テレビ越しに幽霊を見た話。

夏に先駆けて、ホラーの話をしたいと思う。

数年前、幽霊を見た。間違いなく、見た話だ。

~はじめに~

仕事が終わり、帰宅してテレビをつけた。フジテレビの長寿番組、『奇跡体験アンビリバボー』が放送されていた。特番でもなんでもなく、ありふれた毎週放送の一回だった。以前ほど熱心に見なくなった番組だったが、ほかに興味を引く番組もなかったので、なんとなくつけっぱなしにしていた時のことだ。

まずこの番組、どういう番組か。

実際にあった事件や事故の再現ドラマを中心に、人間の神秘や幸運、人生の奇跡を描くドキュメンタリータッチの番組だ。事件は強盗や殺人、誘拐からの脱出。事故は火災や地震、航空機事故など、その範囲は多岐にわたる。

中でもアンビリバボーが名を挙げた放送内容は、2000年代の前半にかけて起きたオカルトブームだ。心霊写真やビデオ、そういったモノを通してなにかを語る霊媒師の登場といった、番組名の奇跡体験とは似て非なる超常現象でブームの最前線をひた走っていた。

けれどもそういった、オーラだとか、前世だとか、守護霊だとかいう放送は、オカルト特集をくりひろげていたメディアの返す手によって、『非科学的だ』とバッシングを浴び、まもなくそういった特集は鳴りを潜めていく。

そういう番組で、『見た』のだ。

21世紀も、数年あまりが経った頃に、だ。

~放送内容自体は、オカルトではなかった~

その日に見た放送内容はほとんど覚えていない。なんとなくテレビをつけていただけのことだったからだ。ある男の人がいて、その人は最愛の人か家族か、とにかく人生において大切なキーパーソンに先立たれた、という話だったように思う。

そういう人をカメラの前に座らせて、あの頃はこうでした、というインタビュー映像は、今やありふれた番組構成だ。

けれども、『そういう人の背後に、誰かを立たせて』話を聞くだろうか。

同時に話を聞く場合、横並びだろう。よしんば、子どもが遊びまわる風景の中で話を聞くということはあるにせよ、「これはこういう家族なんだな」と、ぱっと見で分かるくらい、テレビには慣れ親しんでいるつもりだった。

しかしその番組内で行われていたインタビューでは、そうではなかった。

ソファに座った男性の背後には、マンションによくありがちな、六畳ほどの和室が広がっていた。そこには、話の中で登場する、亡くなった誰かの仏壇があり、その前に、『女の人が立っていた』のだ。

見てくれで、女性とわかる人が、真っ白の姿をして、顔が見えないくらい髪の毛を伸ばし、インタビューを受ける男性の背後に立ち、その背中をじっと見ていたのだ。

常識的に考えて、そういう風景をバックに、ドキュメンタリーのインタビューが行われるだろうか?

明らかに、画面の構成がおかしいのだ。そういう人がいた場合、いったんどいてもらうか、あるいは関係者だった場合、そちらにも話を向けたりするだろう。よしんば取材をした結果、テレビ的に向かない話しか得られなかったとしても、そういう人を立たせている場合、テロップで『~~さん(仮名 or 年齢)』といった補足がなされるだろう。

そういったテレビ的な補足や説明はまったくなく、

とてつもなく名状しがたい異常な雰囲気をまとった真っ白な姿の女性が、なにを言うでもなく、ただ立って、目の前のソファに座る男性をじっと見ていたのだ。

そういう風景をバックに、インタビューが進むなど、どう考えてもテレビ的におかしい、ありえないのだ。

なにより、あとから冷静になって考えれば、という話ではなく、テレビ画面を見た瞬間、『この人、なんかおかしい』と感じるほどに、テレビの流れとしてはありえない存在と感じるほどに、そこに人を立たせている、ということがまずおかしかったのだ。

~目撃者~

慌てて、某巨大掲示板へアクセスする。ここにはさまざまな人がネットを通して存在しており、その中には、『番組実況』という項目も存在していた。

そのスレッドへ書き込んだのだ。

>なんかおかしい人映ってたよね? 仏壇の前に立ってる人

すると何件か返信があった。そのどれもが、『>キャプチャうp(画面を映した画像をアップロードしろ。証拠をよこせ』、といった散漫な内容だったが、二件、あったのだ。

>なんか変な人いたよね? あれなに?

>おかしな女性立ってたよね? え、やば

やべーの見た、と感じた人は、実況していたユーザーの中にもいたのだ。

そこに何者かがいたのは、自分だけの勘違いや見間違いではなかったし、なにを見ていたのかは定かでないが、気にならなかったという人も、またいたのだ。

全体の比率からすると、見た派は1割にも満たなかった。そうなると、気にならないほどに、インタビュー風景としてはおかしなことではなかった、と考えることも出来る。

でもやはり、あれは、おかしいのだ。

テレビマンや雑誌のカメラマンなど、あらゆるメディア関係者に、『インタビューをする時、背後に真っ白な姿の女性を立たせてするか』とたずねた時、後で伏線になるような意図がない限り、その答えはノーだろう。

ホラー特集でもなく、どちらかといえば感動するような人間愛を描いたような放送内容をして、どう考えても、あの背後に真っ白な姿の女性を立たせていることは、説明がつかないのだ。

そして番組が終わり、その感想は一つ。

見てはいけないものを見た

その衝撃は、何年経っても頭の中に残り続けている。

~そして映像を見つけた時~

21世紀はインターネットの時代である。効率よく検索すると、テレビ番組くらいであれば見つけることが出来る。番組名や放送日時をグーグルにかけると、公式の短いCM動画や番組を見た感想動画などに混じって、本放送がそのままアップロードされているサイトを見つけることが出来る。

フジテレビさんサイドには申し訳ないと思いながら、あれこれと手を尽くし、しばらく経ったのち、その異様な回を発見することが出来た。

そして見た。

同じ場面。

その背後には、誰も立っていなかった。

~おわりに~

番組の内容は、決してホラーやオカルトではなかった。

インタビューを受けている男性は大切な人を失い、それでもそこからなにかを学び、懸命に生きようとする人間のたくましい姿を描く内容だったはずだ。

またぞろ、あのアンビリバボーのことである。幽霊などは、そういう話をする場所に集まる性質があるという。

そういう『なにか』が起きても、不思議はない。

願わくば、あの日見た放送がいったいどんな内容だったのかが知りたい。

私の願いは、ただそれだけだ。

#私の不思議体験

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