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(短編)壊れたマリオネット ~Innocent Love2~

私の大好きなマリオネット
ママからもらったマリオネット
とっても大事にしてたのに
壊れて言うこと聞かなくなっちゃった
どうしよう どうしよう

 私のお部屋に小さい頃から飾られていたマリオネット、可愛そうだから同じ人形趣味の方々のクラブを調べて参加して、デビューしたのです。そちらに詳しい方の主宰で、紅茶専門店を借り切って。

 マリオネットのまりこは、社交デビューしました。綺麗なフランス人形風のおべべを着て――。

まりこの社交界デビュー

 私、小公女 まりこよ。この世界のこと、何も知らないの。教えてね。
 私、シャルロットよ。よろしくね。
 私、リーゼロッテよ。よろしくね。
 私、アリスよ。よろしくね。
 私、アリーチェよ。よろしくね。あら、アリス、同じ名前ね。
 アリスは言いました。あら、アリーチェ。同じね。お国が違うのね。よろしくね。

 まりこはよく意味がわかりませんでした。けど、素敵ね、と言いました。
 私、ルシアよ。よろしくね。
 私、エレナよ。よろしくね。
 みんなで一緒に遊びましょう。

 みんなで楽しくおしゃべりしたりお紅茶を飲んだりケーキを食べたりして楽しく過ごしました。
 皆、初対面とのことです。
 話題は、可愛い挨拶、名前の由来とか、どこから来たかとかで始まりました。
 まりこは、それらを聞くたびに、素敵ね、と言って褒めました。
 他の皆も、へー、と感心しているようなので、まりこはそれで良いと思っていました。

 話題のその先は、出身の家柄がいかに大きくて豊かで名誉があるかと、彼女たちが持っているもの(おもちゃはもちろん、宝石とか、土地とか。また有名な貴公子の写真入りペンダントとか)とかになって行きました。
 その話題の時の方が、皆は盛り上がっていたので、この様な話題の方が価値があるのか、と理解しました。
 それらの名称はまりこにとって初めて聞くものばかりでしたが、素敵ね、と言いながら、彼女たちの反応具合を見て、何が最も市場価値があるもので、何が個人的な価値でしかないかが分かってきました。
 また、彼女たちは笑顔で話しながらも、たまにどちらかがすごいのか、ということで言い合いになることがあり、そんな時は幾らで手に入れたか、という話題になったので、まりこは、その価値を具体的な金額で知ることができ、そこから類推するに、全ての物の値段を把握することができるようになってきました。
 お紅茶の飲み方やケーキの食べ方は、なるべくあとの順番にまわることで、先の子の食べ方飲み方を参考にして、テーブルマナーをその場で学びました。
 お紅茶は葉っぱよりも先にミルクをカップに入れるのが鉄則、と知りました。
 ケーキの周りの透明なセロファンはフォークでくるくると巻いて取る、と知りました。お紅茶とケーキはとっても美味しかった。
 まりこは自分の部屋に、天体望遠鏡や、鉄砲や、洋弓や、学術書やたくさんの本や素敵な画集、それとコンピューターがあることを説明すると、皆、おお、と言って、きっと貴族で学者でもある大変博識な方の家柄なのね、と感心しました。
 また、たくさんの動物や女の子の姿のぬいぐるみ(マリオネットとは違う、布と綿でできた)があることも説明すると、皆、おお、と言いましたが、少しして顔を見合わせたので、まりこは、これは価値が低いのかと察しました。
 まりこの家柄についてはあまり質問されなくて、ほっとしました。まりこもよく知らなかったのです。

 その日は楽しくおしゃべりして解散しました。まりこは自分が結構珍しがられて、感心された回数が多かったので、満足しました。
 そして、今度はもっと感心されるようにしよう、と思いました。

 帰ってから、まりこは、部屋にある難しい本を見て、その題名と著者を覚えようと一生懸命に睨めっこして、おおよその概要・あらすじとともに把握しました。

 また、いつもはご主人様と一緒にベッドで寝るときに、たくさんの動物や女の子の人形・ぬいぐるみと寝ていましたが、それらをベッドの奥へと追いやって落として、ベッドの上をご主人様と二人で寝ることにしました。落ちたぬいぐるみたちはしばらくベッドの下からめいめいに文句を言ってましたが、ご主人様が来る頃には喋らなく、冷たくなっていました。

 ご主人様は、ぬいぐるみが消えていることを不思議がりましたが、気にせずまりこと一緒に寝ました。

まりこの社交界デビュー2

 次の社交会の機会が来ました。
 皆、再会を喜び合いました。

 小公女 まりこよ。ご機嫌よう。
 シャルロットよ。ご機嫌よう。
 リーゼロッテよ。ご機嫌よう。
 イギリスの、アリスよ。ご機嫌よう。
 イタリアのアリーチェよ。ご機嫌よう。
 まりこは二人は違う発音なのに同じ名前で、国というものが違うという意味がよくわかりませんでした。けど、素敵ね、と言いました。

 私、スペインのルシアよ。ご機嫌よう。
 私、ロシアのエレナよ。ご機嫌よう。
 みんなで一緒に遊びましょう。

 ところがまりこが言いました。ちょっとまって、シャルロットちゃんとリーゼロッテちゃんはどちらの国の方?
 シャルロットは、私、フランスよ。と言いました。
 リーゼロッテは、私、ドイツよ。と言いました。
 ご機嫌よう、とまりこは礼をしました。

 ところがシャルロットが言い出しました。あら、まりこのお国の紹介がまだじゃなくて?と。
 まりこは困りました。自分がどこの国か、知らなかったのです。
 すると、リーゼロッテとアリーチェが困惑するまりこの理由に気がついて、近づいてきて、そっと手で口元を隠して、耳打ちしました。あなたは、私たちと同盟国、「日本」よ、と。
 自分のことをよく知らないということは人形にはよくあることだと、二人はよく知っていたのです。

 まりこは自分が日本の出身だと初めて知りました。もっとも、日本で生まれたのか、日本製なのかは定かではありませんが。名前から、そう想定されたということです。しかし、同盟国、という意味は分かっていませんでしたが。
 まりこは、私、日本よ。ご機嫌よう。と言いました。

 リーゼロッテとアリーチェはすぐにご機嫌よう、と返事をしましたが、アリスとシャルロットはこそこそとまりこを見ながら何かを話してから改まって、ご機嫌よう、と言いました。
 ルシアは始終困惑していました。
 エレナは最後までムツとした表情で何も言いませんでした。

 それからは以前の様に、みんなで楽しくおしゃべりしたりお紅茶を飲んだりケーキを食べたりして楽しく過ごしました。お紅茶とケーキはとっても美味しくて幸せでした。
 皆、再会を喜び合いました。また、自分のことをめい一杯自慢できるからです。
 特に、まりこが喜んで大変興味深そうに聞いて褒めてくれるので、それが楽しみでした。
 ところが、まりこは今回は違いました。皆が何かを自慢するたびに、私もそれを知っている、私もそれと同じだけど違うものを持っている、などと言い出しました。
 皆は、その「同じだけど違うもの」が、より金額の高い製品だということは分かりましたた。
 皆は、素敵ね、と言う側になりました。

 しばらくは変な雰囲気でしたが、気にせず続けていくと、話題は次第に、誰の家柄が一番立派か、という話になっていきました。立派の基準は様々に語られました。爵位について、召使の数について、勲章の数について、軍隊の強さについて、土地の広さについて、資産の金額について、知識の広さについて。
 まりこは、多くがまだ理解できないことばかりでしたが、適当に負けないぐらいに言い繕いました。資産の金額と知識の広さについては、どんな単位で、なんと言えば驚くかがなんとなく分かりましたので、大ボラですが、それを言うことで、皆を驚かせ、感心させることが出来たので、とても幸せでした。
 特に、知識の広さについては、誰かが何か学識めいたことを言うたびに、「私もそれ知ってる」「私も読んだことある」それに加えて「昔」と言うことで、さらに気持ちが良いことがわかってきたので、多用しました。

 その日は楽しくおしゃべりして解散しました。まりこは自分が結構珍しがられて、感心された回数が多かったので、満足しました。
 そして、今度はもっと感心されるようにしよう、と思いました。

 それが楽しみで仕方がなかったので、帰ってから、まりこは、部屋のベッドの上に戻されていたたくさんの動物や女の子の人形・ぬいぐるみ達が親しげに「お帰り、どうだった?」と話しかけてきましたが、何か卑しい感じがして、それらをベッドから奥へと追いやって落として、ベッドの上をご主人様と二人で寝ることにしました。落ちたぬいぐるみたちはしばらくベッドの下からめいめいに文句を言ってましたが、ご主人様が来る頃には喋らなく、冷たくなっていました。

 ご主人様は、ぬいぐるみが、またも消えていることを不思議がりましたが、気にせずまりこと一緒に寝ました。

まりこの社交界デビュー3

 次の社交会の機会が来ました。
 皆、再会を喜び合いました。

 小公女 まりこよ。ご機嫌よう。
 そこでまりこは、皆を制して彼女が皆を紹介し始めました。

 こちらフランスのシャルロットよ。ご機嫌よろしくて?
 こちらドイツのリーゼロッテよ。ご機嫌よろしくて?
 こちらイギリスのアリスよ。ご機嫌よろしくて?
 こちらイタリアのアリーチェよ。ご機嫌よろしくて?
 こちらスペインのルシアよ。ご機嫌よろしくて?
 こちらロシアのエレナよ。ご機嫌よろしくて?
 みんなで一緒に遊びましょう。

 皆、困惑して、顔を見合わせて戸惑いましたが、唾を飲んでから、ご機嫌よう、と言いました。
 ところがエレナが言いだしました。ちょっと、なぜ日本のまりこが偉そうに紹介するの?
 対するまりこは間髪入れずに言い返しました。あら、なぜ日本の私がロシアのエレナにそんなこと問われなきゃいけないの?と。実のところは、エレナがとりわけ「日本の」と言った意味も考えずに、返し言葉で言っただけなのですが。
 しかし、それを聞いてエレナは、屈辱のあまり、顔をしかめて、泣きそうになりましたが、グッと堪えました。
 シャルロットとアリスはエレナをまあまあ、となだめました。

 それからは以前の様に、みんなで楽しくおしゃべりしたりお紅茶を飲んだりケーキを食べたりして楽しく幸せに過ごしました。
 皆、再会を喜び合いました。また、自分のことをめい一杯自慢できるからです。
 特に、まりこが喜んで大変興味深そうに聞いて褒めてくれるので、それが楽しみでした。

 ところが話題が次第に尽きてきました。皆、自慢できるネタが無くなってきたのです。といいますのも、裕福自慢ではまりこの(自称の)裕福さと知識の広さによって勝てなかったからでした。そこで、なぜかしばらくすると話題は自然に、「不幸自慢」になってきました。まりこは、不幸、という言葉すら知りませんでしたが、なにやら「不幸」という概念について自慢しあっている、それはむしろ一時的ではあるが貧相な目にあった出来事であったり、男性、貴公子に恋焦がれた上に振られた出来事を自慢できた方が偉いらしい、または、身近な人が死ぬと偉いらしい、ということを理解しました。

 まりこはしばらく聞き役に徹して、うなづきながら素敵ね。と言いました。さらに話しを聞くと、不幸とはどうやら、多くの金額を得た後に全て失ったり、立派な爵位の男性と婚姻関係か肉体関係になった後に裏切られたりした方が偉い、ということが分かってきました。またさらに驚いたことに、逆になにも持たずなにも得ずになにも出来ず学識も資産も地位もない、ただの「召使い」などがなにも出来ず努力もせずに病気か何かもあったり無かったりして自分の不幸を呪い続けているのも可哀想で偉い、ということが分かりました。

 それらは今までの偉さの基準とまるで逆でしたのでまりこは随分と戸惑いましたが、必死で話題についていき、そして泣きながら同意して「可哀想」と言うべきことを学びながら、次に「素敵ね」と付け加えるのも忘れないことで、皆と一心同体になる気持ちを味わえている気がしました。
 なお、さらに高等テクニックとして、何も出来ずに自分の不幸を呪っている学識も地位もない召使いを可哀想と思うのは、召使いが可哀想なのではなくて、それを哀れだと思って何も助けることができない、否、助けないでいる残酷な自分が可哀想、と思う方が、不幸としてより上位概念だということに気がつきました。この境地に至るには、まりこにはまだ難しかったですが、とりあえず理解したふりをしました。

 まりこは、今回はほとんど自分の不幸自慢が出来なかったのですが、多くの共感を得たふりが充分出来たので、皆の不幸をともに泣いて、私が泣くことで感謝もされたので、とても幸せな気分になりました。そこで思わず叫んでしまいました。

嗚呼、人の不幸はなんて美味しいのでしょう!
Ich fühle mich Schadenfreude!(イッヒ フューレ ミヒ シャーデンフロイデ!)

 …と。しかし、リーゼロッテから親しく教えてもらったから、それを声高に言っただけなのに、少し皆から変な顔をされました。あれ?皆もそう思ってるはずなのに、このことを口に出したらいけないみたい。不思議。

 その日は楽しくおしゃべりして解散しました。まりこは皆と一緒に泣くことで感謝されたので、大変満足しました。
 そして、まりこは、皆に負けないぐらいに不幸にならなければな、と思いました。

 それが楽しみで仕方がなかったので、帰ってから、まりこは、部屋のベッドの上に戻されていたたくさんの動物や女の子の人形・ぬいぐるみ達が親しげに「お帰り、どうだった?」と話しかけてきましたが、なぜだか彼らが幸せしか知らないような気がして、それがとっても卑しい感じがしたので、それらをベッドから奥へと追いやって落として、ベッドの上をご主人様と二人で寝ることにしました。落ちたぬいぐるみたちはしばらくベッドの下からめいめいに文句を言ってましたが、ご主人様が来る頃には喋らなく、冷たくなっていました。

 ご主人様は、ぬいぐるみが、またも消えていることを不思議がりましたが、気にせずまりこと一緒に寝ました。

 そしてまりこは次の機会が訪れる前に、行動を起こしました。
 ご主人様がいない間に、隣の部屋に忍びこんで、貴公子のマリオネットと交際を始めたのです。
 まりこは作り話しで不幸なふりをして、貴公子に近づき、同情を得て、そして泣いてもらうことに成功しました。
 まりこも泣きましたが、一緒に私のことで泣いてもらえるというのは、なんて嬉しいことでしょう!これが愛?そう思いました。

 不幸を自慢するのがこんなに楽しいことだなんて。まりこは幸せでした。

 そしてまりこはご主人様のいない間、足繁く貴公子のところに通って、自分の不幸の身の上話を語り、同情を得て、愛を確かめ合いました。

まりこの社交界デビュー4

 次の社交会の機会が来ました。
 皆、再会を喜び合いました。もはや彼女達は親友と言っても過言ではありません。

 まりこは、貴公子と対話することによって得た洗練された自分の不幸な身の上話しと、貴公子との出会い、そしてなかなか会えない境遇とたまの泣きながらの肉体関係を皆に説明することで、皆の感嘆と賞賛の絶頂を味わうことができたのです。

 不幸を自慢するのがこんなに楽しいことだなんて。まりこは幸せでした。

 その日はとっても楽しくおしゃべりして解散しました。まりこは一生懸命皆の不幸も聞いて、泣いてあげました。ただ、決して「頑張って」とか「こうしたら上手くいく」などは言いません。なぜかって?もしそれで、上手くいってしまい不幸で無くなってしまったら可哀想じゃないですか。せっかく彼女は不幸を楽しんでいるのだから。私達もそれを楽しんでいるのだから。

 私たちは、不幸を続けることが幸せで堪らないのですから。

 アドバイスはとても出来る身分ではありませんでしたが、言うとすれば「あなたの悔しい気持ち、分かります」「あなたはありのままでいて」ぐらいで、これは喜ばれましたし、それを言う時なにやら勝者の気分を味わえました。

 まりこは皆と一緒に泣くことで感謝されたので、大変満足しました。
 そして、まりこは、皆に負けないぐらいに不幸にならなければな、と思いました。

 それが楽しみで仕方がなかったので、帰ってから、まりこはご主人様のいない間、足繁く貴公子のところに通って、自分の不幸の身の上話を語り、同情を得て、愛を確かめ合いました。

 そして、その行為の最中をご主人様に見つかりました。

マリオネットをこわしちゃった

私の大好きなマリオネット
ママからもらったマリオネット
とっても大事にしてたのに
壊れて言うこと聞かなくなっちゃった
どうしよう どうしよう
 
オーノーカムカムカモン Ahカムカムカモナbaby
パオパオパンパンパン
オーノーカムカムカモン Ahカムカムカモナbaby
パオパオパ

捨てよ。

fin.

お楽しみいただけましたでしょうか。真実の愛と幸せを追求する、Innocent Loveシリーズの続きです。

死ね!とかクソ!とかコメントして頂いたりブロックとかしてもらえると身悶えて喜びます。よろしくね。

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