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髪切った?

先日、髪を短く切った。

ハサミを入れる時、若い美容師さんが不安げな表情を浮かべながら、

「本当に切っちゃっていいですか?」と尋ねてきた。

髪を切られる私よりも、髪を切る側の彼女の方が緊張している様子だった。髪を切ったぐらいで何かを失うわけではない。むろん何かを得られるわけでもないが。私は躊躇うことなく「お願いします」と言った。

切った髪がはらりと床に落ちた。春風に舞う新緑の葉のように、とても軽やかに。その瞬間、私は大きな荷物を下ろしたような、そんな気持ちになった。約25年ぶり、14歳の時以来ずっと伸ばしてきた長い髪。若い時分なら、後悔もしただろう。ただ、今の私は後悔どころか、清々しさすら感じている。軽い。非常に軽い。頭も心も。

ところが私は、昔から髪を切っても周囲に気付かれない。「長いから」だとある美容師さんは言った。「違和感がなく、似合っているから」だと言ってくれる人もいた。ただ今回ばかりは皆気づくだろう。そう思っていた。結論、誰ひとり気付かなった。あれ?こんなに切ったのになあ?がっかりはしなかったが、不思議だった。そしその時初めて、人というのはそれほど他人の変化には気付かない生き物だという事を確信した。

 「最近太ったなぁ」と思っても大丈夫。人はそれほどあなたの体形の変化には気付きません。それは逆に痩せたところで、人はあなたの -2㌔には気付かないという事。

 自分の変化に気付いてほしいという心理は一体どこからくるのか。女性は特に、無視をされたくない、自分に興味を持ってほしい、自分の存在を認めてほしいという気持ちが強いらしい。ただそれは自分が好意を持っている相手のみに対して働く心理で、特に関心のない相手からちょっとした変化に気付かれるのは少し鬱陶しいのかもしれません。昔、生徒の中にちょっとした変化にすぐに気付く男性(60代)がいた。ある時、私がズボンの後のベルトを通すところを一か所スキップしていた時彼は「先生、それはファッションとしてわざととばしてるんですか?」と訊いてきた。もともと細かい事にもよく気づく人ではあったが、さすがあの言葉には少し引いてしまった。もちろん相手には100%悪気はないだろう。ただ気付きすぎる人というのも些か厄介だなと思った。「あはは、違います。通し忘れたんですかね」と笑い飛ばした。

「変化に気付いてほしい」心理にはほんのちょっと女心も絡んできます。要は好きな相手には気付いてほしいが、その他はどうでもいいということ。もしあなたに好きな女性がいて、相手の気持ちを確かめたい場合はちょっとした変化を褒めてあげるといいのかもしれませんね。相手が異様に喜んだ場合は脈あり、かもしれません。

 そうそう、14歳の時、私は今と同じぐらい髪を短くしたことがあった。多感なお年頃、自分の変化にも他人の変化にも特に敏感になるお年頃、たった一人だけ「髪切ったんだね。似合うよ」と言ってくれた男子がいた。修学旅行で訪れた阿蘇山で。あの硫黄臭い場面はきっと一生忘れないな。

 


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