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バレエ漫画60年の遍歴 2010年代編

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2010年代

10年代のバレエ漫画は、新たなフェーズに突入しました。
特筆すべき点は、10年代を代表する2作品とも、青年誌で連載していることです。
バレエ漫画誕生から約60年、執筆の中心は少女漫画誌から青年誌のフィールドへと移されています
この変化は大変興味深いですね。

10年代の新フェーズにある特徴点は、4点あると考えます。

主人公の年齢が10代前半であり、これまでより若くなっている
・コンテンポラリーダンスをコンクール出場前から習得している
・主人公が初めて出場する国際コンクールがYAGP(ユース・アメリカ・グランプリ)
監修が明記されている

1~2点目の特徴は、00年代の『テレプシコーラ/舞姫』でも見られます。詳しくは00年代の記事をご覧くださいませ!

3点目の「YAGP」とは、1999年に初開催され、若手ダンサーの育成を目的とした、最も注目されているアメリカのコンクールです。
これまでは、ローザンヌやモスクワなどの、ヨーロッパで開催されるものに参加するのが定番でした。YAGPの起用は、現在のバレエ界の流行に合わせたものでしょう。

4点目の監修の明記については、今まではされていなかっただけで、同等の人物が関わっていたことは間違いないです。
監修者の記載は、読者がより作品にリアリティ・専門性を求めていることを暗示しているのかもしれません。

10年代は、バレエ漫画の新作数はほんのわずかしかありません。
しかし、親ジャンルにあたる「ダンス漫画」は、ものすごく盛り上がっているように思えます。
社交ダンス『ボールルームへようこそ』『背すじをピン!と』。
競技ダンス『10DANCE』。フリースタイルダンス『ワンダンス』。
ダンス動画でアイドルデビューする『バディゴ!』。
フィギュアスケート『モーメント』…。
アニメでは『ユーリ!!! on ICE』も大ヒットしました。

今後は、ダンス漫画が大盛況の中で、バレエ漫画がどのように台頭していくのか、注目したいですね

10年代も、日本人ダンサーは大活躍しています。
2014年、木田真理子が、日本人初のブノワ賞(バレエ界の「アカデミー賞」とも呼ばれ、最も権威的な賞のうちの一つ)を受賞。
2015年、近藤亜香がオーストラリアバレエ団で日本人初のプリンシパルに就任。
2018年には、マリインスキーに正式入団した永久メイが、年末の大舞台「くるみ割り人形」で主役に抜擢されました。純血主義が根強かったマリインスキーで彼女が抜擢されたことは、画期的な出来事でした。
近年は、男性ダンサーの二山治雄隅谷健人らの活躍も目覚ましいです。

1.『絢爛たるグランドセーヌ』 Cuvie

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【図46】『絢爛たるグランドセーヌ』より引用

掲載年/掲載誌:2013年~連載中/チャンピオンRED
巻数:単行本既刊15巻(秋田書店)
主人公:有谷奏(小学校5年生~中学校2年生)
登場国:日本、フランス、アメリカ、イギリス

あらすじ
優れた観察眼と実行力を備えた少女・奏。絢爛たるバレエの世界に魅了された少女は、踊ることの楽しさに目覚め、やがては世界のグランドセーヌ<大舞台>へと駆けあがっていく。
実力派の大人気作家が描く本格クラシックバレエロマン!! 
https://www.akitashoten.co.jp/comics/4253233872

Cuvie先生は、小学生~高校生の時、有名ダンサーを数々と輩出している塚本バレエスタジオに所属していました。この間に、クラシックバレエに挫折してしまった経験が、本作に結びついていると語っています。

本作は、主人公・奏を通して、日本人がバレエ教室からプロを目指す過程が、とてもリアルかつ丁寧に描かれています。

非常に面白いポイントは、奏が得たバレエの知識を、自身の踊りの武器にしていくところです。
最高のパフォーマンスをするために、トウ・シューズ、振付、衣装、バレエメソッド(バレエの流派、指導法)、さらにはバレエの歴史や留学先まで、1つ1つ深堀していきます。
例えば、トウ・シューズを慣らすために、ハンマーで叩くシーンなどがあります。
そのため、これまでよりさらに一歩踏み入ったバレエの世界が、とても新しく感じられます
数々のバレエ漫画を読んできましたが、まだまだ知らない魅力があることに驚きました!

奏のライバルは、バレエ教室に通っている同年代や年の近い子たちです。
小学生や中学低学年の頃に、1歳の差がとても大きく感じた記憶は、誰でもあると思います。
この1歳の壁が大きく、そこから生まれる焦りや対抗心は、見ていてすごくリアリティのあるものです。

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【図47】『絢爛たるグランドセーヌ』より引用

バレエ教室に通う主人公を支える家族にも焦点が当てられていることも、非常に新鮮です。これまでの主人公たちは、バレエ学校の寮に入っていたり、海外を飛び回ったりしていたので、両親や家族の登場が非常に少なかったです。
一方、本作の登場人物たちは、自宅からバレエ教室に通っています。
そのため、家庭の経済状況や家族の協力などが、いかに本人たちのバレエ人生を左右するのか分かります。
(この点については、『テレプシコーラ/舞姫』でも描かれていました。)

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【図48】『絢爛たるグランドセーヌ』より引用

チャンピオンREDという、ゴリゴリの青年誌の場で、バレエを踊る少女たちが描かれている意外性にも注目です。(笑)

☑その他の見どころポイント

私は本作で初めて知りました…。小学生のバレリーナには、バレエ・シューズとトウ・シューズという大きなヒエラルキーがあることを…!(笑)

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【図49】『絢爛たるグランドセーヌ』より引用

バレエには、群舞、キャラクターダンサー、プリマといったヒエラルキーが存在します。しかし、その下にもまたヒエラルキーが存在していたのです…!

2.『ダンス・ダンス・ダンスール』 ジョージ朝倉

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【図50】『ダンス・ダンス・ダンスール』より引用

掲載年/掲載誌:2015年~連載中/ビックコミックスピリッツ
巻数:単行本既刊17巻(小学館)
主人公:村尾潤平(中学2年生~16歳)
登場国:日本、アメリカ

あらすじ
主人公・村尾潤平は中学二年生。
幼い頃にバレエに魅了されるも、父の死をきっかけに「男らしくならねば」とその道を諦める。
バレエへの未練を隠しながら格闘技・ジークンドーを習い、クラスの人気者となった潤平だが、彼の前に、ある日転校生の美少女・五代都が現れる。
母親がバレエスタジオを経営する都に、バレエへの興味を見抜かれ、一緒にやろうよと誘われるが――!?
すべてを犠牲にしたものだけが、立つことを許される世界。
重力に逆らい、美しく高く跳ぶものたちよ、
抗いがたきその衝動に、身を捧げよ――
女性誌界のトップランナー・ジョージ朝倉が描く、
王道のドラマチック・バレエ・ロマン、開幕!!!!!
https://www.shogakukan.co.jp/books/09187449

私の心臓を動かしてくれている(笑)、愛して止まないジョージ朝倉先生の作品です。
1995年に別冊フレンドでデビューし、少女誌・女性誌で主に活躍していました。デビュー20周年を迎え、青年誌2度目の連載でバレエ漫画を描いています。

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【図51】ジョージ先生は連載1作目から『アストロ球団』ネタをよくぶっこんできますね(笑)(『ダンス・ダンス・ダンスール』より引用)

ジョージ先生の作品は、どれも好きすぎてもはや「大好き」としか言えないのですが…。(汗)

本作は男の子が主人公をつとめる初の長編バレエ漫画です!
執筆のきっかけは、先生の娘さんが通うバレエ教室にいた男の子の存在でした。
「世の男性バレエダンサーさんは、どのように思春期を乗り越えてダンサーになったのかな?」と考えたそうです。

日本のバレエ学習者数は約36万人。
そのうち、男性の割合はわずか2%ほどです。
原因は、思春期に自我が芽生え、バレエを辞めてしまう男子が多いからだそうです。
この「男子の思春期」に着目した点が、非常にジョージ先生らしいですね…!!

たくさんの選択肢がある中で、バレエを選んでいく13歳の少年、潤平。
友達、部活、行事、ジークンドー、亡き父の想い…。あらゆるものを犠牲にしていきますが、それでもバレエが自分を肯定してくれる様が、読んでいてものっすごく泣けます!!!!

潤平は、伝説のバレエダンサー・ブランコの舞台に、感情が高ぶるほどの「爆ぜる星」を見出してから、バレエへの興味関心が止みません。

「爆ぜる星」は、本作の重要なキーワードです。
(ちなみに、予告が本誌に掲載されたときは、タイトルが『爆ぜる星(仮)』でした。)
潤平は「爆ぜる星」を得るために、「何が欲しい」のか、自分だけでなく他人からも問われます。
少年・潤平もとい、ジョージ先生はどのような答えを導き出すのか、非常に楽しみです!

前述したように、ジョージ先生は少女漫画家です。
本作は、青年誌で描きつつも、少女漫画の表現が多様されています。

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【図52】『ダンス・ダンス・ダンスール』より引用

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【図53】背景を黒で塗りつぶし、光を描く心象表現は、個人的に非常に大島弓子的だと思います。(『ダンス・ダンス・ダンスール』より引用)

主人公の潤平以外にも、流鶯、海咲ングパイセン、バンダナカムラ先生などなど。語りつくしたい魅力的なキャラクターもたくさんです!
(キャラクターの名前は、焼酎の名前から引用しているらしいです。)

本編では、いよいよ憧れのブランコとの対面を果たした潤平。今後の展開も見逃せません…!!

☑その他の見どころポイント

俺らの(笑)The Roostersの名曲『ROSIE』に合わせてバレエを踊るシーン…!!

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【図54】『ダンス・ダンス・ダンスール』より引用

この場面で心が揺さぶられないはずがないです…!!(泣)
バレエ漫画は、遂にThe Roostersをバックに踊ることを成し得ました。(笑)このシーンは、ある意味バレエ漫画60年の歴史の賜物だと思います…!(笑)

次の記事⇒おまけ編

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2000年代編 2010年編 おまけ編

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コメント (1)
すてきな連載、ありがとうございます! 山岸先生はもちろん大ファンですが、最近はダンスダンスダンスール、新刊が出るたびに深すぎて面白すぎて10数回は読み返してしまい。バンダ中村先生については数時間語れそうです。そっかこのコマ引用か! と読んでいても熱くなりました。
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