚かで浅はかだ。
ならばいっそこの作品はリアルとさえ言うことができる。
等身大の姿がそこかしこにあった。

『響け!ユーフォニアム』、響いたのはユーフォニアムだけではなかった。
もちろん主人公の担当楽器がそうだったからには最も響いたのはユーフォだったのは間違いないが、最後には吹奏楽部全員の楽器が高らかに全国に鳴り響いた。
著者が当初どれほどの予定でこのタイトルを付けたのか私には知り得ないが、きっと著者の予想をも遥かに超えてこの作品は育ったに違いない。
私には彼女たちの生き様そのものが響いた。
彼女たちは死ぬほど生きていた。
刺さった。
良い意味でも逆の意味でも。

自らの少年期を振り返るととても彼女たちに顔向けなどできないが、それはそれ。
青春なんかなかった。
ま、今さらどうにもならんしね。
彼女たちの生き様を目撃して受け止めたこれからの私の生き方が、見る前よりはちったぁマシになるようにして返礼といたしましょう。

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