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べてるの家のメールマガジン「ホップステップだうん!」 Vol.214

今号の内容
・巻頭写真 「子ども・子育て当事者研究交流集会」 江連麻紀
・続「技法以前」184 向谷地生良 「現実への着地感」
・ 「王様しぐさ」 宮西勝子
・ ミーティングや研究に役立つ無料アプリを比較してみた
・福祉職のための<経営学> 076 向谷地宣明 「ドーナツモデル」
・ ぱぴぷぺぽ通信 すずきゆうこ 「チーン」


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「子ども・子育て当事者研究交流集会」

週末に「第1回子ども・子育て当事者研究交流集会 あつまれ 研究の森」が行われました。
午前は全国の当事者研究をしている7歳〜13歳の子どもたちの発表と、大人の悩みに子どもたちが答える、悩み相談室がありました。

子どもたちが内容やテーマを決めて、研究をまとめて、司会進行しました。
子どもたちの決めたテーマがこちらです。

「ぼくたち、わたしたち もうすでに100点満点なんです! わくわくどぎどき研究室 あつまれ、想像力豊かなこどもの世界へ!」

会の最初には内田くんが作詞をした研究の歌(香水の替え歌)が歌われました。以下、歌詞のサビの部分です。香水の曲に合わせて歌ってみてください!

別に研究求めてないけど
やり始めてみると面白い
疲れた心を忘れちゃうよ
研究のせいだよ〜♪

子どもたちの研究は、いじめ、学校や親とのつきあい方、コロナくんの研究、自分の心のなかにいるおこるちゃんについてなどが発表されました。大人にも通じる、大人がたくさん考えさせられる研究ばかりで、すばらしいという感想がたくさん寄せられました。

大人のための悩み相談室では、「子どもに1万回片付けてと言っても片付けないとき、子どもは何を考えている?どう言えば伝わる?」「子供のこと大切に思っているけどよく怒ってしまう。親に大事にされていると思うのはどんなとき?」「どうしても気の合わない人とつきあう方法は?」「挨拶を無視する子に対してどうしたらいい?」と、大人の困りごとに子どもたちが答えてくれて、質問した方からはたくさんの気づきが得られてありがたいと感想をいただきました。

午後は全国の子育て当事者研究会をしている、浦河のあじさいの会、精神疾患、里親、被虐待経験をもつ親、などの団体が参加して、会の開催についてや、大切にしていることや、研究したエピソードをわかちあいました。

子育てのテーマがこちらです。
子育ても4G→5Gへ! 
「がんばる」
「がんこ」
「がまん」
「がんがん」

「がんばらない」
「ぎゃあぎゃあ声を上げる(SOS)」
「ぐーぐー寝る」
「げっそりする前に」
「ご一緒に」

私も2人の親なので、このがぎぐげご作文を胸に「しっかりしてなくても機嫌のいい親」を目標にしようと思います。
今回は第1回目なのでお試しで交流を目的として行われました。また来年、第2回も開催されますように。

写真は、最初に歌って踊ってくれた「研究の歌」の様子です。


(写真・文/江連麻紀)

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新刊『弱さの研究 ー「弱さ」で読み解くコロナの時代ー』

著者 向谷地生良・高橋源一郎・辻信一・糸川昌成・向谷地宣明・べてるの家の人々

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本体価格:1600円+税
出版社:くんぷる

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続「技法以前」184 向谷地生良

「現実への着地感」

1.活字を通じたつながり感覚

目に前の本棚に、この3月で一応区切りとなる私の42年間の“サラリーマン生活”を振り返る上で忘れられない一冊の本があります。R.D.レインの『引き裂かれた自己』(みすず書房1971)です。

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北海道浦河町にある総合病院の精神科専従のソーシャルワーカーとして就職することになった私を恩師の松井二郎先生が、行きつけのスナックに誘い、ささやかな送別の場を設けてくれたのです。その時に、手渡されたのが『引き裂かれた自己』でした。


閉鎖的で、前近代的な収容主義の状況に堕していた日本の精神医療界に火を投げ込んだ「反精神医学」の象徴的な本でした。勿論、学生時代は、難病運動や自立生活運動、さらにはハンセン氏病の啓発活動に関わりがあった私は、メンタルヘルス領域は、実際に足を運んだこともなく全くの門外漢でした。その背景も、「反精神医学」も知らず、私はその本を読みながら列車に揺られ、浦河に向かったことを懐かしく思い出します。

いまでも、この本を手にすると身体の中に思い出のスイッチが入り、レインと実際に会ったかのような深い感慨に満たされ、ゆったりとした気持ちになります。その意味で、本は本以上の存在感をもっているような気がします。デジタルで読む本にはそのような感覚は起きないような気がします。あくまでもそこには「情報」があるだけで、身体で感じる言いようのない生活感、本を読むという経験につながる出会いや時代の空気がそぎ落とされるような気がします。

新聞も同様です。朝、郵便受けに新聞が届けられた時の配達員の足音、郵便受けに入れる時のガサガサした音、郵便受けから 新聞を引き抜いた時のカタンと言う音、居間で新聞を広げた時のインクの臭い、目に入る活字と新聞の手触り、まるでルーチン化された一コマ、一コマが一日をはじめようとする私を整えてくれる実感があり、新聞を読まないではじまる一日を想像できないとさえ思います。ところが、新聞をデジタルに切り替えるとそのすべてが吹き飛び、新聞に目を通さないではじまる一日が苦でも何でもなくなるのです。記事を読む深さも浅くなりがちです。

つまり、本や新聞は、活字を通じた著者や現実とのつながり、関係との入口という社会経験が内包されているのです。


2.現実への着地感-デジタル時代のつながりの喪失感覚

そんな時、当研仲間の自然さんからメールをもらいました。Zoomで人と話せないという苦労でした。数人の仲間からも、似たような情報があります。これは、是非、情報を集める必要があります。そんな時、自然さんから、以前、以下のような報告をいただいていることに気が付きました。

「私はとても調子が悪くなった時、現実と関係しているという感覚がとても希薄になります。 現実が、しがみつこうとしてもつるつると滑ってつかまり所のないビニールボールみたいなものに感じます。現実世界にはつかまりどころがなくて自分が滑り落ちてしまうような感じです。 それはとても怖いし、不安な感覚です。 例えばチョコレートを見ても、それが食べるものだという感覚がしない。本を見ても、それが読むものだという感覚がわかない。机を見ても、それを何に使ったらいいものかという感覚がわかない。たとえ頭では使用目的を理解する事が出来ていても、それが何のためにあるかということに実感がわかない。(自分に関係づけようとしてもその実感がわかない)現実にある事物と自分の糸がぷっつりと切れてしまったような感じです。
私はとても調子が悪くなって寝たきりのようになって何もしたくなくなった時がありました。そのあいだ、ずっと上のような感覚に悩まされ続けました。 そしてそれが回復してくる時に、リップクリームをひとつ買いました。 そしてそれを自分の唇につけた時に『あ、もしかしたらこれから病気が少し良くなるかもしれない』と思ったのを覚えています。その時に初めて、物と自分というものが関係づいた感じがしたからです。
『唇があれないためにリップクリームを塗る』という行為によって初めて、自分は現実につなぎとめなおされた気がしました。 現実というのは、だから、健康な人にとっては何も意識しなくても着地していられるものなのかもしれませんが、いざ病気になると(それがどんな病気の状態かはわかりませんが)現実に着地しつづけているというのはとても難しい事になると思うのです。
現実にしがみつこうとしてあがいてもあがいても、そこから滑り落ちていくような感じがするのです。
そういう時、私はとても不安だし孤独だし、とても焦ります。 私たちは普段はなんとなく現実につなぎとめられているような気がしているから特別に意識しなくても生活していけるけれど、現実は本当は何も私たちをつなぎとめていないんじゃないかと思うのです。 だからちょっとしたきっかけ(特に病気など)の作用で『現実に着地している』という感覚は結構簡単に危うくなってしまうように私は思います。」

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この現実に「着地している感覚」は、説明しにくのですが、人間によって、基本的に大切な実感のような気がします。つまり、この感覚が、やる気や内発的な動機につながる重要な要素だと思うからです。これはアナログか、デジタルかという二者択一の議論ではなく、今後、みんなで研究してみたところですね。つまり、アナログとデジタルの両方を含んだ概念が必要だということです。

向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。

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1984年に設立された北海道浦河町にある精神障害を経験した当事者を中心とするコミュニティです。 社会福祉法人、会社、NPOなどがあり、主に日高昆布製品の加工・販売や出版などの情報発信、「当事者研究」などの活動を行なっています。最近は浦河産の苺🍓の加工も盛んになっています。