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スナックの出勤を拒否しました。すごく心苦しかった

いよいよわたしの中でコロナを軽視することができなくて、営業を続けているスナックの出勤をママにお願いして自粛させてもらいました。

わたしはフリーランスとして、週3日IT企業に常駐し、週2~3夜スナックでバイトをし、その他の時間は小さな仕事をもらったり、趣味に勤しんでいました。

先週末から常駐していたIT企業もついに(ITなのにちょっと遅かった気もしますが)完全リモートワークになりました(ちなみに個人的に「テレワーク」という言葉はしっくり来てない)。

週3日だったとはいえ、朝起きて、電車に揺られて恵比寿のオフィスまで出勤し、社員と直接ミーティングをする日々だったので、敢えてスナックだけ行かないという選択肢はコロナが出始めた当初はありませんでした。確かに会社よりもスナックの方が距離が近いかもしれないけど、満員電車の方が人間との距離は近いと思ったし、こうして外に出てしまっている以上、どこかで「どうなっても仕方ない」という気持ちがありました。だから、多少は気になっていたけど、スナックにも出勤していました。

しかし、完全に在宅勤務をしていると、いよいよスナックに行くことが愚かな行為だと思えるようになりました。スナックは通常、窓のない密室で、お客様の隣で、お話ししたり歌を歌ったりします。最悪です。キャバクラのように広くもないし、女の子が行ったり来たりもしない。自分のお客さんが来たら、お客さんが帰るまでずっと隣にいます。100%濃厚接触です。

わたしのように趣味程度のアルバイトとして水商売をしているのであれば、簡単に出勤を拒否できると思うかもしれません。スーパーのレジ打ちのように、その人がいないと代わりに誰かが穴埋めをしないといけないわけでもない(女の子はいた方がいいけど、基本的にはママがいれば店は開けられる)し、お小遣い程度の収入がなくなったところで生活に支障はないからです。

でも、わたしはすごく悩みました。明らかに、絶対に出勤しない方がいい。69才のママはタバコを吸って酒を飲むだけじゃなく、肺気腫も持っている。お客さんのほとんどは60才以上のご高齢で、持病を持たれている方も多い。もしコロナにかかったら命を失うリスクが高いような方がたくさんいます。それでも、すごく悩みました。

なぜかというと、スナック1本で40年やっている(お店は先代も含め50年)ママを見捨てているような気持ちになるからです。うちのスナックには女の子が2人しかいません。わたしは半年ちょっと続けているので、太客もついてくれていたり、わたしの時だけ来てくれるお客さんがちょこちょこいるのです。小さなスナックなので、そもそも1日にお客さんは1~3組くらいしか来ません。わたしが出勤しないということは、その方々がいらっしゃらないということです。1日のお客さんがゼロになる可能性が高くなってしまうということです。スナックにおいて、女の子は商品です、物件です。レストランでいえば料理でしょうか。お店にママだけとなると、大半のお客さんにとってはお通ししかない居酒屋のようなものかもしれません。もちろん、40年もママをやっているわけですから、ママのことが大好きで、ママと話すために来ているお客さんもいらっしゃいます。しかし、長く続けているだけあってお客さんも何十年と通っていただいている方も多く、やっぱり女の子が必要なのです。

だから、迷ったのです。心苦しかったのです。このピンチをママと一緒にわたしも乗り越えたい、そう思いました。でも、全てを壊してしまう可能性がある。ママよりもわたしの方が都心に出て人と接触していたのは明らかです。わたしがもし保菌者で、太客に感染させ入院させてしまったら、それこそ売上に甚大な影響を与えます。ママが入院なんてしてしまったら、お店なんか開けられません。誰かを苦しくさせたり、最悪な場合、殺してしまうかもしれない、そんな可能性がちらついている中で、出勤することがわたしにはできませんでした。ママは、わたしの責任感による申し出だと理解する、と言ってくれました。さすがママです。

69才のママはよく言っています、「もういつ死んでも後悔ない」と。だからママは、自分がお店を開け続けた結果コロナにかかってもしものことがあってもいいと、きっと思っているのでしょう。それがママの生き様です。未亡人のママは、生活のために売上がないとやっていけないというのももちろんあるでしょう。でもきっと、どんな時でもお店を開け続ける、それがママの生き方なのかもしれません。

スナックを心の拠り所にしてくれているお客さんがいます。食べ物は乾き物だけだし、女の子に触れるわけでもないし、ただの焼酎はやけに高い、それでも精神的な安息を与えられる場、それがスナックなのです。キャバクラみたいにいい夢を見られたり、高級クラブのように最上級のおもてなしをしてくれるわけでもない。ただただ、第二の家のような安心感を提供しているのだと、わたしは思っています。だから、お店を閉めるということは売上に、ひいては経営に大打撃があるというだけじゃなくて、お客さんにとっても精神的な苦痛をともなう(はず)なのです。孤独はしんどいです。

当たり前ですが、アルバイトのわたしはママほどの覚悟なんてありません。だから、出勤できないと伝えられてよかったのかなと思っています。

わたしと同じように水商売で働いている方も迷っている人がたくさんいると思います。営業禁止にしてくれたらいいのにって思っているかもしれません。わたしのように中途半端なアルバイトじゃなくて、全力を注いでいる人もたくさんいると思います。不安がちらつきながら、お客さんをお店に呼んでいると思います。そうして、自分の命を繋いでいるのです。

こんな未曾有の状況の時だけじゃありません。どんな時も、自分が一番納得いく選択をしたら良い、そこにはシンプルな答えだけがあると思います。


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