
トンガに見る破局噴火(スーパーポルケーノ)の脅威
日本時間の15日午後1時10分ごろトンガ諸島の火山島、「フンガ・トンガ フンガ・ハアパイ」で大規模な噴火が発生しました。
当初は殆ど気にかける事のない小さなニュースでしたが、やがてその規模が、噴煙が関東平野全域に匹敵するほどのもので、この100年で最大規模の海底火山噴火であることがわかりました。
噴煙の高さは2万メートル以上で、その範囲半径260キロ。
噴火による衝撃波の到達範囲は2000キロ以上に及び、これはなんと日本列島をスッポリ包むくらいの大きさです。
まさに近年では例のないほどの大規模噴火であったことがわかります。
この文を書いている最中では現地との通信は途絶しており、トンガの人たちにどのような被害が出ているのか全くわからない状態です。
多くの被害が出ていないことを、心より祈るばかりです。
遥か数千キロ離れた日本でもその影響は津波という形で現れました。
火山噴火により気圧は一気に2hPaも低下。
太平洋沿岸には津波が押し寄せ、岩手県ではその大きさは最大3メートルに達したと思われます。
東日本大震災の教訓もあって素早く対応したことや、大潮とは重ならなかったこともあり、大きな被害には至りませんでしたが、地震ではなく海底火山噴火による津波の日本列島到達は過去例がなく、そのメカニズムの解明に大きな課題を残しました。
⭐︎人類の歴史を揺るがした巨大噴火⭐︎
このような巨大噴火は、スーパーポルケーノと呼ばれ、最近では1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山の噴火が記憶に新しいところです。
噴火規模は火山爆発指数(VEI)という指数で表されますが、ピナトゥボ火山は上から3つ目の6で(ただし一番上の8は有史以来起こったことがありません。)この噴火は世界規模の異常気象を引き起こしました。
この年日本でも極度の冷夏により米の収穫が大凶作となり、タイ米の緊急輸入に迫られたことが世間て大きな話題になったことを記憶されている方もいるかもしれませんね。

今回のトンガの噴火はVEI6と推定されています。
過去の例から見ると、今後世界的な気象への影響が発生することは否定できないのです。
このようにスーパーポルケーノは歴史に大きな影響を与えてきました。
なかでもVEI7以上になると破局噴火と言われて人類の歴史を左右し、時には存続そのものに関わることさえ珍しくありません。
⭐︎革命も文明の崩壊も火山が引き起こした⭐︎
1783年、アイスランドのラキ火山が大噴火、しかも釣られて同じアイスランドのグリームスヴォトン火山も連鎖噴火し、ヨーロッパ一帯に記録的な冷夏をもたらしました。
悪いことに同じ頃日本の浅間山も大噴火を起こし、日本では天明の大飢饉を、そしてヨーロッパでは記録的な凶作に端を発した食料暴動をきっかけに、フランス革命を招く事態となりました。
このことは教科書にも出てくるお話なので、ご存知の方も多いと思います。
1815年インドネシアのタンボラ火山の大噴火は爆発の衝撃で、3900mの山頂が1キロ以上吹き飛び2815mになってしまったほど大規模なもので、この年は火山灰の影響で世界中で黄色い日没が観測されたそうです。
そして翌1816年は歴史上夏がなかった年、として記録されています。
この噴火による噴出物の総量は100立方キロにもおよび半径1000kmにわたって火山灰が降り注ぎました。
20世紀最大の噴火であったピナツボ火山の噴出量は10立方キロ程度だったと推定されていますので、その規模がどれほど凄まじかったかが分かるというものです。
又歴史学者が指摘する人類史上最悪の年、西暦536年の悲劇はインドネシアの火山噴火がもたらしたものだという説も有力です。
536年の悲劇については別に取り上げていますので、ご興味のある方は是非そちらをご覧ください。
⭐︎世界有数の火山国日本を襲った巨大災害⭐︎
火山大国である日本は歴史上数限りない噴火による災害に襲われており、この全てをあげれは数100冊の本になるレベルでしょう。
中でも915年の十和田湖の大噴火はカルデラ破局噴火と呼ばれる非常に規模の大きな災害だったようで、過去2000年間日本で起こった噴火としては史上最大のものだったと考えられています。
時速100キロもの火砕流が周囲20キロ四方を瞬間的に焼き尽くしたため、平安時代の出来事にも関わらず、直接的なこの噴火に関する記録は一切残されておらず、この後数十年間、都と北東北の連絡はほぼつかない状況だったそうです。
しかし歴史を遡れば、更に大きな規模の破局噴火の記録があります。
7300年前の阿蘇山(鬼界カルデラ、縄文アカホヤ)大噴火は、タンボラ山を遥かに上回る噴出量170立方キロに達し、初期縄文文化の崩壊はこの噴火の影響によると見られています。
更に9万年前におこったと推定されている鬼界カルデラの大噴火に至ってはその噴出総量は、実に600立方キロだったと考えられています。

これがどれくらい凄いかというと、九州の4分の3を火砕流が舐め尽くし、遠く北海道でも20センチ以上の火山灰が降り注いだというほどです。
もし現代に同規模の噴火が起こったら、それこそ日本は文字通り破滅し、国家として存続することさえできないでしょう。
⭐︎火山噴火により人類は滅亡していた?⭐︎
さて、知られている範囲で地球の歴史上最大の噴火と言われているのが、約7万5000年前におこったとされるインドネシアのトバ山の大噴火だと言われています。
その噴出総量は実に1000立方キロオーバー、その威力たるやTNT火薬に換算して約1ギガトン!!という壮絶なもので、その影響力たるや現代では信じられないほどのものでした。
この噴火により地球上の平均気温は5度も減少したばかりか、その影響は6000年にわたって続き、ヴュルム氷期と呼ばれる小氷河期を呼び寄せたのです。
当然、その影響はインドネシア壊滅くらいで済む訳もなく、一説によれば当時の人類(ホモサピエンス属)のうち、ホモ・エルガステル種、ホモ・エレクトゥス種など多くの種が絶滅に追い込まれ、わずかに現世人類とネアンデルタール人が生き残ったものの、その数も1万人程度まで激減したというのです。
要するに7万5000年前、人類は火山の噴火で事実上滅亡していた、というわけです。
この仮説をトバ・カタストロフ理論と言います。
文字通りの破局噴火であったわけですね。
こうした破局噴火は、遥か過去のものと片づけるわけには行きません。
アメリカにイエローストーンという有名な国立公園がありますが、実はその地下にはとてつもない量のマグマだまりがあることが確認されており、近い将来(といっても誤差数万年って話ですが)大噴火を起こす可能性が高いと推定されています。

仮にイエローストーンが噴火すれば、そのマグマの量からみてトバ山に匹敵するほどの爆発となり、人類の存亡を左右するほどの破滅的な事態になる可能性が指摘されています。
今回のトンガの火山の噴火は、改めて自然の猛威の前には人類の文明など如何に脆いものか、教えてくれているような気がしますね。
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