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そうだラテン語をやろう! 第2回

ラテン語愛好家 山下太郎

ラテン語は教科書、辞書、参考書があれば独学できます。教科書の通読は欠かせませんが、すでに学校で英語を勉強した経験がある人は、英文法の知識があればこそ、説明文を読んでも理解できます。教科書を読みながら辞書の使い方が会得できます。あとは対訳を使えば原典講読ができます。コツは挫折しないこと。単語も語形の変化も「調べてわかればよし」と割り切れば、ラテン語は生涯の友となるでしょう。このコラムではラテン語独習のヒントをお伝えします。

ぼちぼちいこか

ラテン語にfestina lente.(フェスティーナー・レンテー:ゆっくり急げ)という格言があります。この言葉は動詞 festino の命令法 festina と「ゆっくりと」を意味する副詞 lente を並べたものです。festina lente. はふつう「ゆっくり急げ」と訳されますが、意味をくんだ上で「急がば回れ」等、自由に意訳するのも面白いです。表題にあげた「ぼちぼちいこか」は関西弁の訳になります。非関西圏の人のために一応説明しておくと、「ぼちぼち」は lente の意味を持ち、「いこか」は英語で訳すと let’s go!の意味なので、まあ festina と似たような意味と言えるでしょう。私はラテン語の学習も、この「ぼちぼちいこか」の心意気でのんびりやればよいと思います(専門家を目指す人は自分なりのやり方で猛勉強してください)。
山登りにもいろいろな楽しみ方があるように、ラテン語の山登りにもいろいろあっていいと思うのです。山登りの途中で引き返すのは何よりもったいない話です。ゆっくりでもマイペースで登ればよい、というより、ゆっくり登ることに積極的な意味がある、そんな登り方もあるはずです。山登りにおいては、ときに立ち止まって周囲の景色を眺めるように、余談や雑談もラテン語学習の大切なファクターだと思います。

ラテン語に関心を持つと、欧米の言葉が身近に感じられる

ラテン語で書かれたものは二千年の時を超えて今に伝わります。翻訳を読むだけでもその素晴らしさは実感できるでしょう(小林秀雄もそう言っています)。ただ、絵を自分でも描いたり、音楽を自分でも演奏できると、美術館や音楽会のひとときを一層楽しめるでしょう。同様に、ラテン語も、どんなに些細でも自分なりに勉強し原文を読むことができるなら、何も勉強しないよりも、楽しみが一気に広がります。
ただし、この「原文を読むこと」について、私は経験上、「最初に気合が入りすぎて挫折した人」を嫌というほど見てきました。ラテン語を教えていて感じることは、頑張れ!と言わなくても頑張る人(最初からモーティベーションの高い人)が大半です。結果的に「ラテン語を極める」ことができたら最高ですが、最初から「極めるぞ」と肩に力を入れすぎた結果「続かない」のではもったいないです。
そういうわけで、私のささやかなアドバイスは、ラテン語に「関心を持つ」だけでも十分素晴らしいと考えてみてはどうか、というものです。英単語を初めとする欧米の言語に親しむ上で、ラテン語の知識は大いに役立ちますし、冒頭で挙げたようなラテン語の名言・名句を知ることで、西洋文化への理解を深めることができるでしょう。
ラテン語で書かれた文章の多くは、英語をはじめ多くの言語に翻訳されています。これらの翻訳を読むことで作品の輪郭をつかみ、「どうしてもここは原文を読みたい!」と思う箇所に絞って訳文と原文を照合し、意味を吟味する、というのはどうでしょうか。手始めに、冒頭に挙げたようなラテン語の格言を丁寧に読んでみるのも一案です。
 

極上のワインを味わうように、ラテン語を味わう

ラテン語は漢文と同じく、たとえ短い文章であっても含蓄があります。極上のワインは一気飲みすることに意味はなく、たとえ少量でも「じっくりと味わう」ことはできるでしょう。ラテン語を読む楽しさは、これと同じだと言えないでしょうか。その楽しさを知れば、あとは自分のペースでじっくりゆっくり読解の経験を重ねることで、末広がりに読む力はついていくでしょう。ラテン語は付き合い方一つで難しくも面白くもなります。願わくは、一人でも多くの人が「ぼちぼちいこか」の気持ちでラテン語学習を楽しんで続けていかれますように。
 

著者プロフィール

「ラテン語愛好家。1961年京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程学修退学。専攻は西洋古典文学。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。

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