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『人生の選択肢』 ~難聴者の進学・就労と、将来の不安~


(前頁 ~『音楽は「感じる」ことで聴く』) ※難聴者さんインタビュー⑤

「好きだからダンスは諦めきれない。」

幼少の頃からバレエを習い、中学ではバレーボールにに打ち込んだ。

高校の時にEXILEのLIVEに行った。
TVを持たない生活で流行りに疎く、ダンスを職業にしている人がいると初めて知った。「聴こえないけどやりたい」と強く感じた。

偏見もある。「聴こえないのにダンスをやっているの?」「聴こえないのにどうなりたいの?」と言われる事も。「好きだからダンスをしているだけなのに。」

高校卒業後はダンスの道を考えた。
安定した仕事に就けるよう、大学で学びながらダンスをすればという助言もあったが、ダンスをしたかったから、なんとなく選んで受験した大学は上手く行かなかった。

選択を迫られ、ずっとダンスをやりたいと言っていたじゃない、となった。

ダンス以外の選択として、ある専門学校の受験を試みたが、「耳が聴こえない人は受けられない」と、目の前で受験票を返された。接客業に繋がるからというのが理由だった。
GenGenさんのこれまでの人生の中で、一番悔しい思い出だ。

母が「他で頑張れるからイイよ」「縁があるところには縁があるから」と言ってくれて救われた。

夢を自由に選択できない

難聴者は、聴こえない人として就職 (事務系) をしたり、手に職をつけて働く人が多い。普通の人が憧れるような職を選ぶのは難しい。

他の選択肢も難しいと言われ続けた。
「ダンスで食っていきたい」のにそれも認められず「どうすればいいの」となった。

ダンスの専門学校では、音編の授業を受けられないと試験に合格できなかった。補聴器用イヤホンを探し「これでやってみます」と言ってチャレンジしたが、イヤホンの線が細く壊れてしまうアクシデントがあった。
ヘッドホンで受験する他の参加者に混じってスピーカーでガンガン音を鳴らし、音楽を振動で感じ取って試験を受け、合格することが出来た。

周囲にも迷惑をかけたし、親にも迷惑をかけて好きな道へ進学した。ダンスで恩返しがしたい。

難聴のダンサーが意外にもたくさんいる事を、私も「BeOne手話歌」の参加者と出会い、初めて知った。難聴者エンターティナーが活躍できる場を作って行きたいとGenGenさんは思っている。

生まれつき難聴というだけで、進学・就職、「夢」すらも幅が狭まる
ボーカルユニットもイイと思ったが歌えない事で諦めた。
フリーのダンサーであるGenGenさんの場合、さらに働く環境を選ぶのが難しい。

生きていく為に、働いて稼ぐ事への課題

教える側になる難聴者は少ないがインストラクターも経験した。アルバイトを色々やりながらダンスをしてきた。アパレル、居酒屋、検品、…表に出たいがコミュニケーションが取れない為、裏方仕事が多い。「裏方にしてくれる意図は解るのだけど」。

GenGenさんの場合オーディションなど急なチャンスに備えて、曜日時間が決まっているような仕事はシフト管理が難しい。黒髪でないと働けない等の条件も苦しかった。

フリーの為、ダンスの仕事は不安定。内心は稼がないと、という焦りがある。

頼れる家族がいなくなったら

日常生活において、どうしても電話対応が必要なシーンは家族を頼る

でも、いつか親がいなくなったら。
今は頼れる姉には子どもがいて、まもなく復職する予定もある。
いつも助けてもらえる状況にあるわけではない事はGenGenさんが一番よく分かっている。

あまり使わずに済んでいるが、電話リレーサービスも後から知った。情報がリアルタイムで伝わらない事もある。電話に限らず、自分で出来る事は自分でしている。それでも誰にも頼らず生きていくのは難しい。「自分がここまで来られたのは、自分のチカラではない」と言う。

一人でも生きて行けるように

誰でも一人では生きていけないけれど、多くの人が「誰かがいて当然」と思っていないだろうか。GenGenさんの「一人でも生きて行けるように」という自立心は、難聴であるが故に、聴こえる人よりも深刻な分だけ強い気がした。

またGenGenさんの「誰にも頼れなくなったら」という話は、自身の事だけではなく、難聴の友人知人の未来までを見据え、「あの人は将来、こうした事で悩むだろう」と具体的に予想をする。

難聴者の課題は、難聴者でないと予測できないのだろうか。
誰かが伝わりにくい難聴者さん達の声を聴き、伝えて行けば…とも思うが、GenGenさんはそれを「自分で発信して行きたい」という。
難聴かどうかは関係なく、人としてなんと強くて逞しいことか。

GenGenさんの夢は、エンターティナー系フリーダンサーとして「アーティストを引き立たせるダンサー」になる事。
好きなアーティストが多く「こういう人のバックダンサーになりたい」というのを絞り込めていないが、専属という話があったらチャレンジしたい。

ダンスの他にも夢がある。明るい希望をいっぱい抱くGenGenさんの未来が「難聴」という個性の壁を乗り越えて行くために、GenGenさんは先ず、自分から行動を起こして行かないと、と考えているようだ。

~次頁『夢を追う』


Interviews and Contributions(取材・寄稿)
yuka (BeOneプロジェクト代表)

※私ども「ハニポ」 はBeOneプロジェクトの活動・運営を無償サポートしています

※難聴者さんは、難聴の種類や程度によって、一人一人全然違う聴こえ方・コミュニケーションの取り方をしています。他の難聴者さんが、皆同じ環境・状態にあるというわけではない事を念頭にご一読くださいませ。


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