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《大学入学共通テスト倫理》のためのジョン・ロック

大学入学共通テストの倫理科目のために哲学者を一人ずつ簡単にまとめています。ジョン・ロック(1632~1704)。キーワード:「信託」「抵抗権」「革命権」「議会制民主主義」「権力分立」主著『統治二論(市民政府論)』『人間知性論』『寛容についての書簡』

ロックはこんな人

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ちょっと心配そうな表情ですが、政治の裏方としていろいろな気配りをした人らしいかもしれません。困り眉?

📝ロックと言えば『市民政府論』、『統治二論』が題の正確な訳です!

『統治二論』(とうちにろん、Two Treatises of Government)は、1690年に政治学者ジョン・ロックによって著された二篇の論文から成る政治哲学書である。『市民政府論』『市民政府二論』とも呼ばれる。(フリー百科事典「ウィキペディア」、統治二論のページから引用)

『統治二論』は直訳で、確かに「市民政府」と訳さない方がいい感じです。私は市民政府論になじみがありますが、本の表紙の「Civil Government」も「政治による統治」の意味が主だそうです。

📝市民のための政府を考究した『統治二論』を見ていきましょう!

人間は生まれつき平等である。
(ロック『市民政府論』(角田安正、光文社古典新訳文庫)から引用)

福沢諭吉も影響を受けたロックの平等さがこれ。『統治二論』の「二」の冒頭にあります。ちなみに「一」は王権神授説(王に神的な支配権がある)を論じた、当時の著述家の本を批判しています。王はアダムの血を継いでる的な議論で、いまとなってはその批判さえ重視されません。

(立法)権力は、特定の目的のために活動する信託された権力にすぎない。
(ロック『市民政府論』(角田安正、光文社古典新訳文庫)から引用、論の単純化のため「立法」に丸括弧を付した)

これがロックの「信託」。ロックの絶対的支配と対決する姿勢は強い。公権力はそれ自身のためにはなく、人々のためにあると明確に規定しています。あと、立法部と君主を分けたり「権力の分立」をモンテスキューに先駆けて行っていると言われます。

実力で反抗することがよしとされるのは、不正、不法な暴力を相手にしたときだけである。(ロック『市民政府論』(角田安正、光文社古典新訳文庫)から引用)

これがロックの「抵抗権」。暴力を制限するとともに、絶対的支配への対抗カードであることを示しています。

国民は、その全体が権利に反して苛酷な扱いを受けるなら、機会があり次第、自分たちを圧しひしぐ重荷を取り除こうとするだろう。(略)革命は、政治に些細な不手際があるたびに起こるわけではない。(ロック『市民政府論』(角田安正、光文社古典新訳文庫)から引用)

これがロックの「革命権」。絶対的支配が暴政ならそれとは別に政府を作ってよいとしています。ただ、「反乱」的暴力と革命の必要な場合をかなり慎重に論じ分けています。ロックはピューリタン革命から名誉革命のイギリスに生きており(途中国外亡命しています)、国が常に紛争続きだったことも影響しているでしょう。

社会が合議体に立法権を据えた場合でも、統治が続く限り立法権は決して国民の手には戻らない(略)しかし、国民が立法部の任期を定め、個人または合議体にゆだねたこの最高権力を一時的なものにしておくことがある。(ロック『市民政府論』(角田安正、光文社古典新訳文庫)から引用)

これがロックの「議会制民主主義」。『統治二論』の「二」を通読すると、革命後の政府のプログラムがリアルに描かれている感じがして、フランス革命やアメリカ独立宣言に大影響を与えた書物だとよく分かります。

ここでちょっと一休み

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こんな現在の基本的な社会構想がてんこもりの『統治二論』の書影がこれです!

📝ロックの他の主著からも平等志向を探りましょう!

もし、私たちに生得原理のあることを承服させようとする者が(略)命題を(略)別々に考察していたら、おそらく、あれほど急いで原理が生得だと信じなかっただろう。(『世界の名著 ロック ヒューム』(中央公論社)から引用)

ロックの『人間知性論』から。人間は「白紙状態(タブラ=ラサ)」で生まれ、絶対的と思える観念も原理も生得的ではないと論じています。ここに争いの調停の意味合いもあり、思想信条の異なる者同士が共存する必然を導き出しています。どちらも原理として正義でないのだから争うなという論理。ちなみに、ロックはこの一書でイギリス経験論の代表的存在となっています。

ですから私はこう断言します。為政者の権力は法の力によって信仰箇条や礼拝形式を決定するところまでは及ばないのだ、と。(『世界の名著 ロック ヒューム』(中央公論社)から引用)

ロックの『寛容についての書簡』から。異端的な宗派を「寛容」すべしというキリスト教内部の議論ですが、ロックはここでも立場の違いを肯定して、共存の道を探っています。絶対的な力の支配を否定して、平等であり差異のある人間同士の選びうる正義を具体的に論じています。

📝最後に、ロックの業績は経済学の分野にまで及んでいます!

ジョン・ロックの労働説では、当人の所有物となるのは当人の労働の果実として自然界の共有物から切り離されたものであるといわれ、必要の限度を超えた財産の私有は(略)社会契約にその根拠を有するとされた。(フリー百科事典「ウィキペディア」、ジョン・ロックのページから引用)

自分の生命と身体を使って得たものを「所有物」とみなすこの発想は、「労働価値説」という経済学の基本的な考えの一つを生んでいます。これは『統治二論』の第11章で読めますが、それとは別にロックは晩年に「貨幣価値の上下(インフレ・デフレ)」に対する研究もしています。現在の経済調整のために「金」の原理を考察しようとしたのでしょう。調整の人です!

あとは小ネタを!

ジョン・ロックは「倫理」と題された文章で、「幸福がわれわれの利益、目的、かつ重大事であるならば、それに至る唯一の道は、われわれ自身と同様にわれわれの隣人を愛することである」と書いた。古典的自由主義者らしい、ポジティヴでいい言葉だと思う。

↪ジョン・ロック『ロック政治論集』(マーク・ゴルディ編、山田園子/吉村伸夫訳、法政大学出版局)から引用しました。

17世紀を生きたジョン・ロックは、カロライナ領主の秘書をしていたことがある。そこで米国サウスカロライナ州のエディスト島は、かつてロック島と呼ばれていた。

ジョン・ロックは主著『統治二論(市民政府論)』を匿名で出版した。政治的な争いを避ける慎重な防衛策と言える。同じ社会契約論者ジャン=ジャック・ルソーが実名の出版で予想外の弾圧を受け、あげく友人が陥れたのではと疑心暗鬼を生じさせたのと真逆である。

↪ジャン=ジャック・ルソーとジョン・ロックの契約説は、違い(ロックは理性的/ルソーは情的とか、ロックは間接民主主義/ルソーは直接民主主義)を勉強する必要がありますが、そもそも人間の性格が違います。それをイメージして契約説の違いを覚えるのはおすすめです。

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