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秘境

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秘境とはまだ様子が世に知れておらず神秘的な感じのするところ…ということなのですが…人気書道家、米早食 が紹介したとなってはたちまち書道界に公開されてしまうわけですから…秘境ではなくなってしまうのですが…
私は1人旅が好きで書道家としての活動を隠してホステルや民宿などに泊まり情報を得て秘境へと向かうのですが…
私が今までで一番の秘境だと感じたのは長野県にある 硫黄沢温泉 です。
この硫黄沢温泉は川俣温泉から川を遡って5時間以上かかる温泉で足を滑らしたり、川に流されるのは当たり前の状況で進んで行かなければいけません。
危険はそれだけではなく周りの岩盤からはガスも出ているのでガスマスクが必須となります。
私はすげがさに脚絆を巻いてガスマスクという姿で川を登って行きました。
途中に現れた熊や大猪と筆一本で渡り合った戦いなどはまた別の機会に公開させていただこうと思いますが…とにかく険しい道のりでありました…
精も根も尽き果てて…ついに辿り着いた硫黄沢温泉…すぐに服を脱ぎ捨ててジャボンと浸かりたいところでしたが…腰掛けるに手頃な岩に座り込み脚絆を脱ぐだけで精一杯の状態でした…
ようやく着替えを終えると源泉が60℃あるエメラルドグリーン の湯の中に浸かっていきます…
今までの苦労が全て吹き飛び極楽でありました…
10分ほど経った後に疲れからか意識が薄くなっていくのを感じました…ああ、のぼせたのかな…そう思って温泉を出ようとすると…体に力が入らず立とうとすることもままなりません…
そのまま温泉に沈まぬように堪えるだけで「これはガスマスクにガスが入ったのであろうか!?」とパニックを起こした私は息を止めると気を失ってしまいました。
目を覚ますとそこは自宅で…愛用のすげがさと脚絆…そしてロシア製のガスマスクがありました…これは今日の朝…??
私は不思議と違和感がなく…おそらく皆さまには分かってもらえないかもしれませんが…もう一度やり直せるという希望のような感情が湧いてきたのです。
私は熊との戦いがあったことを思い出し熊よけの鈴を取り付け万全の準備でまた硫黄沢温泉に向かいました…
しかし…結果は同じ…また温泉に入った時に意識を失い…自宅へ戻っているのです…
ここで温泉に行かないという選択肢もあったのでしょうが…私は何とかして温泉を攻略したいその思いで4回ほど同じことを繰り返しました…
出発の前にはガスマスクに不備がないか穴が開くほどに点検を繰り返しましたが何度やっても結果は同じ…ああ…私の体力が足りないのだなと思い台所へ向かうと妻がおしゃぶり昆布を玄米に混ぜたおにぎりを置いていました…
これをくすねて行こうと考えた私はおにぎりを入れるジップロックを探そうと棚を開けるととんでもない重量感のフルフェイスのガスマスクが台所のシンクの上に落ち…何事かと妻が台所に入ってまいりました…
「これは一体??」そう尋ねると「花粉症対策のためにAmazonで買ったものです」と言ったのですが流石にこの厳ついマスクでは外を歩けないであろう…と思案を巡らせ…「今日、毒ガスのでる温泉に行くのだが…一緒に行かないか??」と誘ったところ…「そんな危険に妻を誘うなんて…あなたには私の大切さがわかっていないのです」と言い終わらぬうちに平手をピシャリと受けました…妻の平手に意識が朦朧として気を失うと…目が覚めたら硫黄沢温泉に浸かっておりました…
そして隣を見るとあの厳ついマスクを被った嫁が…
「いつからそこに!?」と問うと「なんの冗談ですか??今日は一緒に川を登りおにぎりを食べ困難を乗り越えたではないですか…」と…
私は妻がこっそりと後を追って助けてくれたのか、妻の念がこのような形となって現れたのか混乱しておりましたが…そんな蜃気楼がどうでもよくなるほど妻と温泉を堪能させていただきました…

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