敵の補給艦を叩け アムロ編

「リュウさん、僕、ほんとにあの人を殴りたくなってきた」

アムロは、ガンダムの設計者であるテム・レイの一人息子で、今は滅多に会う事のない父とサイド7で暮らしていた。母は、どうしても宇宙に行く事ができず、地球にいる。

ジオンの強襲で住処を奪われたアムロは、ホワイトベースで長い旅に出る事になる。立場は民間人であるが、他に適任者がいない、という理由でガンダムを操縦している。それもそのはず、ガンダムは、連邦が作り出した初のモビルスーツのうちの一機なので、それを動かした経験のある者など連邦のどこを探してもいやしないのだ。(鹵獲したザクで活躍した連邦兵はいるかもしれないが…)

つまり彼は、常に死の恐怖と戦い続けているのだ。フラウと会話が噛み合わないのは、「自分はいつ死ぬかわからない」という現実の恐怖の濃度の差であろう。
フラウも、サイド7で家族を亡くしたばかりで、死と隣り合わせという意味ではそう遠いところにいる訳ではないのだが。
黙々と着替えもせずにガンダムの整備をするアムロに、そんなフラウが言う。

「アムロ、食べる物と着る物、持ってきたわ。着替えないと臭いわよ」
「…うん…」
「2食抜きなのよ、アムロ。食べる物も食べなくっちゃ」
「食べたくないんだ」
「ブライトを気にしてムキになる事ないのに」
「そんなこと関係ないよ!死にたくないからやってるだけさ」
「ふーん、そうかしら?」
「そうかい?」

最後の「そうかい?」が、いい。
どのような解釈のもとでも、アムロがかなりブライトを意識している事がわかる。サイド7を追われた民間人であるアムロが、軍人のブライトに認められたがっている。これは、アムロの軍人への憧れなどではない。アムロが関係性を重視するタイプ(周囲の評価依存型)であるという事実を示している。一方のシャアは、軍人としての自らの評価を致命的に落としてでも目標を追求するタイプ(目標必達主義型)である。この対比が実に良い。

アムロは、ブライトの自分への評価を上げようとしている。それは疑いようもない。しかし、彼はやり方が少々まずい。作戦遂行にあたって、あまり周囲と相談しないのだ。
今回の戦いにおいても、アムロの任務はムサイとシャアの分断にあったが、随伴するリュウに「もっと高度を下げろ」とガンダムのジェスチャーで指示する。リュウもすぐに「そうか、回り込んで太陽を背にするのか」と気付いたからよかったものの、リュウの勘がもう少し鈍かったら危なかった。おそらくムサイの迎撃により、リュウは死んでいただろう。アムロは直撃を受けても「うわーっ!」と言うだけで、特にダメージは受けなかっただろうが。
いくら素人でも、事前にそれくらい決めておけよと言いたくなる。

作戦はうまくいき、アムロは再び赤い彗星と戦い、ガンダムの性能のおかげでなんとか生き延びる。シャアを前にした時のアムロが、とても良い。ガクガク震え泣きそうになりながら呟く。
「ブライトと約束したんだ。ぼ…僕がシャアを引きつけておくってな…」
シャアに完全に翻弄されながらも、アムロは戦う意思を捨てない。

ガンダムの異常な性能を前に引き下がるシャアの代わりに突撃してきたガデムのザクを撃破し、アムロ達は勝利を得た。

しかし、ホワイトベースに戻ってきたアムロにブライトは冷たい。自分の想定と食い違う展開がありすぎたからだ。ブライトの、自分への苛立ちもあるのだろう。そして、自分の指示なしで動くアムロ達への恐怖と怒りもあるのだろう。とにかくみんな、未熟なのだ。

アムロはリュウに、冒頭で挙げたセリフを吐く。そこでフラウと出会う。
「疲れたでしょ、お茶よ」
「おおっ、これはこれは」
「アムロオツカレ、アムロオツカレ」
「調子良さそうだな、ハロ」
「なんだい?それは」
「僕が作ったのさ。ハロってね」

アムロにはまだ、リュウとフラウ(と、ハロ)という理解者がいるのだ。彼らがいる限り、アムロは大丈夫だろう…。そう、彼らがいる限りは…。

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