海外事業所のお仕事(とある大企業の禁忌目録#23)

大企業は、製品やサービスを簡単に変えられない。作るものが変えられないのであれば、市場がまだ立ち上がっていない海外市場に進出するのが自然な流れである。
トヨタ自動車は2011年に海外で590万台の各種自動車を販売していて、この数は、海外への出荷台数は80%を超えていることになる。国内市場は少子高齢化により人口が減ってくることが予想されているし、旺盛な経済成長を迎える海外で収益を上げることは一つのロマンといっていい。

製造業はモノがあるので、物欲を満たしたいという分かりやすいニーズが現地にある。文化的な好みや経済力の格差はあるとはいえ、安くて品質が良くて壊れない製品は、万国共通のニーズだと思う。
自動車企業は、販売する自動車を現地の工場で生産するモデルとなってから、多くの日本の社員が海を渡って長期間駐在するようになった。
現地の人たちをマネジメントし、ニーズをつかんで製品開発や販売につなげる仕事のため、現地に骨を埋める覚悟で暮らしている日本人が今でもたくさんいる。現地の商工会・日本人会があって、ミニ華僑のように身を寄せ合って生き抜こうとしている姿は格好が良かった。

一方、ソフトウェアやインターネットサービスの海外事業は、雰囲気の違いを感じる。スマートホン向け有料アプリをApp StoreやGoogle Playで公開するには、今やパソコンからチェックボックス一つで配信が完了してしまう。それだけではなく、現地の人たちからの料金回収や現地消費税の支払いのシステムまでApp StoreやGoogle Playが提供している。
残る障壁は翻訳と文化的な好みに合わせた修正だが、もともと自国産のソフトウェアがない発展途上国においては先進国の開発者が提供する使い方を器用に受け入れているように感じる。オンライン広告をインターネットで配信することもできるので、海外に拠点を作る意味は業界によっては感じられないようだ。

では、サービサーではない、ITのシステム受託会社は海外で何をしているのか?何のことはない、物理的なLAN工事や現地通信キャリアへのつなぎ込みである。現地に進出する製造業の工場で必要となるIT環境は日本と同様に必要となる。今では、クラウドがあるから、Googleのサービスや日本本社のシステムを言語対応できれば事足りてしまう。
だが、現地で必要なのは物理的な工事である。日本企業の海外オフィスの提案依頼書(RFP)がきたと思ったら、何のことはないオフィスの引っ越しで、必要な椅子や机を調達して搬入や産業廃棄物の処分がメインのお仕事で、LAN工事はおまけだったりする。
製造業の日本人駐在員にとって、製造以外のお仕事はあまりやりたくないので、(ついでに言うと、現地語を話したくないので)丸投げできる日本人営業担当者が海外で求められている。もちろん、この担当者が外国人と話をして工事を手配しつつ、クライアントから何でも丸投げされる覚悟は必要だが。

このように、60代以上の親世代と海外の仕事について話していると、もろもろかみ合わないことが多い。どれだけ説明しても、「機械油にまみれて部品を製作する現場」を想像することしかできないようである。引き続き現地に日本人が手がけたサービスが海外に出る場面はあると思うが、製造業の何倍もの勢いで海外進出が進んでいくと思う。

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