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インタビュー:ボードゲームアーティストのKwanchai Moriya(Interview: Kwanchai Moriya, board game artist for Flipships, Dinosaur Island and Cryptid)

本記事は、「Interview: Kwanchai Moriya, board game artist for Flipships, Dinosaur Island and Cryptid」の翻訳である。

Kwanchai Moriyaは、日本人の父を持つ、シカゴ在住のデザイナー。現在のボードゲームシーンの中でIan O'Tooleと並ぶ売れっ子デザイナーである。原題に掲げられた作品以外にも、多数のボードゲームのアートワークを手がけており、その独特な色彩や画風を見たことがある人も多いだろう。また、ボードゲームだけでなく絵本も手がけているようだ。

アートワークはボードゲームの魅力の1つだ。アートワークを手掛けている人の話は、その魅力をより一層味わうことができるようになると思われる。また、どのようにKwanchai氏がキャリアを積んできたのかについても語られており、そういった仕事に興味がある人にとっても参考になるかもしれない。

元記事は以下のリンク先を参照されたい。また、ヘッダー画像はBGGから引用した(クレジットは、左からW. Eric MartinPandasaurus GamesPete Ward)。なお、元記事はBGGでも掲載されており、アップロードされている画像や本文中の文章がわずかに異なっている。翻訳に当たっては、基本的に、時期的に新しいBGGのページを反映している。また、Kwanchai Moriya氏が手がけた仕事を知る意味でも、重複した画像を除いて、元記事とBGGの記事の画像を併記することとした。

編注:このインタビューは、Neil Bunkerによって行われ、2022年2月にDiagonal Move上にて最初に公開された。

(※BGGではない元記事では「2月のDiagonal Moveのインタビューでは、Kwanchai Moriyaがボードゲームのアートについて話してくれます。」とある。)

クレジット: Neil Bunker

DM: やぁ、Kwanchai。今日は、参加してくれてありがとうございます。読者の多くは、「Flip Ships」、「Kodama」、「ダイナソー・アイランド」といった、あなたが手がけてきた有名なゲームのアートワークに馴染みがあるでしょう。アートとボードゲームとどのように出会ってキャリアとなったのか教えていただけませんか。

KM: こんにちは。お話しすることができて嬉しいよ!私のキャリアはかなりの紆余曲折がある(twists and turns)。異なる少数の単科大学や総合大学で勉強して歴史学とイラストレーションという2つの学位を何とか取得した(cobbled together)。そして、多くの変わった仕事をしてきたよ。

最終的に、自分はロサンゼルスにいたけど、その時はごくわずかな機会にしか恵まれてなかった。英語と数学の家庭教師として働いて家賃を稼ぎながら、あちこちのギャラリーで変わった展示会をしていた。ボードゲームは、しばらく前から自分の中で大きい趣味となっていた。結果的に、思いがけない幸運に恵まれて、「Catacombs 3rd Edition」という最初の実質的な仕事(my first real gig)を得ることになった。仕事から帰ってきた後、夜遅くまで、キャラクターとボードのイラストを描いたよ。

そこから、私が手がけたその1つのボードゲームを携えて、卓上ゲームのコンベンションに参加するようになり、出版社と会ってもっと仕事が得ようとした。そして、そこから着実に、自分のキャリアが作り上がったといえる。

クレジット: Aron West

DM: あなたが手がけたボードゲーム作品の多くは、SFやファンタジーをベースにしています……。あなたがこういった素地を作り上げてきたのは(developed)、自身の興味の延長でしょうか。それとも、こういったテーマを手がけてほしいと依頼されたからでしょうか。

KM: 幼い頃から、SFやファンタジーの本や番組(shows)の大ファンなんだ。特に、アイザック・アシモフのロボットシリーズやファウンデーションシリーズのような古い作品が好きだ。数年おきに「指輪物語」を読み返したいとも思っている。そういうことで、ファンタジーの世界を消費することは、自分の趣味の一部であることは間違いないし、そのことは確実に自分の仕事に現れている(bleeds into)。例えば、レトロなSFのアートディレクションが含まれるプロジェクトを数多く受けていて、それは、そういう方向に寄った自分の作品が多くあるからだろうと思うよ。

クレジット: W. Eric Martin

DM: ゲームのアートワークをデザインする際に、あなたが用いている特定のテクニックやスタイルはありますか。

KM: 常に、新しいことやテクニックを試したいと思っているよ。卓上ゲームの出版の世界では、全てのものがデジタルファイルとして仕上げる必要がある。しかし、プロジェクトの開始方法は(※デザインの)プロセスや最終的な見た目に大きく影響するものだ。だから、時々、油絵具や実際の絵筆を用いて描き始め、それをスキャンして、デジタル化して仕上げることがある。ただ、大部分は、主にPhotoshopを使った完全なデジタルプロセスで行われて、うまい具合にカスタムされたPhotoshopのブラシを用いているよ。

クレジット: Gates Dowd

DM: アートの依頼されてから出版の作業に至るまで、ゲームアートのプロセスにどのくらい時間をかけるこがあるのか説明していただけませんか。

KM: それにはバラエティがあるよね。小箱のカードゲームであれば、箱絵と12枚のカードだけで足りるかもしれない。その場合は、大体2か月くらいと見積もるかな。典型的なサイズのボードゲームには、ゲームボード、プレイヤーボード、箱絵、カード等が必要となり、最大でも5、6か月かかるかもしれないし、時には1年となることさえもある。今まで仕事した中で最も期間が短い納品(The quickest turnaround)は、おそらくPandasaurus Gamesの「ザ・ゲーム」だろう。クリスマス休暇の印刷期限に間に合わせるために、短期の納品を必要としていた。そして、私は、それに取り組むだけだったよ。

どういうわけか、納品期間が非常に短かったり、非常に長かったりすると、最高のアートワークが出来上がることがわかった。「Bosk」のように、数週間という超短期だったが、私のお気に入りの見た目となったプロジェクトの1つだ。それから、「7 Summits」のようなゲームは、プロジェクト遅れてしまい、最終的には1年か1年半近くかかった。けど、ふりかえってみて箱絵を修正するほど多くの時間があったよ。

クレジット: W. Eric Martin

DM: あなたの作品は、箱絵やボードに描かれており、プレイヤーが最初に目にすることになりますね。どのようにして、あなたのアートを用いたゲームをプレイする感覚を呼び起こすのでしょうか(conjure)。それとも、あなたのアートがそういった感情を生み出す役割を果たしているのでしょうか。

KM: 私が思うに、それはゲームに存在感や世界観を与えるというイラストレーターの仕事だ。箱絵や箱の中にあるあらゆる物は、それそれが世界観を強固にして生き生きとしたものにする機会となる。大抵の場合、一旦、大まかなアートの説明やテーマが与えられると、かなり多くのことが私に一任される。そして、私がアーティストとして成長したことから、依頼者はますます私の直感を信じてくれるようになることがわかった。今では、うまくいかなくて指示される(hand holding)ことは少なくなったよ。

今まで携わったプロジェクトで最も自由だったのは、おそらくCapstone Gamesの「Curious Cargo」だった。彼らは、荷送り/荷受けというテーマの骨組み全てが用意できていたが、もっと多くの"要素(stuff)"を必要としていた。そこで、よく一緒に仕事をしている素晴らしいグラフィックデザイナーのBrigette Indelicatoと私で、ふざけた感じの(playful)3つのアニメーションのグッズを提案して、それを中心に全体の雰囲気をなんとなく作り上げた。めっちゃ楽しかったよ!

クレジット: W. Eric Martin

DM: あなたにとって素晴らしい出来のボードゲームアートの例をいくつか挙げてもらえませんか。そして、その理由はなんでしょうか。

KM: 近頃は、最高級品のボードゲームのアートワークがおびただしいほどある。触発されたり、着想を得るために関心を向けたりしているイラストレーションやデザインはたくさんある。即座に挙げるとしたら、Mr. Cuddington(※Lina Cossette)、Ian O'Toole、それにAndrew Bosleyかな。ほんの一部に過ぎないよ。「ロビンソン・クルーソー」や「ルイス・クラーク探検隊」において、Vincent Dutraitの伝統的な表現手段(traditional mediums)を駆使しているところは、個人的に初期の着想を得ていた。「Colosseum」や「Ex Libris」みたいなJacqui Davisの作品で用いられている色彩と表現力。着想を得られると感じたり、大きな課題があると感じたりすることがたくさんあるよ!

クレジット: Diagonal Move

DM: あらゆるジャンルのゲームに携わってきたかと思います。アートの製作にあたり、より困難なジャンルというものはあるのでしょうか。

KM: かなり詳細で具体性をもつジャンルだね。おそらく、歴史的であったり、事実に基づくものであったり、地理的な正しさといった特定の詳細さを必要とする設定だったりすると、確定させる(nail down)のが難しいだろうね。事前調査により多くの時間をかけて、物事を正しく捉えられているかを確認することになる。オリジナルの「クリプティッド」とその親戚にあたる「クリプティッド都市伝説」は、どちらも調査するのが本当に楽しかったよ。都市神話や超自然的な民間信仰の生物のことが好きじゃないやつはいないからね。これらのゲームの調査をするために、ビッグフットに係るポッドキャストを流したり、その事柄に関する図書館の本をいくつか深く掘り下げて調べたりしたよ。あらゆる種類の奇妙で興味深い調査事項となったよ。

クレジット: W. Eric Martin

DM: どうやって機能性/使い勝手の良さをアートの中に組み込むんでしょうか。

KM: 機能性と使い勝手の良さは自分の仕事の一部だが、グラフィックデザイナーの方がより一層重要となる。小さめのゲームにおいて、イラストレーションとグラフィックデザインの2つの作業(the dual duty)をしたことがあるが、もっと才能がある人にその仕事を任せているのが普通かな。

DM: かつて販売されたゲームの新版のアートを作成したこともありますね。例えば、「ザ・ゲーム」とかです。既に、世間に知られている(public consciousness)ゲームを手がける時に、特に考えていることはありますか。

KM: 深く愛されているゲームの新版を手がける時には、そういった考えなければならないことが二重にある。まず、それが視覚面(visuals)のものであろうが、物理的なコンポーネントの重要性であろうが、既存の版で本当に"うまく機能している"部分を識別する必要がある。そして、その次に、うまく機能していなかったり、魅力が損なわれてしまっていたりする要素を全て取り除きつつ、素晴らしいアートワークによって、そういった重要な要素を真に際立たせるために自分の創作性を発揮するよう取り組む必要がある。

ただ、新版にもっと多くのアートを求める重大な需要があるから、何度もプロジェクトに呼ばれるんだけどね。同じようなカードに白い無地の数字が書かれていた「ザ・ゲーム」のように、新たに作り出したり、刷新する余地がかなりあった。

クレジット: W. Eric Martin
ほのめかすもの

DM: あなたが現在携わっているプロジェクトについて、何か教えていただけませんか。

KM: たくさんの楽しいプロジェクトに関わらせてもらっていて、あるプロジェクトがいつ終わって、別のプロジェクトがいつ始まるのかを追うのが難しくなっているほどだ。AEGから出版される「Rolling Heights」と呼ばれるゲームの作業がちょうど終わったところだ。このゲームは今月発売されるらしく、John D. Clairによる本当に楽しいゲームデザインとなってる(編注:「Rolling Heights」は、AEGにより2022年2月にKickstarterが開始されたが、2023年2月になるまでは発売されない。)。

Johnの別のゲームで、Brotherwise Gamesから発売される「Empire's End」にも携わっているんだ。今まで手がけた箱絵のアートの中でも比較的複雑なものの1つになるかもしれない。私が過去に携わった有名なゲームの拡張も何個か作業をしているよ。素晴らしい出来のものが多いね。

クレジット: Neil Bunker
クレジット: Diagonal Move
※「甲虫相撲」という文字は、Kwanchai氏の父が書いた文字のようだ。

DM: 最後に、ボードゲーム業界で働いてキャリアを始めたいアーティストに対して、何かアドバイスはありますか?

KM: 個人的な意見として、キャリアを積むに当たって役立った最大のことは、ボードゲームのコンベンション(会合)で出版社と接触しようとすることだね。この業界はいまだに小さい世界だし、自分のポートフォリオを持って職探しをするのは、自分の気概(mettle)を試すのにとても誠実で信頼できる方法だと思うよ。

以上

※他のインタビュー記事として、以下のものがある。

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