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すき焼き

正月に新宿にある父の実家に集まる時、おせちの後に、いつもすき焼きが出た。

おせちを食べながら、大人同士が少しの近況報告をした後、食べるのも飽き、やることがなくなった子ども達は、隣の部屋にいってウノやトランプで遊んだ。

時節、雑談の声が聞こえたが、ほとんどが母の高らかな声だった。父を始め、父側の親族は総じて言葉も表情も少ない人々で、その中で母の声は異様に明るく聞こえた。

ババ抜き、七並べ、大貧民、ウノをループでやりつくした頃に「すき焼きができたわよー」という高らかな声に呼ばれ戻ると、長くつなげたテーブルに、一つの大きな鍋がカセットコンロの上に用意されていた。

既に野菜と牛肉が入れられ、グツグツ湯気を出すすき焼きを食べようとするが、菜箸もお玉の数も限られているので、そうすぐに手を伸ばせる訳でもない。母に頼んだり、周りを見てタイミングを図って肉や野菜を菜箸でとり、生卵が半分入った小皿に入れて食べた。カチャカチャ箸が当たったり、肉を啜る音が聞こえる。

普通においしいすき焼きだった。でも、今思えばすき焼き用の良い肉だったはずだ。以前、たまたま寄った母や私に、お寿司を取るよう祖母に司令を出す祖父だったし、祖母は年に一度集まる子どもや婿嫁、孫に気を使って上等の肉を用意してくれたんじゃないかな。

家族5人で暮らす埼玉の家でも、すき焼きは冬の間何度か出るメニューだった。父の好物だったからだ。

あのすき焼きを作るのに、いくら使ったんだろう。健康にこだわる母だから、肉は産地が特定された国産で、妙な所で細かく、神経質な父の機嫌を損ねない様に、すき焼き用のやわらかい肉を買ったはずだ。すきやきのタレも、おそらく高い。母は調味料には特にこだわっていて、醤油も一般的には名のしれぬ会社が原料にこだわって作ったような醤油で、テレビCMで流れる○ッコー○ンではなかった。私が食べていたのは、お高い相当セレブなすき焼きだったのかもしれない。

でも、すき焼きの席で大事なのは、上質な肉よりもタレよりも雰囲気じゃないだろうか。皆が笑っていたり「おいしいね」と飛び交う会話だったり。それがあれば多少肉のランクは落ちても、充分おいしく食べられたと思うけど。健康的にはわからないけどね。

今、7歳の長男のリクエストで月に数回はすき焼きを作る。○トー○ーカドーで「国産牛ロースすき焼き用」を改めて見ると、100グラム税込み950円!!高すぎて買えない。100グラム462円の「切り落とし」を選ぶ。タレは子どもの頃からCMで慣れ親しんだ「エ○ラすき焼きのたれ」

そしてできるだけ、子どもたちや主人とは楽しく食べたいが、長男には「食べすぎだよ」次男には「野菜も食べて」主人には「肉を取りすぎだ」など小言が多くなってしまう。反省しなきゃ。



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