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入試において個別対応よりユニバーサル対応を!

入試の時に障害学生が受験の際に様々な配慮が必要になります。例えば、聴覚障害学生の場合は、口頭連絡の代わりに連絡事項を記載した紙を配布するなどの配慮があります。しかし時には、必要な配慮を受けられないことが起こっています。今回、その当事者にお話を聞いてみました。

聴覚障害学生の入試における配慮について

2021年11月12日に、Twitterでこんな発言がありました。

2021年に耳が聞こえない方が関西の某外大を受験する際、必要な配慮が得られなくて、受験を断念したという悲しい事件が起こりました。

「今までで悲しかった出来事のひとつが、関西の某外大に受験したくて「耳が聞こえないのでリスニングは免除して配点を変えるか、もしくはスクリプトなどの代替の方法でお願いしたい」とお願いしたところ、『別室で音をデカくするか、0点扱いしかできないです』と言われたこと

https://twitter.com/remi_english/status/1459107335264038913?s=20

大学側の配慮が足りないために、学びたいことを学べない、こんなことが令和になった今でも起こることが信じられませんでした。私は、かつて大学受験の際、医学部受験を希望していましたが、聴覚障害者は医師になれないという国家資格上の制限から、受験させてもらえず、また、近辺の分野である、化学や生物なども、実験上危険が伴うという理由から、受験させてもらえなかったということを、平成元年に経験しました。

今は、法律改正により、聴覚障害者でも医師になれるようになりました。また、様々な分野にも障害学生支援の仕組みが出たことで、進学が可能になり、事態は大きく改善してきました。そのような中で、いまだに残っている社会の壁に愕然としてしまいました。

 障害を理由とする差別をなくしていく取り組み

今の日本では、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)が制定されていて、国・地方公共団体等(国公立学校など)や事業者(学校法人など)は、不当な差別的取扱いの禁止(法的義務)が課されています。また、合理的配慮の提供が義務付けられています(※)。
※ 国・地方公共団体等(国公立学校など)は法的義務、事業者(学校法人など)は努力義務(数年以内に法的義務化される予定)

 文部科学省は、平成27年に告示した対応指針において、不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方を定めています。

(1)不当な差別的取扱い

障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付すことなどにより、権利利益を侵害すること。

(2)合理的配慮

障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

 なお、大学入試センター試験のリスニング試験においては、両耳の平均聴力レベルが60デシベル以上の者は、リスニングの免除やリスニングにおける音声聴取の変更などの配慮を依頼することが可能であるとしています。

▼受験上の配慮案内(独立行政法人 大学入試センター)
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/hairyo.html

また、二次試験において、同様の措置を行なっている大学もいくつかあるとのことです。

負担を強いる個別対応ではなくユニバーサル対応を

Twitterでリスニング試験の配慮をお願いしたレミさんに直接お話を聞いてみました。

――関西の某外大に受験したいと思った理由は何ですか。

レミさん:幼い頃にテレビでやっていた海外ドラマにハマってそこから海外の文化が一気好きになりました。また、学校や塾の英語の先生にも恵まれたおかげで英語にハマりもっと英語を使っていろんな人と喋りたいと思うようになりました。国際系の勉強をしたくて、そこの大学だと英語で専門的なことを学べることと、留学生も多いことから、受験を検討していました。

――大学を受験した際は、事前に配慮を希望する必要があるとうかがいましたが、具体的にどのような配慮を希望されましたか。

 レミさん:大学の面接にて、耳が聞こえないため受験手段の一つであるリスニングを免除するか何か代替の方法をお願いできないか聞きました。
大学側はリスニングの免除はできなくて、別室で音を大きくするか0点扱いしかできないとのことでした。
リスニングだと私は分からないと説明したのですがそれでも無理で、入学後のサポートも手薄な感じで、かつ、授業とかも「聞こえないと難しいと思う」と言われました。

――大学側から提示された配慮は希望していたものと違っていましたが、それについてどのように思いましたか。

 レミさん:配慮をすることが難しいこと以上に、最初から「難しいですね」と断りがあったことが一番残念でした。私のいま通っている大学や他の受験を検討していた大学には積極的に配慮をしてくれる所も多かったので、そことのギャップもあって、まだそんな考えを持っている大学もあるんだって驚きもありました。また、聞こえないとやりたいことの幅も狭まってしまうことを思い知らされたようで悲しい気持ちでした。

――今後、聴覚障害者の大学受験においては、どのような配慮をしてほしいと思いますか。

レミさん:まず、口頭で行われる説明などを文字化してほしいです。人によっては手話通訳を希望する場合もあると思います。私の場合は受験に集中したかったので、始まりと終わりの合図などを紙にあらかじめ文字が印刷されていて、それを渡される方法を希望しています。
私が他の大学を受験した時は、監督官が私の近くにいて合図をしてくれたり、口頭で説明されている内容が印刷された紙を渡してくれたりしました。
しかし、監督官が周りをうろうろしているため、少し気が散りました。
できれば、聞こえない人がいたら対応するのではなくて、聞こえない人がいてもいなくてもスムーズに受けれるように、最初から口頭で説明する内容は前に張り出されてるなどの基本的な配慮のベースが全受験生に対してあったらよりよいと思いました。

――なるほど。基本的な配慮のベース、つまり、負担を強いる個別対応ではなく、ユニバーサル対応(すべての人が負担にならないようにあらかじめ対応すること)があると、全受験生が平等な立場で、受験ができますね。事前に配慮申請をする必要があるとうかがいましたが、それについてはどう思われますか。

レミさん:私は聴覚障害があるので配慮申請のために、志望校を早く決めないといけなかったのがつらかったです。また、配慮申請のためには診断書の原本が必要で、いちいち病院に診断書をもらいに行かないといけなかったのと、事前面接がある場合が多かったのとで、結構な時間とお金を費やしたのも受験期の私にとってはすごくストレスでした。配慮のためにやらなければいけないことは百も承知なのですが、受験期はそれがすごくストレスで、つらかったです。
なので、さきほど述べたように、最初から文字が張り出されてたり、合図がわかりやすかったりしたら、配慮申請する必要がなくて、負担が掛からなくて良いと思います。リスニングに関しても、聞こえない学生がリスニングができないことによって行きたい大学に行けないことがないような、また、受験において不利益を被らないような制度ができてほしいです。

――受験の公平性を保つ制度は本当に必要ですね。今回の大学受験以外に、聞こえないことによってどんな悲しかったことがありましたか?

レミさん:【社会側の理解不足の問題】としてはこんなことがありました。
 ー耳が聞こえないことで飲食店に入店拒否をされたり、遊園地に入れなかったりする
 ーたまに「聞こえないから〜できないですよね」ってレッテルを貼ってくる人がいる

また、【社会側のサポート不足の問題】としてはこんなことがありました。
 ーサポートが手薄なことでやりたいこと、行きたいところの幅が狭まってしまう(CAになるのが夢だったのですが聞こえないことで断念しました)
 ーバイトなども聞こえないことでできないことが多い
 ーTOEICやIELTSなどを受験したいとき、普通の人は前日などでも受験を申し込めるが、聞こえないと配慮申請をしないといけないため二ヶ月前などから申請しないといけない
 ー映画やドラマなど、字幕がないと見られない、字幕あったとしても数日間限定で、しかも朝イチだけだったりするのでいつでも見られるわけではない
 ーコンサートやスポーツ観戦の時、MCやアナウンスがわからない
 ーどこにおいてでもアナウンスや音声案内がわからないので行動が遅れたり間違えたり迷惑をかけてしまったりする

いずれも私にとってはとても大事な問題であり、社会全体として解決に向けて動いてほしいものです。

――社会側の理解不足やサポート不足など色々な問題がありますね。今回のご経験を踏まえて、日本社会全体に、足りないもの、改善が必要なものなどをお聞かせください。

レミさん:正しい知識、理解が必要だと思います。間違った情報による思い込みや偏見がまだあると感じています。理解してもらえるだけでもだいぶ変わると思います。
サポート体制を充実させて、どんな問題がある人でもできる限りみんなと同じように過ごせることができる社会になってほしいと思います。
また、選択肢を増やすことで、いい意味で、特別扱いがなくなってほしいです。

共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムについて

今、文部科学省は、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築を進めています。このインクルーシブ教育システムにおいては、「基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである」としています。(文部科学省Webサイトより)

インクルーシブとは、「多様な人々がいる社会で誰一人として仲間はずれにしない」という意味があります。

また、障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮として、『障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うこと』としています。(文部科学省Webサイトより)

▼共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要

 障害者差別解消法の施行前後から、日本の大学で障害をもつ学生の在籍数は急増しています。大学入試自体がインクルーシブで、真に公平なものに変わっていく必要があります。少なくとも、当事者が声を挙げないと改善しないということは極力避けるべきです。受験生は限られた時間の中で、様々な対応をしなくてはならず、合理的配慮を求めること自体で、負担が生じることが恒久的に発生することは、不公平だと言わざるを得ないからです。一刻も早い改善が望まれます。


あらゆる人が楽しくコミュニケーションできる世の中となりますように!