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【“自己満足”BLマガジン『ss』】第4回:オメガバースの基本設定

BL愛好歴15年、商業BLマンガ大好きなライター・あべゆうかが、BLに関する知識を自分用にまとめたり、自己紹介としてBLの趣味嗜好をまとめたりする、“自己満足”BLマガジン『ss』です。

今回は『オメガバースの基本設定』についてお送りします。(前回は以下リンク参照)

前回は『オメガバースの歴史』について紹介しました。オメガバースは商業BLで専門のレーベルがあるほど、一つのジャンルとして確立されているとも記載しましたが、「そもそもオメガバースがよく分からん」という人も多いかと思います。

そこで今回は、商業BLマンガを出版する10の出版社・レーベル(※)からオメガバースの設定を独自に比較。共通している設定を基本設定と位置づけ、以下に記載していきます。

※オメガバース作品の最初のページにオメガバースの説明が記載されていた10の出版社・レーベル……「ふゅーじょんぷろだくと/ポーバックス THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS」「リブレ/ビーボーイ オメガバースコミックス」「竹書房/バンブーコミックス moment」「新書館Dear+/コミックス」「竹書房/バンブーコミックス アメイロ」「コスミック出版/キュンコミックス スパイシーホップコミックス」「東京漫画社/MARBLE COMICS」「ジュネット/ジュネットコミックス ピアスシリーズ」「ブライト出版/Tulle Comics」

※以下の文章は全て個人の見解、個人の意見です
※BLに苦手意識のある方、ご自身の解釈以外は敵と判断される方は回れ右でお願いします

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1. 第二の性

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オメガバースの世界では、6種類の性別が存在します。
「男性」「女性」に加えて、“第二の性別”として「α(アルファ)」「β(ベータ)」「Ω(オメガ)」どれかの性別を持つのです。

【α(アルファ)の特徴】

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とにかくスペックが高い性別として描かれます。

● 身体的特徴
ほとんどの作品で共通しているのは、「容姿端麗」ということ。
また、比較的共通している設定として「性器に特徴」があります。陰茎の根元にノット(亀頭球)と呼ばれる部位です。性交時に抜けにくくする機能を果たします。この設定はオメガバースの元ネタである狼(イヌ科動物)から来ているため、商業BL作品にも受け継がれているようです。
さらに、αは女性も男性器を持つ「両性具有」の設定もあります(二次創作ではこれも基本設定のようですが、商業BLだとほぼ描かれることはないです)。

● 資質
「知能」に優れ、「カリスマ性」を持ち、「リーダー格」である。要するにめちゃめちゃハイスペックです。優秀な人材として描かれることが多く、社会的に権力を持っていたり、エリートだったりします。

● 人口割合
人口の「約20%」と記載している作品が比較的多いです。少数者として描かれています。

【β(ベータ)の特徴】

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普通、一般的、平均的と描かれることの多い性別です。

● 身体的特徴
特筆する特徴はなし。

● 資質
特筆する特徴はなし。

● 人口割合
人口の「約70%」と記載している作品が比較的多いです。最も人口の割合を占めています。

【Ω(オメガ)の特徴】

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身体的な特徴の影響から不憫な性別として描かれることが多いです。

● 身体的特徴
男女ともに「妊娠可能」。男性の場合、直腸の上に子宮があるという設定が主流です。
また、一定の周期で「発情」し、特殊な「フェロモン」を放ちます。発情すると体が不調になるため、基本的に外出が困難に。さらに、Ωの放つフェロモンはαとβ(特にα)の性的欲求を誘発してしまいます。

● 資質
発情期の影響から日常生活に支障をきたしたり、フェロモンの影響から「差別の対象」になったりします。自身の性別に「劣等感」を抱いているキャラクターが多いです。

● 人口割合
人口の「約10%」と記載されている作品が比較的多いです。希少種として描かれています。

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2. 社会階級

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第二の性の特徴から、オメガバースの社会には性別ごとの序列があります。これはオメガバースの元ネタである狼の「階級制度」から来ている設定です。(ただ、狼の生態は未だにさまざまな説が存在するため、階級制度も仮説でしかないと個人的には思っています)

オメガバースでしばしば見かける「社会階級」の設定を図にまとめてみました。

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現実世界の一般的な社会階級のヒエラルキーはグラデーションのように変化していきますが、オメガバースの場合は第二の性ごとにはっきり分かれているのが特徴です。

αは生まれ持ったカリスマ的な資質から社会的地位の高い人間が多い一方、Ωは特殊な体質が影響し社会的地位が最も低く描かれます。社会的地位の背景から、人口の最も多くの割合を占めるβは、αに対して憧れを抱き、Ωに対して偏見を持つことが多い印象です。

3. 発情期とラット

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「1. 第二の性」に記載した、「Ωには発情期がある」という設定について詳しく説明していきます。

● 発情期
別名「ヒート」と呼ばれることが多いです。
一定の周期(比較的多く見かける周期は1ヵ月のうち1週間)で性衝動に見舞われます。

発情期に入ると“番のいない”αとβの性衝動を促進させるフェロモンを発します。特にαへの影響力が大きいです。βはフェロモンを察知はするもののムラムラする程度、というのが比較的多い設定だと感じます。

● ラット
発情期中のΩのフェロモンに影響を受けたαは急激な性衝動に駆られます。この現象を「ラット」と表現する作品が多いです。ラットに陥ったαは自分の意思に関係なく狂暴的になる傾向があります。

● 発情抑制剤
ここまでの記載では「Ωってめちゃめちゃ生きづらいじゃん…」と思われるかもしれませんが、発情を抑えるための社会的措置として「抑制剤」がオメガバースの世界には存在します。抑制剤を定期的に服用し、日常生活に大きな影響を与えないようにしています。

しかし、副作用があったり、人によって効果に差があったりすることも多く、抑制剤に絶対的な保証はありません。万が一、αに襲われてしまった場合を考慮し、避妊薬を持ち歩いているΩが描かれている作品も多くあります(結局Ωは生きづらい性…)。

4. 番(つがい)

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αとΩにのみ発生する特別な関係、“番”という設定があります。これもオメガバースの元ネタである狼の「つがい」から来ている設定です。

番の関係になると、Ωが発情時にほかのαやβへフェロモンを放つことがなくなり、番関係になったαにのみフェロモンが効くようになります。また、Ωは番関係を結んでしまうと番相手のαとしか性行為を受け付けない体になる、妊娠できない体になる、といった設定を見かけることも。

しかし、αは複数のΩと番関係になることができます。一度特定のΩと番になったとしても、関係を解消して別のΩと番えてしますのです。一方Ωは、一度番関係を結んでしまうと一生その相手(α)との番関係が残り続けてしまいます。そのため、安易に番になることはタブーなのです。

● 番になる方法
多くの場合、Ωの発情時にαがΩのうなじを噛むことで番になります。作品によっては「発情時+性行為(射精の瞬間)」といった設定もあります(タイミング難しそう)。うなじを噛むと番が成立してしまうことから不本意な番関係を結ばないために首輪で自衛する、的な設定がつけられている場合も。

● 運命の番
出会った瞬間に惹かれ合うαとΩを「運命の番」または「魂の番」と呼びます。基本的には瞬時に運命の番だと理解し、相思相愛になります。しかし、かなりレアケースで、そう簡単には遭遇しないと言われています。とはいえ、フィクションなので、「運命の番」が描かれる作品はかなり多いです。

5. レーベルにおける設定の違い

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商業BLのオメガバース作品は多くの場合、基本的な設定以外は作者の自由です。しかし、出版社によっては独自のオメガバース設定を軸に作品が描かれることも。

2020年5月現在に存在するオメガバース専門レーベルは2つ。「リブレ/ビーボーイオメガバースコミックス」と「ふゅーじょんぷろだくと/ポーバックス THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS」です。レーベル独自の世界観が定められており、その中で作者の解釈を取り入れる形で描かれているようです。

特に、オメガバース専門レーベルを一番最初に立ち上げた「ふゅーじょんぷろだくと」は、ほかのオメガバースの世界観にはない設定が組み込まれています。

● すべての性別が妊娠する、させることが可能

多くのオメガバース作品は、女性または男性Ωのみ妊娠することができます。しかし、「ふゅーじょんぷろだくと」では、男女、第二の性、すべての性別で妊娠可能、妊娠させることが可能な設定を持っています。「人口の減少から人体が変異(進化)を遂げ、第二の性が出現。全人類が妊娠可能な世界に」といった人類の歴史的背景から世界観が構築されています。

αとΩでしか番関係は成立しない設定はほかのレーベルとも共通ですが、作中にはさまざまな組み合わせのカップルが登場する傾向があります(BLではないけど、男性が母親、女性が父親も有ということ)。

「オメガバースをもっと気軽に多くの人に楽しんでもらいたい」という想いで立ち上がったレーベルのため、設定がかなり細かく作り込まれています。独自の世界観が描かれているので、ほかのレーベル作品を読むと「あれ、設定が違うな…」と思う人は多いかもしれません。


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設定上(男性妊娠や社会制度、差別表現など)、苦手意識を感じる人も多いようですが、好きな人はとことんハマってしまうオメガバース。私自身も読み漁るほどではないのですが、作品によってさまざまな形で描かれるので、好みの設定の組み合わせを探して読んでいます。

次回は、『好きな青春BL作品』をお届けしようと思います。

それでは!

読んでいただきありがとうございます。 日々の励みになります。