その日突然、恋人は僕を冷たくあしらった。

何が良くなかったのか、僕が何かしたのか。
そういった疑問を抱きながら僕は了解した。

ただ一つ、後悔はしないのかと聞いた。
後悔はしないと言った。
ただ一つ、だからもう何も聞かないでと彼女が泣いた。

そしで2度目のただ一つ、何故泣くの?と聞いた。
彼女は、やめて。と更に泣いた。

きっと何かあるんだろう。
そう思えば思う程力になりたかった。
単純に力になりたかった。
しかし、僕が問題で泣いているのなら黙って頷くことが彼女を思えばこそだとも考えた。

そうして僕はやはり了解した。
そして僕はありがとうと伝えた。

数ヶ月して、彼女の友達から連絡があった。
あの子に何を言ったのだと問われた。

話を聞くと、親友である彼女ですら連絡がとれないそう。

僕は何か漠然とした危険を感じて、彼女に電話した。
危惧とは裏腹に携帯電話から彼女の声が返ってきた。

僕「えっ、出るやん」
彼女「えっあかんの」

彼女のあっけらかんとした態度に僕は笑った。
彼女は少しムッとし、何もないなら切ると言った。

僕「いやいや君の友達に、俺のせいで連絡とれないっつって怒鳴られたから。」
そういうと
彼女「あいつとは喧嘩したから話したくない」

なんだそんなことかと思うと同時に、少し嬉しくなって話を延ばそうと試みた。彼女は察したのか「そんだけ?切るでバイバーイ」と。

数ヶ月時間が経ち、彼女から急に連絡が来た。
私は今他県に住んでる。とのこと。
僕は「遊びに行こうか?」と9割本気の冗談を言った。

「あっ8月に花火あるから見に行こや!」

突拍子過ぎて僕は日本語がわからなくなった。
「えっ誰と行くん」
「君と」
「誰が」
「私が」
「何しに」
「嫌なん?もういい」
「いやいや」
「もう切る。フリやがって。」

「そんな唐突に切ることある!?」
僕は携帯電話にツッコミをいれた。

それから彼女から度々連絡が来るようになった。

この子は何を思い、何を感じ、何を考えているんだろうか。という疑問が毎日僕を悩ませた。

ある日のこと、
彼女「花火◯◯日やからあけといてな」
僕「お、おん?おん」
彼女「連絡されるの嫌?花火もやめとく?」
僕「お、おおん?えっなんで」
彼女「君は難しいわあ。面倒臭いわあ〜。」

ほんとにこいつ一回泣かしてやろう。

花火当日。
彼女に連絡がとれなくなった。

流石に僕は怒った。
なりふり構わず花火にむかって大声でツッコんだ

「な ん で や ね ん ! !」

それから数ヶ月が経ち、
また突然連絡が来た。
「今まで本当にごめんなさい。」
「悪いって思ってはいたんか」
「もう連絡しません」
「またか」
「ありがとう」
「えっ」

そして僕は人生で二度しか経験のない、無機物にツッコミをいれることになった

「漫画か!」

それから数年連絡が無く、今の嫁と知り合うか知り合わないか程の時期に、彼女の友達から電話があった。
友達「メール送るから、そこにあるURL見て」
僕「二度手間が過ぎるわ」

僕は確かに彼女の友達からメールを受け取り、URLを開くとそこには彼女のブログがあった。

ブログのタイトル(?)は
オシャレな斜めに傾いた字で〜覚えてますか〜と。
センスねえなと思いながらすごくドキドキした。
何があったのか、何故送って来たのか、結婚したのか?えっ結婚の報告とか?あっ嫌がらせ?はっ何あいつ?いやええけど、別にどうとも思ってへんし、ほんまこれほんま。等、色んな被害妄想を巡らせながら読み進めた

なるほど数年前から更新が止まっており、最新記事はブログを閉じる旨が書いてあった。

そうするとやっぱり気になるのはあの時あいつは何を思い何を感じ何を考えたのか。

僕はスクロールし、次ページへ、スクロールしては、次ページへ、スクロール・・・
そしてその辺に辿り着いた。
が、ロックがかかっている。
この「ブログにロック機能」という送り先の無い手紙的な概念への疑問は溢れ出たが今は堪えよう

唯一解放されたページがあったので、ワクワクして開いた。

"病状が悪化して学校行けなくなりました
休み放題やっぴい〜"

僕は膝を落とした。
何があった。何があった。
鼓動は加速し、息苦しくなった。

彼女は昔白血病にかかったことがある。
というのも聞いた話だが。
僕は錯乱し、過呼吸になった。

そうだ、まだ決まったわけではない。
ロックの鍵は何だ。ロックの鍵は。ロック。
覚えてますか?

僕は彼女に何度も忘れて怒られたことがある。
その日になると忘れていて怒られて、またその日になると怒られて、ついにはモノオボエワルスギオとかいう語呂も頭も悪い名誉まで貼られた。

だから僕は一生忘れないであろう彼女の誕生日を打ち込んだ。

開いた。僕への手紙だった。


"ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
こんなに好きになるとは思ってなかった。
離れたくない。離れたくないけど心配かけたくない。でも離れたくない。
治ったってゆったやん。
治るっていうから手術したやん。
なんで私だけこんな目に遭うん"


涙が込み上げた。画面から目を背けた。
頭を下げ、声を押し殺して泣いた。


"好きな人と花火見に行く!!!!
手術する勇気もらうー!!!吸い取るー!!!"

"なんでなん"

"もういい手術しやん"

"どうでもええわ"

読めば読むほどあの頃の感情が溢れ出し、そして情けなく感じた。
彼女は懸命に戦っていた。

どうしてもっと知ろうとしなかった。
どうしてもっと手を握ってやれなかった。

自己嫌悪に包まれた僕は大声で泣いた。大声で謝った。
どうにも戻らない過去と知っていても、心から謝った。



僕にはとても大切な嫁ができた。
可愛く、意地っ張りで、言うことを聞かない。
負けん気が強く、常にべったりくっついてくるどうしようもない嫁にそのことを話した。

一緒に泣いてくれた。
そして、貴方は悪くないよと言ってくれた。
その優しさが、僕の汚さを際立たせた。

数ヶ月後

「もしもし」
「僕さんですか?」
「あ、はい。」
「はい!私誰でしょう!」
「えっ!?嘘やん!?」
「死んだと思ってたやろ」
「えっ、、、、えっwwww」
「wwwwwwおい嘘やろ!!」
「いや笑われへんから!!!」
「嫁できたって?」
「うん」
「私も旦那できてん!!」
「えっ!?」
「ショック?」
「いやさほど」
「負けるんが悔しいからな、旦那できたら連絡しよ思っててん!あんたが一番目やで言うたん」

彼女のあっけらかんとした声に僕はまた、笑って嘯いた。

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