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「本が読めない」

数年前に永井愛さんのワークショップに参加しました。日本における演技の歴史を学ぶ座学から始まりいくつかの場面のシーンスタディを行う数日間のワークショップだったと記憶しています。
その時の自分ははっきり言ってまるで駄目、まるっきり歯が立ちませんでした。台詞とはなんなのか、相手や言葉とどう向き合うべきなのか、相手を動かすとはどういうことなのか。そのことが何もかも感覚で突っ走っていた自分にはまるで分からない。ですから永井さんからつけていただいた演出もコメントもどう受け止めたらよいのかもどう反応したらよいのかも分かりませんでした。頭では何を言われているかは(なんとなく)分かる。しかしそのほぼ全てが体に落ちていかない。体の、あるいは思考の大雑把なメモリをいくらいじってもその操り方すら分からない。当然ながらそこにあくせくしているうちは他者を受け入れる余地もなく、出した答えは常に的外れ。このままではいけないと思いながらも変わることができないまま全日程を終えたことを覚えています。
自分は言葉を、やりとりというものをあまりにないがしろにしている。薄々感じてはいたのに見て見ぬふりをしてきた、そのつけが回ってきた様に感じました。既に30歳を過ぎていたと思います。

「本が読めない」その事実を起点に私は戯曲を読むところからもう一度演劇を始めました。はっきりと違うということだけは分かるあのいかんともしがたい時間こそが自分にとってあの数時間で得た最大の収穫でした。

演じることで人間を描くことができるならば、その本質は自らの中に、そして人との出会いの中にある。私は今まで出会った方々の、そしていつか出会うかもしれない方々の人生を代弁するような活動がしたい。
誰かの代わりに悩み、誰かの代わりに怒り、誰かの代わりに笑い、泣く。人は感情のままに生きられないのだから。

もう一度、永井さんと出会い直すつもりで応募致します。

どうぞよろしくお願い致します。

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以上が昨年末にあった二兎社ドラマリーディングのオーディションにあたって書いた自己PR文です。思いが溢れてうわっと書き上げたのですが、冷静になって多少いじっています。

結果、出演が叶うことになりました。

いろいろあったそのいろいろが、いつかの伏線に変わりますように。

撮影:朝岡英輔



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https://note.com/beyond_it_all/m/me96780b246d6


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