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「自由を扱う」をテーマにした練習の実践録(その1)

私が大学野球部で学生コーチをしていた頃、夏場に3日間ほど監督から練習を任されたことがありました。当時は学生コーチをしながら主務(マネージャーの責任者:練習試合の対戦相手校との連絡やスケジュール管理などをする)を兼任していました。普段はAチーム(一軍)に帯同しているのですが、3日間Aチームのみで遠征することになり、大学グランドに残るBチームの活動を監督するために練習の管理を全て行うことになりました。この記事ではその時の実践録として連載形式でご紹介します。

練習のテーマ設定

私はこの3日間は選手に「自由を扱う」ということをテーマにしてもらうことにしました。当時の野球部は部員が100名を超え、またグランドは一つしかなく、室内練習場もなかったため、限られた場所を上手くやりくりしながら練習を進めている環境でした。こうした環境においては、1名あたりの十分な練習量の確保は難しい部分があり、Bチームの選手にとっては練習に対する姿勢も自然と受け身になってしまう部分がありました。こうした状況下の中、3日間十分と野球場が使える日が出来たため、ただ普段通りの練習をして終わるのではなく、以降の練習においても何か一つでも生きてくるような学びを得て欲しいと考え、「自由」を扱うというテーマ設定をしました。このテーマをもとに、一つ一つの物事に根拠を持って取り組むような考える習慣づけが出来るようになることを期待していました。
自由を扱うというテーマを設定した次は練習メニューをどうするかを考えなければなりません。メニューの大枠は指示しますが、具体的にどのように取り組んでいくかはそれぞれの選手が考えて取り組めるように自由度のある内容にすることを検討しました。

計画した練習メニュー

具体的な練習は以下のように計画しました。

1日目
①ウォーミングアップ(個人別行動:自由に準備する)
②ポジション別のドリルノック(ドリル形式の守備練習)
③打撃練習(1時間程度を目処に自主参加制)
2日目
紅白戦(サイン等作戦は全て選手に一任)
3日目
①ウォーミングアップ(個人別行動:自由に準備する)
②ポジション別のノック(紅白戦での課題を踏まえて改善のための練習)
③打撃練習(1時間程度を目処に自主参加制)

そして1日の練習時間は①②を午前中の2時間以内で終えるように時間配分しました。その理由としては、

●集中力の持続時間を踏まえたため
●「自由を扱う」というテーマに焦点をあてるため
●質の高い練習のため
●自主練習の時間を豊富に確保するため
●練習以外のプライベートの時間も確保するため

という点です。練習時間を午前中の2時間にすることで、集中力の持続が難しくなる前に練習を終えることが出来、また夏場という暑熱環境下であるため熱中症の危険が一層高まる日中を避けることが出来ます。
また、この3日間のテーマである「自由を扱う」ということを意識した練習にする必要があり、長時間練習は練習の後半になるにつれテーマに対する意識が薄れてしまいがちになることを踏まえて短時間練習を選択しました。
さらに、「自由を扱う」というテーマの真骨頂は自主練習にあると思います。その自主練習の時間を豊富に確保することで、自主練習の時間にはヘトヘトに疲れている状態にならないようにし、また全体練習を短くすることで”もっとやりたいな”という意欲を残しておくことが出来るだろうと思います。
そして、プラーベートの時間も確保することで、野球以外の場所での経験を得ることや、気持ちをリフレッシュすることでこちらも”明日の練習頑張ろう”という意欲につなげることを期待していました。
練習メニューの詳細を次に記します。

①ウォーミングアップ

ウォーミングアップは、全体での決められたメニューを実施するのではなく、個人で自由にアップするよう指示しました。
ウォーミングアップの目的とは、神経系や筋の電導速度の向上、コーディネーション能力(視覚や聴覚で得た情報から瞬時に判断して体を動かす能力)の向上、柔軟性の向上などです。当時のチームのアップはメニュー数も多く、走り込みの時間もありました。これらは全てトレーナーの長期的なトレーニング計画をもとに作成されたものですので、継続的に実施していく必要はありましたが、1日のトータルでの練習テーマは「自由を扱う」であり、努力目標であるテーマをより一層意識してもらいたいので、この3日間はアップで何をしても良いと一任しました。個人で自由にアップをするため、それぞれの選手のペースと特性に合わせることが出来ます。
神経系や筋の動きに関わる末梢神経電導速度が最大値となるのは、皮膚温32度以上とされています。これは顔から汗が出てくるのが皮膚温32度以上の判断基準だそうです(馬見塚、2015)。夏場は外に出るだけでも顔から汗が吹き出てきますし、野球場は山の中腹にあり遊歩道で登ってくる必要があるため、練習に来ること自体が一つのアップメニューとなっていました。こうした背景からも、走り込みのあった全体アップではなく個人での取り組みに変更しました。

②ドリルノック

守備練習は全体のシートノックは行わず、グループに分けて実施しました。メニューの内容については指示をしましたが、取り組み方、意識すること、練習量の多さ等を一任しました。また、ノックを受けずにミーティングに時間を割いても良いとしました。時間は約1時間を確保し、3メニューを20分ずつ行います。この1ドリル20分の時間をどのように活用するか、パフォーマンス向上を目的として自由に取り組むよう指示しました。ドリルノックの各ドリルは以下の図です。

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●ボール一つ(サード・ショート、セカンド・ファーストの2組)
ノッカーは正面や左右に打球を振る。捕球したらファーストへ送球。
●二遊間ゲッツー・バント処理(サード・ファースト)
二遊間はゲッツー。サード・ファーストはバント処理。サードはファーストへ送球し,ファーストはサードへ送球。
●ノッカーは三遊間、一二塁間へ打球を打ち、守備側は打球に応じて捕球する。

外野手、捕手は別でメニューを計画して取り組みました。

③打撃練習

打撃練習は自主参加制としました。そのため、ドリルノックが終了すれば、練習を終えて帰宅しても良いし、打撃練習に参加しても良いし、さらには自分自身の課題を踏まえて別メニューに取り組んでも良いとしました。バッティングゲージのみ設置し、あとは参加した選手が打ちたいだけ打つという方法を採りました。
普段の打撃練習では、そう多い数を打つことはできません。また打撃に関しては選手毎に長所や課題が大きく異なり、取り組むべき練習方法が異なる場合があります。フォーム固めが必要な選手は打撃練習の時間の多くを、フリー打撃ではなくトス打撃に費やすなど、個別にやるべきことが存在します。自分自身を分析した上で、今やるべきことに取り組むことを期待しました。これも、自由度があるからこそ行いやすいことだと思います。決められたことをこなすだけでは、考えることをせずに練習できてしまいますが、自由度がある環境で考えることを促すことで、自己分析とそれをもとにした自分なりの練習計画をねり、改善に努めていくというプロセスを行いやすくなると思います。

このように、練習時間を短く設定し、一つ一つのメニューにはある程度の自由度を持てるようにすることを意識して計画しました。次の記事では実際に練習実施した様子などを記事にしたいと思います。

引用参考文献

馬見塚尚孝(2015)高校球児なら知っておきたい野球医学.ベースボールマガジン社.



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