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世界のWAGYUは日本の牛ではない

今、和牛の仕事をしています。コロナでニーズが減退した産業をどのように盛り立てていくのか。そのお手伝いをする中で、ブランド戦略やマーケティングを考える本質的な問題に向き合っています。

世界のWagyuと聞いてどのように感じるでしょうか。メディアでも、欧米やアジアの富裕層を中心にWagyuが親しまれ市場が拡大している様子が報じられたりもしますよね。なんとなく日本の食肉産業が盛り上がっているように感じるかもしれませんが、どうも喜ばしいとは言い難い状況があります。そこから見えてくる問題や課題は、産業全体のブランド戦略を考える上で、示唆に富んでいると思うので、市場背景も含めて整理してみました。

牛肉にアゲインストな時代

まず、世界の牛肉市場は気候変動問題によってアゲインストな状況にあります。牛が吐き出すメタンガスが地球温暖化の要因になっていると指摘されていて、SDGs等の社会課題意識の高まりによって家畜数を制限する考え方が広がっている為です。このことによって牛肉市場の成長に影響するだろうとの見方が強いです。

世界のWagyu Beefは成長市場

しかし、欧米・アジア諸国を含めWagyuファンは増えており、コロナ後の世界経済において、Wagyu市場はさらなる成長が予測されています。

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Source) Global Wagyu Beef Market, By Regions,2021 to 2028

世界の嗜好食品となったWagyuの人気は高く、東南アジアやアフリカの経済成長を鑑みると、環境問題と照らし合わせても市場は成長すると予測されるわけです。

オーストラリア産WAGYUが世界を席巻

実は、海外のWagyuは日本産ではないケースが多いのです。規制が曖昧だった70年代・80年代に、徐々に日本の国外に和牛の子牛・卵子・精子が輸出され、徐々に欧米諸国で和牛肥育の試みが始まり、1990年代以降アメリカにもオーストラリアにもWagyuの生産と品質を向上させるための協会(アメリカ和牛協会・オーストラリア和牛協会)が設立。本格的に日本産以外の和牛が国際市場に出回るようになっていきます。さらに、追い打ちをかけたのが口蹄疫の問題や、東日本大震災の原発事故による放射能汚染問題。各国が日本産の牛肉の輸入を規制する中で、品質の高い和牛を自国生産できるようになったオーストラリアが世界のシェアをどんどん奪っていったのです。

WAGYUの本流ブランディングが重要

こうした状況を問題視した日本政府や日本の和牛業界団体は、規制やルールを整備して、海外流出を防ぐ動きを厳格化しています。しかし、国際ルールの制定や規制以前の事象に関して、遡って制限をかけることはできないため、オーストラリア産WAGYUの世界輸出を抑えることはできません。なので、日本産の正統性や品質で勝負し、世界へ向けてブランディングしていくことが重要になります。例えば、日本国内においては安いオーストラリア産が入ってきても、国産和牛の品質を強調することで、高品質な肉に関してのシェアが落ちることはないようにブランドが確立しています。

WAGYUは日本語ではない問題

和牛は和の牛なんだから日本が本領であることは当たり前だし、積極的にプロモーションすればリカバリーは難しくないように感じるかもしれません。そもそもオーストラリア産和牛って言葉自体おかしいやろと。

この感覚を共有できるのは日本人だけかもしれません。なぜなら、日本語を理解していない人々にとって、WAGYUを和の牛と意味変換しないから
です。グローバル・ブランディングにおいて、語源の意味ではなく実際に言葉がどのように使われているのかを捉えることが重要です。

いまグローバルではWAGYUは最品質の牛肉という意味しかなくなっています。WAGYUの本家本領として世界最高品質をどのようにブランディングするのか。ワインにおけるフランスのように、独自規格とオピニオンを、思想と世界観とを合わせてブランド構築することが重要になると考えています。

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