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女児アニメとは、『変身』の物語である。

 女の子向けアニメ……未就学からローティーンに向けたアニメの走りは、横山光輝(以下敬称略)の『魔法使いサリーちゃん』、赤塚不二夫の『ひみつのアッコちゃん』、これに手塚治虫の『リボンの騎士』や『ふしぎなメルモちゃん』が入ったり入らなかったりする。

 女性の手によるその原点は、『キャンディ・キャンディ』なのだが、原作の水木杏子と、作画のいがらしゆみこに決定的な不和が生じ、その再現が行われなくなったことは、残念の一言である。

 それから始まるアニメグッズとのタイアップを兼ねたアニメの展開は、大小のブーム、寄る波引き波はあれど、こんにちまで脈々と受け継がれてきた。『ミンキーモモ』や『クリィミーマミ』、リバイバルされたアッコちゃんやサリーちゃん、90年代に入ると傑作『美少女戦士セーラームーン』が誕生し、『カードキャプターさくら』『おジャ魔女どれみ』『ふたりはプリキュア』など、多岐にわたる広がりが見られることになる。

 NHK教育テレビ(現Eテレ)でもそういった流れが受け入れられ、主に料理や手芸をするアニメというものが年単位で制作されていく。

 これらの流れが整っていく中で、一つの成功ラインが見えてくるようになった。

 それが、『変身』である。

 女の子の精神には、別人になる、という憧れが、多くあるらしいことが、様々なヒットとアウトによって、わかってきたのだ。

 さて本題。

アイカツ!シリーズ』が2020年に大きな変貌を遂げることが発表された。

 というよりもそれは、本領を取り戻す宣言、と言えるのかもしれない。

 半世紀に渡りアニメ制作を続けてきた東映アニメーションは、魔法使いサリーから連なる魔女っ子モノ、変身モノというアイデンティティと成功例を築き上げてきた。80年代で小休止が入るものの、メイプルタウン物語から魔法使いサリーとひみつのアッコちゃんのリメイク、きんぎょ注意報!などを経て、セーラームーンという大きな成功を収めることになる。

 それからまもなく夢のクレヨン王国、おジャ魔女どれみ、明日のナージャとコンスタントに新しい作品を世に送り出し、今なお続くプリキュアシリーズへと歩を進めることとなった。ただ、そこからがやや苦しかった。

 プリキュアを卒業した、アニメ的なものに慣れ親しんだ層を、どうしても取りこぼすことが多かった。ローティーンからミドルティーンにアプローチ出来る、画期的ななにかを、うまく作り上げることができなかった。また一旦は卒業したものの、アニメに慣れ親しんだ層もまた、選択肢の中にアニメがないことについて、思うところはあったらしい。

 アニメ映画『君の名は。』が成功したのも、そういった手持ち無沙汰だった中高生を取り込むことに――猛烈な宣伝効果があったこともたしかだが――成功したからだと思われる。

 そうして他社たるタカラトミーとシンソフィアが生み出したプリティーリズムに始まる、『プリティーシリーズ』に、プリキュアを卒業した層をかっさらわれ、後塵を拝する構図が何年か続いた。

 そしてようやく、遅まきながらアイカツ!シリーズが誕生する。

 これが半世紀の含蓄を持つ東映アニメーションの本気と、バンダイとのタッグによって、とてつもない社会現象を巻き起こした。目新しさも相まって、市場に発表されてからのムーブメントは凄まじく、食玩や日用品、学習道具やランチボックス、歯ブラシ、衣類など、アイカツ!のグッズを同封された商品が、スーパーの売り場を席巻した。

 そして内外を巻き込んだ、『アイカツ!シリーズ(バンダイナムコ)』vs『プリティーシリーズ(タカラトミー)』という、おもちゃ会社とのタッグを組み合うライバル関係が始まった。

 補足として、こればかりがすべてでないことは、言うまでもない。

 鍔迫合う関係から、先に動いたのはプリティーシリーズだった。

 それまであった衣装を着るというタイプの変身システムから、アバターを着るというタイプの変身システムに移行したのだ。

 これが凄まじかった。プリティーリズムという看板を、プリパラという看板に掛け変えたのだ。けれどもまったく別物になる一方で、それをそれと感じさせない変化を遂げたのだ。

 このとてつもない変化は、例えようがない。卵焼きが要素は同じだからとプリンになるような、寿司が米と魚介を持っているのだからとパエリアになるような、とんでもない変化が起きたのに、それに対する違和感がまったくと言っていいほどなかったのだ。

 この変化は、変身の新機軸だった。

 これまでの変身は、キラキラした衣装に着替える、というものが多かった。アッコちゃんやメルモちゃん、おジャ魔女どれみといった変身モノは、お話によって大人になったり、別の生き物になったりすることがあった。一方、女児アニメの旗振り役と化しつつあるプリキュアシリーズでは、見た目が大人っぽく、髪型がロングヘアになるといったことが起きる程度で、別人になる、というほどの変身はしなかった。

 プリティーシリーズはここに勝負をかけてきた。

 単なる衣装の変化から、仮想世界内で行われる歌とダンスの世界で生きるための見た目のアバターを得る、という変身の新機軸を打ち出した。これがまた、アイカツ!シリーズを凌ぐほど、ハチャメチャにヒットした。女の子の変身願望を、より強い形で反映する試みが、ドンピシャで当たったのだ。

 いっそ別人になってしまえ、という言い方はやや乱暴かもしれないが、それが衣装チェンジよりも変身度合いが強いことは、間違いないだろう。

 プリキュアで育ったティーン層がプリティーリズムで成長し、巻き返す形のアイカツ!シリーズが、さらなる対抗策を呼び込んで変身に新しい風を吹き込んだ。ライバル関係があるからこそ、お互いのウケた点を、なかば野蛮とも言える勢いで取り込んでいく。これはアニメに限らず、どんな業界でも起きる一つの進化の方法だろう。

 もっとも、進化する一方で、どこか先祖返りしたような感はある。

 そしていよいよ、アイカツ!シリーズが新しい展開を見せた。

 アイカツプラネット!だ。

 旧来のシリーズファンが困惑を隠しきれない大転換を、それは告げてきた。主役はアニメではなく、女優だ。実写ドラマを軸に、それが変身してアニメアバターを得て歌って踊ることが発表された。番組紹介で真っ先に告知されたのは、アニメキャラではなく、女優だ。これが変身して、歌って踊る。

 けれども、大胆な実写に踏み切ったのはアイカツ!シリーズが先例ではない。

 タカラトミーとLDHがタッグを組んで企画した『アイドルx戦士 ミラクルちゅーんず』という新しいコンテンツが誕生している。これは子役の女の子たちによる、戦隊シリーズだ。プリキュアが女の子向けにドラゴンボールをやりたかったように、女の子向けの戦隊シリーズと言える作品だ。ガールズ戦士シリーズとしてすでに3年に渡って人気シリーズの地位を着実に固めており、しばらくすると第4シリーズが始まる。

 こういった、キッズ向けのアニメ調のドラマも、なくはなかった。天才てれびくんや、当時NHK教育のやっていた情操番組や料理番組、ジュブナイル小説のドラマ化など、そういう試みはあった。少し下火になっていたが、その火種を、ガールズ戦士シリーズが拾い上げた。

 アイカツプラネット!は、この要素も取り込んできたのだ。

 この告知を見て、思ったのだ。

「うおぉ……エグいな……」忌憚ない意見だ。

 東映アニメーションが、確実に、勝ちに来たのだ。

 アニメーションと変身、より強い変身要素に、近年流行りを見せている実写。これをすべて取り込んで、一つの作品を打ち出してきた。そしておもちゃ会社との、綿密なグッズやゲームの連動。

 この大胆な一歩は、白黒アニメを作ってきた時代の最古参だからこそ、出来るのかも知れない。

 正統変身ヒロインのおジャ魔女どれみシリーズで育った身としては、女の子向けのドラゴンボール的なものをやりたいと作られたプリキュアシリーズを楽しむことができた。プリティーシリーズ的なものをやって、プリキュアを卒業した層を引き戻したいと作られたアイカツ!シリーズも楽しむことができた。ガールズ戦士シリーズも、遅ればせながらまあまあ楽しく見れている。

 そしてそう遠くない未来、アイカツ!シリーズでは引き止められなかった層を、もう一度呼び戻すために始まるアイカツプラネット!が始まる。

 これもまた楽しむことが、たぶん出来るような気がする。

 どのような『変身』が見られるか、楽しみだ。

 


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