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「路傍の石」 #名前の由来

 友達に乗せられて度胸試しで汽車に轢かれる寸前まで頑張るということを行い、ギリギリ助かったが大ごとになり、先生にこっぴどく怒られるかと思ったら、先生は言った。
 貧しくて中学に行けないからやったんじゃないか?と……。

 吾一は、本当はそうではないのだが、うんと言ってしまう。しかし先生は、そんなことでは大きな人間になれないぞ、お前は自分の名前のことを考えたことがあるのか、と突然吾一の名前について熱っぽく語り始める。

「おまえの名前は、おまえのおとっつぁんがつけたのか、ほかの人がつけたのか知らないが、とにかく、もっと深い意味が含まれているのだ。そういう立派な名前を持っているものは、その名前を、立派に生かしていくようでなくっては、名前に対して申し訳ないではないか。」

「吾一というのはね、我はひとりなり、我はこの世にひとりしかいないという意味だ。」

「死ぬことはなぁ、おじいさんか、おばあさんに任せておけば良いのだ。人生は死ぬことじゃあない。生きることだ。たった一人しかいない自分を、たった一度しかない一生を、人間、本当に生かさなかったら、生まれてきた甲斐がないじゃあないか。」

「お前ってものは世界に一人しかいないんだからな、いいか、このことは忘れるんじゃないぞ」

吾一は、ただただ黙って聞いていることしかできなかった。

路傍の石・山本有三著

…グッときませんか。

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