シニアマーケティングついて思うこと

シニアマーケティングについて思うこと

シニアマーケティングという言葉が盛んに使われるようになったのは、いわゆる団塊世代と呼ばれる昭和22年4月から24年3月生まれのベビーブーマー合計約750万人が、そろそろ当時の定年基準だった60歳に差し掛かるころだったように記憶している。持ち家のローンも完済し、退職金も満額手に入れた上での年金生活という意味で逃げ切り世代ともいわれる。当時女性の進学率は1割程度でまさに男性社会。転職などの事例は少なく、その多くは企業戦士として働くことを生きがいとして休暇も取らずに勤めあげた。そして無事定年を迎えたことで、大きくライフステージが変わことになった。しかしながら多くの現場で次世代への仕事の伝承が進んでいないことが分かり、条件は劣悪ながら再雇用への機会が生まれた時代でもあった。中途半端な再雇用は認められなかったので、なかば定年延長のような形で仕事を続ける向きも多かった。あるいはその経験を買われて中小企業から声がかかるものも少なくなかった。だからその懐をあてにしていた多くの企業のシニア向けマーケティングが期待したほど盛り上がらなかったのも当然と言えた。

とはいっても一定の成果はあった。彼らにとって定年を迎えたのちにやりたいことの一つがこれまで出来なかった夫婦での国内や海外旅行だ。これも体力のあるうちだからと積極的に行動にでた。しかし現在のように旅慣れていないのでJTBを頂点とする旅行代理店に頼ることになる。JTBなどは銀座にVIP用のショールームを構えるなどして、その取り込みに躍起になったものだ。この世代は、自らの生活をスケールダウンしたことでも知られる。すなわち一戸建てを処分して交通の利便性の高い中規模のマンションに引っ越したり、ミニバンを処分して小回りの利くコンパクトカーに乗り換えたり、生命保険を解約あるいは見直した上で掛け捨ての疾病用保険に移行したり。かつてアフラックでマーケティングを教えていた際にこの話をしたところ、大ヒットした掛け捨て保険のエバーの顧客は若いキャリアウーマンと団塊世代とのことだった。次に日産の後輩に向けてマーケティングの講義をした際に、団塊世代と若手のキャリアウーマンの消費性向が類似している例としてこれを上げたところ、まさにマーチの顧客は団塊世代の奥様と若いキャリアウーマンだと分かった。同様に2K程度の駅前のマンションを購入するセグメントも一戸建てから買い替えの団塊世代か、結婚を棚上げしてマンションを選択した独身キャリア女性に二分された。ペットを飼うという消費行動もしかり。団塊世代が子供の独立とともに寂しさの穴埋めのためにペット購入に走る行動と、一人暮らしの寂しさから癒しを求めて小型犬を買おうという独身キャリア女性の心理には類似点がある。

こういった消費が全く無くなることはないだろうが、団塊世代ももはや70代半ばに差し掛かる。そうなると体力知力気力には大変大きな個体差が出てくる。筆者は典型的な団塊世代だが、やや遅きに失した観はあったものの38歳で大手企業から外資に転職し、40代の働き盛りで失業経験もした挙句、以降はフリーランスのコンサルタントとなり、現在は自宅を改造した飲食店を三店舗経営する傍ら、縁があってサイバーの経営大学院で教鞭を取っている。延べ1年半に近い失業時代には刺激が無くなったせいで極端に頭の回転が落ちた経験がある。現在でこそ定年を迎えてもリカレント教育を続けるだの、ボランティア活動にいそしめだの、熟年起業しろだのとの掛け声が掛かるが、そういったことに無頓着な生活を送っていれば、筆者が40代で経験したような退化は間違えなく訪れる。そうなればケアホームに一直線だろう。体力の衰えも同様だ。筆者は若い時に時間を惜しんで様ざまな運動をして来た。その恩恵とハードな筋トレを続けていること、コロナ禍で経営している店舗の現場に立つなどを重ねているので若い頃の体力とさほど変わらない程度が維持できている。しかしそのような刺激を求めない限り、70代に至っては体力知力気力は大きく後退するであろう。そしてアクティブシニアの称号は返上せざるを得ない。ベネッセが長年推し進めて来た介護事業の機が熟したともいえるし、日本ではなかなか成功していないプライベートバンキングも信託機能を駆使してこういった団塊世代を取り込むチャンスでもある。

アクティブシニア向けマーケティングは一定の成果はあったかもしれないが、団塊世代が徐々にターゲットから外れだした今、そしてまさに青天の霹靂ともいえるコロナ禍を経験して、ターゲット及びプロダクトオファリングを大きく見直さざるを得ない事態に差し掛かっている。次に狙いをつけるのは団塊ジュニアと言われる比較的ボリュームゾーンの世代であろうか? 因みに、団塊ジュニアは団塊世代の子供という意味ではない。団塊世代も早婚から筆者のような晩婚まで幅広いのでその子供の年齢

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