「心理的な壁」が過小評価されている
コールセンターでマネジメントをしています。コールセンターにはスーパーバイザーやリーダーという役割の人たちがいます。オペレーターの質問に答えたり、業務状況に応じて指示出しをしたり、オペレーターの労務管理もします。要するにマネジメントも行っています。
スーパーバイザーは中途で採用することもありますが、オペレーターから登用するケースも珍しくありません。今まで私が経験してきたコールセンターのスーパーバイザーはほとんどの人がオペレーター経験者でした。
スーパーバイザーへの登用条件
どのような人がスーパーバイザーに登用されるかというと、センターによってスキルセットや役割にバラツキがあるので、こういう人と言いきれる基準はないのですが、よくあるパターンがオペレーターとして成績が優秀であることです。
成績が優秀とは「生産性が高く応答件数が他の人よりも多い」、「業務知識があって質問が少ない」などです。ちなみに、このような「生産性」や「業務知識」を基準にして、オペレーターからスーパーバイザーに登用することはオススメしません。
なぜなら、スーパーバイザーに求められる資質はオペレーターの延長線上にあるものではないからです。役割が異なります。オペレーターはプレイヤーであり、スーパーバイザーはマネージャーです。
名選手が名監督にあらず、と言われるように、オペレーターとして優秀だった人が、そのままスーパーバイザーとして活躍できるかは分かりません。
オペレーターとして優秀な人は、器用になんでもできるような事も多いので、結果としてスーパーバイザーもできてしまうこともありますが、もしスーパーバイザーとしての適性がなかったときが悲惨なことになります、会社としても、本人にとってもです。
結論から先に書きますが、スーパーバイザーに欠かせないスキルセットは「コミュニケーション能力」です。詳細は後述します。
社内にしか通用しないのに仕事ができると言えるか
私は10社以上のコールセンターを経験しています。経験上、「仕事ができる」という言葉を「オペレーターとしての生産性」と「社内の業務知識があること」を指しているセンターは、だいたいマネジメントでつまづいていました。
オペレーターとしての生産性や、社内の業務知識がある、というだけで仕事ができるとは言えません。この2点を備えているだけでは、単にその会社の、その業務を知っているだけでしかなく、他の会社でも通用するかというと微妙だったりします。
他の会社でも通用するとアピールするには、業務知識がある、生産性が高いというだけでなく、「そのセンターの知識と経験から、何を学んだのかを言語化できていること」「そのセンターでの経験から、自身の価値観を確立していること」、この2点を抑えていないと、単にその会社の、その業務にフィットしただけではないかという評価しかできません。
そのようなレベルの人をスーパーバイザーに登用したら、それまでに経験したことがないオペレーターのマネジメントをおこなうことになります。自分自身ができることと、人に教えられることは別なので、マネジメントができるかどうかは分かりません。
オペレーターとの人間関係や、管理者としての振る舞い、言動に問題があって、組織に良い影響を与えていないのに、一度登用してしまった手前、引くに引けずに任せ続けて、オペレーターが離職したり、業務が徐々に回らなくなっていくということもあります。
もちろん、スーパーバイザーの適性がない人もいるというだけで、全員が全員マネジメントができない可能性が高いから登用しないほうがいいと言いたいわけではありません。
業務知識や生産性だけで評価せず、「コミュニケーション能力」を重視して登用したほうがいいという事です。「コミュニケーション能力」がある人、頑張って身につけた人は、スーパーバイザーとして活躍できます。
コミュニケーション能力が過小評価されている
業務知識や、生産性は数値化など、可視化しやすいので、評価項目として認識されますが、コミュニケーション能力は抽象的で可視化されにくく、その効果も直接的に測定しにくいため、過小評価されがちです。
会社によっては、コミュニケーション能力の優先度は低く、業務知識や生産性が過大評価されてスーパーバイザーに登用されたりします。
コミュニケーション能力は、オペレーターや周りにスーパーバイザーなど従業員にとって、心理的な壁のようなものです。その人に気軽に質問ができるのか、その人とは気軽にコミュニケーションが取れるのか、その人の存在が過度のプレッシャーになっていないか、その人の存在によって周囲の人がパフォーマンスを発揮できなくなっていないか。
オペレーターにとっては、スーパーバイザーは仕事で困った時の拠り所であり、そこに心理的な壁があってはパフォーマンスは発揮できません。
業務知識や判断力のようなものは、スーパーバイザーに登用されれば、オペレーターの何十倍という速度で身につきます。オペレーターだと1年やっても出会わない知識でも、スーパーバイザーだと早ければ1カ月で知る機会があります。多少の個人差はあれど、知識や経験は後から必然的に身についていくものです。
対してコミュニケーション能力は、必然的に身につくものではなく、謙虚に学ぼうという姿勢がある人、自分と向き合える人、プライドや幼さに負けない人でないと身につきません。
以上です。そのセンターでたまたま知識を身につけたことで「仕事ができる」と評価されてしまい、勘違いをして、その後、ギャップに苦しむ人を何人か見てきました。共通しているのは、謙虚さがない、プライドが邪魔して素直に学べない、性格的な幼さから感情的になってしまうということでした。
こういう人たちは、自身がプレイヤーとして対応する分には高いパフォーマンスを発揮することもありますが、コールセンターというチームの総合力を高めることが重要な職場のマネジメント職には適さないです。
登用する側もコミュニケーション能力を過小評価せずに、適性を判断しなければ、会社も、その人も、不幸にしてしまいます。
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