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百度(Baidu)が赤字に。その本当の理由を教えます

前回noteのおさらいですが、百度(Baidu)が赤字になった理由は下記のように報じられていました。

・百度は「検索エンジンに頼る一本足打法のビジネスモデルに限界が来た」
・中国での検索サービスの競争が激化、Baiduのシェアが9割から7割に低下
・愛奇芸(iQIYI)は43%の増収を確保したものの、コンテンツ費用が47%増え、営業赤字幅が増えた
・自動運転技術に注力しているが、収益化まで程遠い

(前回記事「百度(Baidu)が赤字に。BAT時代は終わるのかも」はこちらです。)

でもこれは赤字になった正確な理由ではないと思います。
前回記事で書いたように、百度の第1Qの売上は20%ほど上昇してるし、シェアが落ちたとはいえ中国人の大半は未だに百度の検索を使います。その他のビジネスも多岐に展開しているし、好調なものもあります。では赤字になった本当の理由はなんでしょうか?

原因1. 旧暦春節イベントでのBATの闘い

今回の百度の赤字の一番の理由は「春晩」イベントでのお金のバラマキです

中国では旧暦の大晦日に日本の紅白みたいな番組があります。その名は「春節聯歓晩会」で略して「春晩」。中国国民が一年で一番注目する番組で、最高視聴率は2010年に38.26%を記録しましたが、その後視聴者の利用習慣の変化によって視聴率は徐々に落ちてます。視聴率を回復するために、テレビ局は視聴者の利用習慣にあわせてインターネット会社と組んで双方向の番組を作ろうと頑張ってます。

2015年、BATの「T」、テンセントが初めて「春晩」と提携し、スマホの「摇一摇」(シェイク)機能でお年玉を配ったり、もらったりするイベントを行いました。番組中のシェイク機能使用量はなんと110億回に達し、ピークは1分間で8.1億回!凄い。。

するとBATの「A」アリババも黙っていません(アリババとテンセントはオンライン決済サービスを巡って熾烈な争いをしています)。テンセントがキャンペーンを行った翌年の2016年に「福」の字を集めてお年玉をもらうイベントを行い、総額8億元のお年玉を配りました。

そして、アリババは2018年に「春晩」と提携し、「春晩」番組内で「福」の字集めのイベントを行いました。番組中で1.5万台のスマホ、1500台の掃除ロボット、3000個の金の延べ棒、1000名の49999元のタオバオカード利用金などの景品が配られ、総額6億元でした。

そして2019年の春節に、いよいよBATの「B」が「春晩」との提携を実現します。

百度は今回のイベントに「春晩」の生中継中、また大晦日までの8日間でさまざまな方法でお年玉や百度のスマート端末をプレゼントしました。お年玉と景品の総額はなんと19億元。当然このイベントを行い切るための設備調達や人員調整などを含めさらに巨額の費用がかかったはずです。中国ではこの出費が今回の赤字の最も重要な原因の一つと見られています。

原因1-2. 旧暦春節イベントでの百度の成果

巨額の費用はかかりました。でも今回の桁外れの「豪華」なプロモーションを決して否定的な目線だけで見てはいけません。

今年の「春晩」のイベントで「百度は必ずシステムダウンする」と、多くの人が予想していました。過去、2015年の大晦日でのテンセントは1分あたり8.1億回のシェイクアクセスでWechat(中国のLINE)が1時間のシステムダウンを発生。また、2018年の大晦日のタオバオのイベントの際には、ピーク時間にタオバオへの通信量は2017年の「双十一」(11月11日にやるあのイベント)の15倍に達し、システムダウンが発生。

しかし百度は今年の208億回の「シェイク通信」に耐えました。中国のインターネット企業の中で最も技術を重視している企業であり、そのプライドがシステムの安定を達成した原動力となりました。設立者はエンジニア出身で、AIや音声、画像、中国語検索、自動運転など技術開発に中国で最も力を入れてます。しかも、今回のイベントでは百度のクラウドサービス「百度雲」のAIによって技術サポートされ、自動的なトラフィック制御やサーバーのスケール調整が行われました。凄い。。

↑イベント時のBaiduシステムコントロールのスクリーン

大金をかけすぎたことについては、もしかしたらイベントの予算面でミスがあったかもしれません。しかし、「春晩」との提携で自社の技術の応用が検証でき、中国中(世界中)に成果をアピールすることができました。また、このイベントによってデイリーアクティブユーザーが1.6億から3億と爆発的に上がりましたし、イベント当日のアプリストアでは上位6つのアプリ中5つが百度系のアプリでした。

イベントでの出費が増え、数字上は利益を削ってしまったかもしれませんが、それ以上にプラスの影響があったと思います。

原因2.国民から百度への不信感

素晴らしい技術力が企業を引っ張っていくTecカンパニーの代表格である百度(Baidu)。しかしユーザーからの信頼を集め、企業として利益をあげる要素は技術力だけでは十分ではありません。そして、かなり前から百度はユーザーから批判にさらされています。それは検索結果オークション制度のビジネスモデルについてです。

百度検索は中国語検索での技術はトップレベルとされており、まわりの中国人の間では、Googleより精度が良いと評判です(そもそもGoogleは中国ではVPNを使わなければアクセスできないですが)。ですから、中国人は百度を使うことが多いです。それ以外にも「Bing」「UC」「360」という会社の検索エンジンがありますが、情報収集の達人だと中国系1つ+中国系じゃない方1つ を組み合わせて使う場合が一般的です。

しかし百度の検索結果には恐ろしい仕組みがあります。それは検索結果のランク付けはBaiduエンジンによるマッチングだけではなく、コンテンツ(広告)をオークション形式で上位に表示させることができるというもの(ちなみにGoogleでは絶対に人間がそのアルゴリズムに手出しをしない原則だそうですね)。

よって、人気のキーワードの検索結果の上位はほとんど広告でした。

↑「装修」のキーワード検索の1ページ目。全部広告、、しかも「広告」表示がわかりにくい

例えば内装を意味する「装修」をキーワードで検索したら、結果の上位は全部広告でした。一応告知義務があって「広告」と明記していますが、かなり小さい表記だし、8億以上のネットユーザーがいるとその情報リテラシーのレベルも全然違いますので、必ずしもみんなが正しい判断ができるわけではありません

原因2-2.事故が起き、百度ブランド失墜

その結果、検索結果での情報を信じたユーザーが誤った判断をするケースが多発します。特に医療情報の場合は非常に問題ですよね、日本でもウェルクの問題がありましたが、中国でも数年前に「百度広告と莆田系の病院」に関する最低な事件が起きました。(内容はちょっと難しいです)

掻い摘んで説明すると...

「莆田系」という騙しを中心とする悪徳医療グループが存在し、その「莆田」出身の人が、中国のさまざまな地方病院と提携し、患者を騙した治療を行っていました。また、彼らは偽情報の口コミサイトを立ち上げるなどネットでの集客に注力しており、百度の検索ランキングオークションは彼らが利用する最大の宣伝手段でした。
2014年、ガンになったある大学生が百度で調べた情報を使って(「莆田系」が配信した広告を見てしまった)「莆田系」の詐欺病院に行ってしまいました。彼らは「北京武警第二医院」という軍管轄の病院に入り込み、スタンフォード大学で研究された高額の免疫療法を行うというウソ情報を吹き込みます。そして、大学生は病院が勧める治療を受けることを決断し、結果として2016年に22歳の若さでなくなりました。

この事件は中国全土で報道され、それを期にネットユーザーによる百度のランキングオークションへのバッシングが一気に激しくなりました。全く広告審査が機能していないことが露呈されたのです。このとき百度株価は暴落しCEOの「李彦宏」は事件後の対応に追われます。百度は医療関係を中心とする悪質広告を削減し、結果として20億元の広告収入ダウンとなりました。

その後、2017年にはスマホ向けにオークション広告が表示されない検索アプリ「簡単検索」をリリースしましたが、一度失墜した信頼を取り戻すことはどこの世界でも難しい。

百度の今後はどうなっていくのか?

日本でも度々報道されているように、百度はAIへの投資や研究開発に熱心に取り組んでいます。特に自動運転への取り組みは「アポロ計画」と言われており、世界一の自動運転のプラットフォームを作り上げようとしています(ココらへんの業界情報などは今後別noteで紹介します)。中国政府も後押し。しかし成功するのかは不透明だし、利益が出るまでにはまだまだ長い時間がかかると思います。

中国ではインターネット産業の勢力構造が10年ごとに大きく変わると言われています。百度がいま積極的に開発している人工知能は果たして次の変動での勝者となるのでしょうか、いろんな意味で楽しみにしています。

(ただ今回の赤字で利益を上げるためにまた何かが起きちゃうのではという不安はあります。。)


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