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B&Hフォトグラファーとプロデューサーに聞く、ぶれないビジュアルブランディングの裏側


長期的に愛されるブランドづくり。そのためのストラテジックプランニングを得意としているB&Hですが、ビジュアル刷新を起点としたコンテンツの企画・制作も行っています。そうした撮影が中心となるプロジェクトを担うのは、プロデューサーの牛島さんとスイス出身フォトグラファーのステファノです。ともに国内外で培った価値観や知見をバックグラウンドに持つ二人は日頃、どのように仕事と向き合っているのか。これまで担当してきたプロジェクトを振り返りつつ、改めて一つ一つ言葉にしてみてもらうことで、視覚表現に特化した仕事の面白さと大変さを垣間見ることができました。



異文化に触れることで知見を得てきた二人


ー 複数の国や地域での就学や就労を経験してきたお二人ですが、B&Hに入るまでの経歴を教えてください。

ステファノ:学生時代は、チューリッヒ芸術大学でビジュアルコミュニケーションを学んでいました。グラフィックデザイン、写真、イラスト、アニメーション、ウェブデザイン、エディトリアルデザイン、あらゆる分野を網羅的かつ実践的に学ぶという環境だったので、自分の興味とスキルがどの辺りなのかを探るために、ひたすらいろいろ試してみるという感じでした。

卒業後は、スイスのジュネーヴ、イスラエルのテルアビブ、東京それぞれを拠点とするいくつかのブランディングエージェンシーでインターンを経験、その後はチューリッヒにあるブランディングエージェンシーで4年間、グラフィックデザイナー、UIデザイナー、写真家として働いてました。それから日本に移住して、1年くらいフリーランスでいろんなブランディングエージェンシーの仕事に携わった後、B&Hに正社員として入社しました。


牛島:幼い頃から英語や洋楽が好きで、週末や夏休みはインターナショナルスクールに通っていました。高校時代はニュージーランドに留学、大学も英米語学科だったので、比較的ずっと異文化に触れる楽しさを体験しながら英語を学ぶという環境で過ごしてきたかなと思います。ニュージーランドで通っていた学校では、基礎科目の他にもグラフィックデザイン、ホスピタリティー、アウトドアエジュケーションといった科目を選択したり、卒業制作で地元の太鼓団体のポスターやロゴを作ったりしたのが楽しかったです。大学はしっかり英語を勉強するという学科だったのですが、文化人類学や美術史に触れられる授業もあって、それはとても興味深かったです。

大学卒業後は、以前から好きだった Plus81 Magazine でアートディレクター兼プロデューサーのアシスタントとして働き始めました。そこでは雑誌の制作とクライアントワークで担当が分かれていたのですが、私はクライアントワークを行うチームで、ユニクロ、GU、DIESELなど国内外での広告撮影やカタログ撮影、アーティストコラボレーションの企画に携わっていました。

学生時代にギャラリーでアルバイトしていた関係で、キュレーション業務についてはなんとなく知識はあったものの、撮影のプロデュースについては全くの素人だったので、入社1年目は必死でしたね。常に4〜5件ほどの撮影案件を抱えていて体力勝負な面もありましたが、その分達成感もある刺激的な日々でした。撮影したブランドの店舗で、自分が関わったプロジェクトの広告やカタログを見つけたとき、とても嬉しかったのを覚えています。

そうして4年間 Plus81 で撮影の仕事に携わった後、B&Hに入社しました。プロデューサーとしてお仕事することには変わりないのですが、その業務の進め方や社内のコミュニケーションのあり方は前職でのそれとは大きく異なるスタイルでした。B&Hでは日頃からポジションを問わずお互いにしっかりと意見を伝え合うこと、そのための空気作りが大事にされているんだなと。

プロジェクト全体のスケジュール管理も、リサーチに◯日、方針策定に◯日、企画に◯日など、かなり細かくタスクを整理したうえで、メンバーのリソースを考慮しながらスケジュールを組んでいます。いずれも創造的な仕事をするためには余裕のあるスケジューリングが必要という考えのもとに実現している社内文化なのですが、とにかく目の前のことをがむしゃらにこなしていくスタイルだった私にとっては、クリエイティブへの向き合い方を学び直す機会にもなっていると思います。



1枚の写真は1000語以上を語る


ー フォトグラファーとしてビジュアルブランディングをどのように考えていますか。

ステファノ:ブランディングにおいて写真がグラフィックデザインみたいな他の視覚的要素とは異なるのは、「1枚の写真は1000語以上を語る」と言われるように、インパクトの伝わり方がより強く、より速いという点だと思います。写真の場合はもっと潜在的なレベルで見る人に影響を与えられるというか、その背後にあるブランドの戦略とか制作の意図とかもすべて感じ取ることができる。ただそれがもっと無意識のレベルで行われるというイメージです。

制作物に取り込むべき本質的なことは、撮影までに行う全工程、クライアントとのミーティングで話したこと、その後策定する戦略など、そのすべてから導き出されていると思います。そうして出てきたものからより視覚的なアイデアに絞り込んでムードボードを作成する。そこからさらに濾過していくみたいに、より具体的な要素に絞り込んで、参考にすべきものをリサーチする。あとは撮影ロケ地やスタジオにいる間にインスピーレーションを得たり。ビジュアル制作の過程は、その完了まで途切れることなく続く一連のイベントみたいなものだと捉えています。

新しく立ち上げた日向当帰茶ブランド「AKARI」の撮影時



ぶれない表現を短期間で作り込む


ー プロデューサーの観点からはビジュアルブランディングをどう捉えていますか。

牛島:ビジュアル制作はブランドの価値やコンセプトを可視化して伝えることが役割です。特に写真は、広告、ウェブサイトなどあらゆる場面で使われるので、ブランドの本質を表すためにも質の高いビジュアルを作るのが重要だと考えています。

ビジュアルアイデンティティは基本的に、ストラテジックプランナーによるブランド戦略を元に、アートディレクターがイメージの方針を定めるところから始まります。その中でも私たちは写真や映像といった視覚的表現の方法を練る部分を担当しています。アートディレクターから写真や映像のムードボードを共有してもらい、それを元に撮影の方針や進行を固めていきます。

B&Hのブランド戦略は、その企業やブランドが持つ人格的な要素を整理するアーキタイプ分析と、企業の特性や強みを真善美で表す独自のフレームワークをもとに策定されます。かなり早い段階で全体の指針となるような設計図を完成させてからデザインやコンテンツ制作に入っていくので、統一感のあるアウトプットを迅速に仕上げられるというのが特徴かなと思います。

だからこそ、ビジュアル担当の私たちが、表現のクオリティにきちんとリソースを当てられるという面もありますね。やはり見る人の心や記憶に何を残せるかが大切なので、インパクトやユニークさを取り入れることも意識しています。また、撮影する素材などはウェブサイトに使用される場合がほとんどなので、サイトの構成やテキスト、全体的なデザインとのバランス感にも配慮する必要があります。



何か一つ光るものを見つける


ー フォトグラファーの役割はについてはどんなふうに考えていますか。

ステファノ:そのものの独自性を捉えることを大事にしています。いかに他と差別化するかがビジュアルアイデンティティでもあるので、やはり写真にはそれが反映されるべきであって、クリエイティブな発想でこれまでになかったもの、まだあまりないものを作ろうと努めるべきだと思っています。

あとは一貫性を持たせることもブランドにとっては大切。撮影においては、ライティング、構図、スタイリング、ロケーションなどを事前にしっかり定めて視覚要素を統一できるように意識しています。ブランドの人格、価値観、ターゲット層はどんな人で、彼らにどうアピールすべきかといった戦略とか、制作物の内容と質がそれらにきちんと沿っているかを判断することも求められます。

とはいえ、写真家の役割はプロジェクトによってかなり異なるので一言で定義するのは難しいです。アートディレクターがいて、アシスタントがいて、スタイリストがいるような大きなチームで取り組む場合は、少人数だったら自分でやるようなことも分担できたり、逆に普段自分がやらないことを協力して行ったりすることもあるので。

アートディレクターと二人三脚でビジュアル制作



現場の空気までプロデュースする


ー プロデューサーの役割としてはどんなことを心がけていますか。

牛島:アートディレクターやデザイナーからの撮影指示書を踏まえ、限られた時間や予算の中でどのように実行するかを考えるのがプロデューサーの仕事です。フォトグラファーやクライアントも含め、それぞれの意見を尊重し、全員が納得した形で撮影を終えることが役割としての目標です。

撮影は基本的に一発勝負なので、撮影前にどれだけ準備できているかが重要になります。そのためにはチーム全体が同じ目線で目標に向かえるよう連携を取ることが大切です。プロデューサーの大半の仕事は撮影前の準備段階かもしれません。私の場合は撮影準備の他にキャスティングやプロップスタイリングをする場合もあり、大型の撮影の前はかなりバタバタしています。

それから円滑なコミュニケーションをリードすることも役割の一つとして大切にしています。撮影チームのメンバー間の雰囲気を良きように保つことはもちろん、クライアントによってはあまり撮影自体に馴染みがなく、現場や前後の業務で戸惑われる方もいらっしゃるので、撮影をスムーズに進めるためにも、なるべく全員がその場を楽しく過ごせるよう常に配慮しています。



「神の草」の神秘的で美しい佇まいを表現

キービジュアル・プロダクト・風景・インタビューの撮影 - AKARI様の事例

新しく立ち上げた日向当帰茶ブランド「AKARI」のKey Visual
「神の草」を表現するための神秘的で美しい佇まいを模索した

牛島:門外不出の妙薬として受け継がれていた「ヒュウガトウキ」を使った日向当帰茶のブランドで、ウェブサイト、カタログなどに使用される写真の撮影を担当しました。ヒュウガトウキは宮崎県 高千穂町の中でも限られた場所に自生する植物です。江戸時代から「神の草」と言い伝えられ、薬草として使われていたそうで、撮影方針においても神秘的な表現を追求しました。

プロダクト撮影は、千葉県にある古道具店のアポロギアさんにご協力いただき、店内の古物をお借りして撮影しました。アポロギアさんに置かれている古物はどれも重厚感のある美しい佇まいでした。ヒュウガトウキが持つ神秘的で歴史的な雰囲気を撮ることができたと思います。

古道具店 アポロギアにて撮影

その次は福岡県と宮崎県で風景撮影を行いました。ちょうどAKARIの撮影前に福岡で別件の撮影があった関係で、福岡から宮崎まで車移動する道中で見つけた森を散策しながら撮っていきました。宮崎に到着した翌日は、霧が見える丘で朝4時から撮り始め、それから生産者さんのところへ伺っての撮影となりました。当日はかなり早朝から動いていたため撮影メンバーは若干ぐったりしていたのですが、そんな疲れも吹き飛ぶほど、大自然の中で逞しく育つヒュウガトウキ畑は圧巻でした。

AKARI Website

そうしてウェブサイトやブランドブックのビジュアルが完成し、無事公開となりました。それから少し経った後、ヒュウガトウキのお茶にもっと親しみを感じてもらえるようなコンテンツを作ろうということになり、ウェブサイトに掲載するインタビュー記事の企画が立ち上がりました。

インタビューさせていただく方のリサーチに始まり、その方のいらっしゃる長野に伺ってインタビューと撮影を行いました。それまでは大自然の風景と商品を被写体として世界観を伝えるビジュアルが中心だったのに対し、今度は、実際にそのブランドと商品を体験する方の声と姿からどう魅力を伝えるかが問われます。やはりそこにいる「人」にフォーカスした表現は、AKARIの目指す日常のあり方やこだわりをよりダイレクトに伝えられるので、こうしたコンテンツ制作でのビジュアル含めブランドディレクションも今後は重要になっていくんだろうなと思います。


子どもたちの視点に迫りながら「すべての色を照らし輝かせる存在」を表現

コンセプト策定/キービジュアル・ドキュメンタリーの撮影/ワークショップ企画実施 - unico様の事例

コンセプトは「The Sun, Unico:太陽, 子」子どもたちそれぞれの色を引き出す存在、照らして肯定してあげられる存在でありたい。すべての子どもたちを太陽が照らし、それぞれの色で輝ける社会を描く。

牛島:「子どもたちの可能性を解放する」をミッションに掲げる、児童発達支援・放課後等デイサービスの教室を運営している療育サービスです。

被写体となるのは実際にunicoを利用している子どもたちとその先生方です。この場所にこの時間にいてほしい、この場所でこの作業をしてほしいといった細かい事項はあらかじめ準備しますが、基本的にはありのままの姿を撮影したかったので、ドキュメンタリー撮影の方式を選択しました。

ドキュメンタリー撮影は、人の動きや目の前で起こっていることについて行き、アングルや画角を変えながら撮らなければいけないので、難易度の高い撮影方式です。ライティングなどもコントロールできる場ではないので、あらゆる状況で適した撮影を実施しなければいけません。カメラマンやプロデューサーの技量が試されます。

unicoの教室は福岡が拠点なので、ロケハンも撮影の2日前に行い、準備も分刻みで進めていました。またドキュメンタリー撮影に加え、ウェブサイトのトップに載せるキービジュアルの撮影も行いました。通常キービジュアル撮影のコンセプトはアートディレクターが策定するのですが、今回はプロデューサーの私がプランニングも担当しました。事前準備のボリュームが多かった分、ディレクションについてもアイデアと思い入れがあったため、いつもより幅広い工程に携わることができて達成感も大きかったです。

子供たちが大きいアクリルのパネルに向かってそれぞれの太陽を描いているシーン
太陽はどんな大きさでも良い。それぞれが思う太陽を楽しんで描いてもらいました。

最後にコラボ企画として、子どもたちにプロのメイクと撮影を体験してもらうワークショップも行いました。



「芸術的なサッカー」を追求するスポーツマンシップを独自のカルチャースタイルとして表現

ブランドサイト・モデル・ポートレート・インサートムービーの撮影 - Ripace様の事例

牛島:Jクラブや強豪校に選手を輩出しているU12の大阪のサッカークラブチーム Ripace のブランドサイト立ち上げに伴い撮影を担当しました。Ripaceは創造性のある芸術的なサッカースタイルで一般的なクラブチームとは一線を画すチームです。ユニフォームは迷彩柄、登場曲はレゲエという独自のスタイルを追求しています。ユニフォームのデザインも一新し、モデルさんにも着用していただきました。

撮影のムードは、Ripaceのアーキタイプを元にステファノがリサーチを行い、クライアントに提案しました。ポイントとなったアーキタイプはOutlaw・Creator・Heroで、これらの要素を中心に構成しました。強い精神性で自信に満ちた表情と、ストリートスタイルの無骨なクールさを、格好良さとしての “Rude な Attitude” というアイデアにまとめ、Ripaceの目指すものを一つのスタイルとして落とし込む表現ができたと思います。

またモデル撮影の他にコーチ陣の撮影も大阪で行いました。監督が運営する飲食店を使用させていただくことになり、限られた空間でいかにRipaceらしさを表現できるかが試される撮影でした。本格的な撮影は初めてというコーチ陣でしたが現場は終始とても賑やかで、楽しくスムーズに進行することができて私たちも嬉しかったです。

バラエティ豊富なプロダクトに統一感を出す撮影方法を開発、海外作家とのコラボレーション企画もプロデュース

モデル・プロダクトの撮影/ブランドカタログ・シーズンカタログ・撮影ガイドラインの制作/アーティストコラボレーション提案実施 - Cake.jp様の事例

牛島:オーダーメイドやトレンド感のあるケーキやスイーツを提供するオンラインショップです。ブランドサイトのリニューアルに伴い、ウェブサイト・カタログ・パッケージデザインなどあらゆる制作に携わりました。Cake.jpはケーキやスイーツの種類が豊富で掲載する写真の枚数も膨大なので、外部の方にその都度撮影を依頼するのではなく、できる限り社内で行えるようにしていきたいというご相談をいただきました。

それに応えるべく、まずは私たちの方でテスト撮影を行い、撮影ガイドラインを制作しました。Cake.jpのケーキはカラフルなもの、シンプルなもの、装飾が華やかなものなど、とにかくバラエティに富んでいるため、商品写真が並んだときに統一感を出すには工夫が必要でした。コンセプトの異なるケーキの写真が並んでも、一貫したCake.jpらしさの感じられる撮影方法を試行錯誤しながら導き出していき、ガイドラインという形にまとめてご提案しました。現在はそれをもとにCake.jp社内の担当者さんご自身で統一感のある撮影を行っていただいています。その後ブランドサイトに掲載されている写真はもちろん、各種SNSに投稿されている写真もぐんと印象がアップし、ガイドラインの重要さに改めて気づかされました。

ブランドカタログの制作では、モデル、インタビュー、プロダクトの撮影を実施しました。モデル撮影は商品特性に合わせてシュチュエーション別で撮り、私は全体のプランニングとキャスティングを担当しました。商品撮影は20〜30種類のケーキやスイーツを撮りました。どのスイーツを撮影するかなどはクライアントと事前に決め、そのうえでどのお皿を使うかなど細かく準備を進めました。インタビュー撮影は、実際にCake.jpで販売しているケーキ屋さんへ取材訪問して行いました。

シーズンカタログは、季節に合ったスイーツを紹介する内容で、春に販売されるスイーツを紹介しました。表紙にはスペインのアーティストMaria Ramirezを起用し、表紙デザインを制作してもらいました。私はアーティストキュレーションに携わっていた経験があるので、国内外のクリエイターとコミュニケーションをとりながら、彼らのアート性を織り交ぜることによってさらにブランドの表現力を引き出すような制作の企画実施をご提供できることも一つの強みかなと思っています。

Interview, text by Erika Hosoda
Photo by Stefano Cometta


時を重ねた地層のように価値が深まっていくブランドづくり、そのための戦略設計を軸に創造していく一貫したビジュアルコミュニケーションにご関心のある方、ステファノや牛島さんとお仕事してみたいという方はぜひ、こちらからお問い合わせください。

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