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世界よ、これが日本映画だ。映画興収ランキングから見る日本の独自性

海外を中心にビジネスをするようになって5年ほど経ちます。やればやるほどくっきりとしてくるのが日本の特殊性です。「島国」とはよく言ったもので、日本が置かれた環境、歴史、個性を見事に言い得ていると感じます。最も特殊性があるのは日本人らしいクリエイティブにあります。これは日本人が中からクールジャパンと誇るもの以外にもたくさんあるように思います。

日本の映画コンテンツは特異な存在

一つの象徴的なクリエイティビティは映画です。例えば下記に該当する映画は何でしょうか。

・大人から子供までが劇場に足を運び日本映画の興行収入ランキングでは1位を獲得し、低予算アニメとしては空前の大ヒット

・映像化が不可能と言われた原作世界観を実力派のアニメーターや脚本家が限られた予算で映画化

・関連グッズの売り上げは200億円規模

・隙間空間を好んで生息する球体に近い体型をした生命体が言葉を発せずにコミュニケーションを取り生息する異世界ファンタジー

・主要キャラクターは現実世界における哺乳類/鳥類/両生類に近い動物や雑草に近い植物、脂肪分の塊、霊体、ピラミッドに擬態した生命体など

≪答え≫










劇場版すみっコぐらし!!!

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島国クリエイティブの最新進化系「すみっこぐらし」

北米や中国といった世界の興行収入ランキング上位を占拠している大規模予算映画とかけ離れた作風。劇場版すみっコぐらしの快進撃が話題になっていた2020年初頭、海外の映画好きたちが驚愕していたことを記憶しています。

そして、1作目に続き絶賛公開中の2作目『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』も大ヒットの様相。興行収入はマーベル作品などのハリウッド大作もおさえ2週連続の1位を獲得。公開から5週目で興行収入10億円突破する勢いです。

■『青い月夜のまほうのコ』興行収入/ランキング

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ジブリ作品や名探偵コナンシリーズ作品などの存在を通じて、日本ではアニメ作品の人気が高いことは知られていますが、一見、子供向けのゆるくてかわいい作品が興行収入1位。この状況は、世界の中で日本のコンテンツ産業がめちゃめちゃ特殊なマーケットであることを示してもいます。

日本を代表する「ゆるふわクリエイティブ」

「すみっコぐらし」のヒットは「ゆるふわクリエイティブ」のコラボによって生まれました。

一つのキープレイヤーは株式会社ファンワークスです。この会社は2005年に設立されたインディーズアニメ支援会社です。2000年代初頭にインターネット上で広まったFlashアニメでのコンテンツビジネス構築を行うことで成功をおさめました。過去プロジェクトでは「やわらか戦車」「オンリーピック」「アグレッシブ烈子」などの代表作があります。こうしたFlashアニメに共通するのが1〜2名程度の小規模で制作が可能であることと、日本のネット文化特有の「表現のゆるさ」「ふわっとした思想」を伴っていること。なので、大規模な予算を投資しなくても制作できる映像ジャンル。リスクをおさえつつヒットコンテンツが狙えるといったメリットもあります。ファンワークスはここに目をつけ、日本の映像コンテンツ産業に新風を吹き込んできたプレイヤーです。


もう一つのプレイヤーはサンエックス株式会社です。1932年に文具店の卸売り事業からスタートし、1980年代以降、自社オリジナル文具の製造販売を展開。そして、最大のヒットとなったのは「たれぱんだ」のキャラクター文具商品です。

たれぱんだの社会現象的なヒットによって、文具販売だけでなくライセンスビジネスをスタート。以降、リラックマなど日本人なら誰もが知っている「ゆるくてふわふわしたキャラ」を定期的に発明しています。こうしたサンエックスが生み出すキャラクターの特徴はヒットの要因がイマイチ因数分解できないことにあります。一説では2000年代以降の社会の虚脱感をキャラクターとして表現し共感を呼んだことが要因とも言われています。しかし、生みの親である当時サンエックスのデザイナーだった末政ひかる氏が語っているように、疲れた自分をキャラクターにダブらせて表現したもので、感性や偶発性がもたらした要素の方が大きいのもまた事実です。ここでも、キーワードとなるのは「ゆるいクリエーション」です。どうやって考案されたのかよくわからないが誰もがパッと見ただけで魅力を感じてしまう訴求力があることには違いのないクリエイティビティ。これは日本のお家芸でもあります。

この2つの「ゆるふわクリエイティブ」プレイヤーがタッグを組み、大成功しているのが「劇場版すみっコぐらし」ということです。

みんなで共創する強固なリーダー不在の独自性

先ほども述べたように「すみっコぐらし」の現象が世界の映画産業と比較するとめちゃくちゃ異常な現象で日本独特です。そして、こうした「ゆるさ」が王道のヒットコンテンツとして定期的に爆誕しているのが日本市場の独自性であるように思います。理屈で説明しうる再現性や方法論はないのだけれどもジャンルとして確立しつつあるということ。資金では日本はアメリカや中国に勝てないけれども、資金力では解決できないクリエイティブのあり方。そうしたクリエイティブは強烈なリーダーは必要ないのかもしれません。現に「すみっこぐらし」に強烈なワンマンの存在が見えてきません。各種プロフェッショナルたちが最大公約数を積み上げてつくったような日本的チームワークの産物のように思います。こうした日本ならではの島国や村社会意識から生まれるものこそ独自性があるように思います。海外に目を向けるとGAFAや一党独裁政治など、強烈な経営者や政治家がリーダーシップを発揮していますが、日本がベンチマークにしすぎるのはフィットしないかもしれません。

その意味で「すみっこぐらし」が指し示すのは、コンテンツビジネスに限らず、日本の特質したブランドを生み出すヒントなのかもしれません

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