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欲しい物・地味ハロウィン

今欲しいものを答えてって問われたから
普通はお金とか家とか毒じゃない親とか健康とか願うのかな。
私はこう答えた。

次元上昇!
ナビエ–ストークス方程式の解の存在と滑らかさの、解と証明!の啓示
皆既日食!
朝起きたら私の自転車にバンクシーの落書きが!
アブダクション!(誤:キャトルミューティレーション)
こしょこしょこしょ!
7オクターブの声域!と音痴を治す
レゾンデートル!
ノーベル文学賞!
人をダメにするソファ!
権力!
だし様、桐谷美玲!
月の土地所有権!2700円らしい。
スタンド能力、康穂のペイズリー・パーク!これで道に迷わない!
私のクローン!臓器移植用。
三谷幸喜「君となら」の再演とチケット!
もういないおじいちゃんおばあちゃん達
毎日のお早う!
眷属!
来期のプリキュア命名権!
ディンタイフォンの小籠包食べ食べツアー(と行く時間)
ポルシェカレラSと鈴鹿貸切券(と遊ぶ時間)
ベテルギウスは爆発して!
貴方の、彼女が出来たという報告!
るーしっどどりーむ!

お金で手に入るものはいらない、買えるから。

私はこの世に無いものが欲しい

渋谷のハロウィーン

ここのところ3日連続で定点観測してたから、正直期待していなかった
地味ハロウィンなんて言葉が流行してたから皆、わざと地味に演出するのかと本気で思ってた
日本のハロウィンも終わるのかなって、そんな期待。

そんな渋谷も当の31日は仮装した人で溢れかえっていた
私は少し早い夜に仕事をあがって、ブーケの花束を手にしていつものバッグをショルダーにかけて歩いていた

ハチ公前広場はラッシュアワーの山手線のよう

眼帯して片目の私は左半身の感覚が掴めず人にぶつかってばかりで申し訳ない

私は黙って目的地に向かって人混みをかいくぐって歩く

いつものように。

いつものように、誰よりも早く、不穏を嗅ぎつけて、戦場を離脱して次の任務を探しにいくように

私は誰よりも早く、見切りをつけて、辞めると言ってから、ついにその日はきたのだった。

裏切り者とののしればいい、私は周囲の視線なんて気にしない。

と思ってた。

だいいち会社が先に散々私を裏切ったのだから。

しかし本日は昼から様子が違ってた

社長にランチに誘われ私がいつも頼っていた美人秘書さんとあと同じく私が頼っていた仲間と一緒の四人でランチとなった。

場所は私が密かに一人で通っていた青山の裏路地の隠れ家レストランが予約されていたのだった。

それは偶然だったのだけど

お食事は終始和やかなムードで行われたから、もちろん誰も過去のいざこざを蒸し返すようなことは話さず

社長は私に来てくれて有難うと言った

私はこんな状況でも会社に案件を紹介すべく動いてたのがどうやらセッティングが退職後になってしまったのだがそのプランを明かして説明すると

社長はこれからも離れても頼りにしてるから気軽に遊びに来てよ、と言った

私は笑顔を作りながら返礼したが、その言葉を、私の実力を認めて感謝されることを期待していたはずでその通りになったのだけど

裏切り者とののしればいい、私は周囲の視線なんて気にしない。

私は私のやり方で、自分のことだけ考えて、自分の欲しいものを自分で手に入れる主義

なんて思っていたから、正直モヤモヤした

私はこの一ヶ月は仕事と関係ないが軽く片足を骨折してさらに片目を眼帯をつけることになって踏んだり蹴ったりだったが欠かさず出社して引き継ぎはそこそこにペースを緩めず仕事はしつつ、同時に自分の次の仕事の準備をしたりもしていたのだけど

退社する時、社長の号令で皆立ち上がって挨拶され、秘書さんからブーケを渡されたのだった。

私は夜の渋谷の人混みを片目でかき分けて、ズンズン歩いていた

手にはブーケを持って

ハチ公前広場はラッシュアワーの山手線のよう

渋谷は仮装した楽しそうな人たちで溢れかえっていた

眼帯して片目の私は左半身の感覚が掴めず人にぶつかってばかりで申し訳ない

奇しくもハロウィンの仮装に乗じてるみたいだな私、って思うと

クス、と密かに笑みがこぼれた。

私は黙って目的に向かって人混みをかいくぐって歩く

いつものように。

いつものように。

トリック・オア・トリート。私は小声で呟いた。


楽しい哀しいベタの小品集 代表作は「メリーバッドエンドアンドリドル」に集めてます