正午になったら正午を読もう。Let's read Shogo at noon.

 佐藤正午さんは私が好きな作家の一人です。私は佐藤さんの小説や随筆をデビューから約40年間ずっと読んでいます。2017年に『月の満ち欠け』(岩波書店刊)で直木賞を受賞したときは(授賞式には欠席して、地元から電話で記者の質問に応えていましたが)受賞作品だけでなく作家性も含めて感動しました。何だか親戚のおじさんを見ているような気持ちでした。「おじさん、本当におめでとう!!」
 読者として同時代にデビュー作から並走してきた作家は、佐藤正午さんの他には村上春樹さんと髙村薫さん今村夏子さんくらいです。夏目漱石は残念ながら、ずいぶん前に亡くなっていますから無理ですが(毎日届く新聞に新作が載っていて、明日も読めるという読書体験は途方もないですよね)。
 私は常々「佐藤正午という作家の評価が低すぎる」と、私の周囲に対して憤慨してきました。直木賞を受賞したあとは、一瞬(?)盛り上がりましたが、今はどうでしょうか。私は村上春樹的な熱狂を求めているわけではありません。それが作家にとってプラスばかりでもないことは(村上さんのエッセイの端々からも)想像できます。私は、ただただ未読の人に読んでほしいだけです。だって面白いから。どの一冊を読んでも外れがないから。佐藤さんには私のような固定読者がいます。きっといます。証拠はありませんし、ファンミ―ティングもありませんが、デビューから約40年間、読み続ける読者がいる、と思わせるほどの、充実の小説群です。
 極論すると、佐藤正午の小説の面白さは私しか知らない、独占して楽しんでやる、という屈折した気持ちも、ないわけではありません。わからない人にはわからない、読まない人は読まなくていいよ、あまり売れないでほしいな、という気持ちも、少しだけあります。それはつまり村上さんが『ノルウェイの森』で売れてしまって世界のムラカミになってハルキストたちが登場して…、そのとき(昔からの贔屓筋の私が)寂寥を感じたからかもしれませんが(嬉しいような悲しいような遠くに行ってしまったような)。
 話を戻すと、佐藤正午の小説は、とにかく読んで損はないです。青春小説もあれば恋愛小説もあれば推理小説もあれば冒険小説もあれば、時間が前後したり生まれ変わりもあります。長々と、ここまで私の記事を読んだ、そこのあなた、本屋さんへGO! ネットショップでポチッ! 図書館の棚でもいいです(借りましょう)。とりあえず読んで。面白いから、本当に。

追伸

 佐藤正午の小説を全てを読んでいる私としては、初心者にお勧めするのは『花のようなひと』(岩波現代文庫)です。牛尾篤の版画と水彩画が作品に(文字通り)彩を添えています。その素晴らしさについては、作家自ら随筆『小説家の四季』(岩波書店刊)の「夢へのいざない」(277頁)で絶賛しています。私は岩波書店の回し者ではありませんが、贈り物にも最適です。あとはやはり『月の満ち欠け』(岩波書店刊)も押さえておきたいところです。もう読んだというあなたはお目が高い。しかし私が今日特にお勧めしたいのは(単行本ではなくて)あえて「岩波文庫的」文庫の方です。あの装丁が堪らない(岩波書店は本気だな。ひょっとするとひょっとして『佐藤正午全集』を企画しているかも。デビュー40周年記念として2023年ごろに)。

 蛇足ですが、私は常々「評価が低すぎる」と、私の周囲に対して憤慨している作家に「片岡義男」がいます。片岡さんについては、ぜひ、また別の機会に書きたいと思っています。


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