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トップ・アクションのチューバで起こりやすいこと3選

日本では学生のバンドや金管バンド、またはPhilip Jones Brass Ensembleに憧れてトップアクションのチューバを演奏する方は多いです。

また今でも英国ではJohn Fletcher氏を筆頭にオーケストラにおいてもトップ・アクションのチューバを使用される奏者は数多くいます。

例えば僕の師のNigel Seaman氏はBBC Walesにおいて他の奏者がCチューバを併用する中、頑固にトップ・アクションのチューバを使用し続けた金管バンドからBb Bass(トップ・アクションのBbチューバ)を始めた生粋の英国チューバ奏者の一人です。他にもスターウォーズの録音に携わっているLondon Symphony OrchestraのPatrick Harrild氏もEb Bass奏者です(トップ・アクションのEbチューバ)。

ちなみにトップ・アクションのチューバはこれ

Top Action、つまり楽器の上部に管の長さを変えるためのピストン(右手で押すところ)がついている。Top Action=上部で作動させるチューバ

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フロント・アクションのチューバはこれ

Front Action=右手が前方に伸びピストンを押すことによって管の長さを変える。

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両方とも同じ会社が作ったEbチューバです。(主音が実音のミ♭のチューバ)

わかりににくいですが、人無しだとこんな感じ
ベルがついている箇所とピストンの場所が違うのがわかります。

フロントアクションはまた別の機会に書くとして、今日はこのシルバーのトップアクションのチューバ演奏における「よく起こりやすい故に気づきにくい」ポイントをご紹介

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1、マウスピースを唇に押し付けやすい

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トップ・アクションのチューバでは上記の写真の通り左手をベルの下部に沿って這わし、4番ピストンを押します。

僕はかなり腕が長い方なので稀ですが、普通の腕の長さをもつ人にとってはこの4番に手を回すというのは少し難儀します。(我ら日本が誇るYAMAHAが開発したNEOというブランドの楽器にはこれを解決する画期的な工夫が施されています。)

またチューバのベルを抱えるようになるためチューバを自分に向かって引く力を簡単に使えます。今やってみたら分かると思いますが腕を前方に押すよりも自分に向かって引く方が力が入りやすくなります。

これにより

1、演奏中のわずかな力みが腕に伝わる
2、チューバを引くことによりマウスピースが演奏中の唇や口の周りを圧迫する
3、跡がついたりバテやすくしてしまいます。

圧迫=血流を止めてしまうことになるのでそれこそ手首を掴んで血を止めてみるとだんだん痺れてくるのと同じように、唇も麻痺しどれだけ息を入れても振動しにくくなったり操作が不可能になってきます。

何か理想の演奏ができていないと感じた時楽器を引いて、唇の振動を邪魔したり圧迫を強めていないか確認しましょう。

2、左右への姿勢の傾き

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これはフロントアクションのチューバの演奏にも関連しますが、楽器自体が重い分ロングトーンなどの長い音符を吹いていたり、ブレスの合間に体が左右どちらかへ傾きやすいです。

これを長時間行うと背骨や首の骨を圧迫し痛めてしまったり、姿勢が悪い状態ですのでフルで息をコントロールすることが困難になります。

またトップ・アクションと呼ばれる所以であるピストンを押す手の位置が左右に傾くことにより、右へ左へとずれ早く細かいピストン運動を多用するパッセージを演奏する際に障害となってしまいます。

これまでの経験上、ピストンやたくさんの管が巻いてある右のほうへ姿勢をずらす方が多いです。つまりチューバの重さに身体を任せるのではなく、体がリラックスした状態で楽に座ったところに楽器を構えるようにしましょう。

もし疲れて傾くようだったら単純に休憩をお勧めします。

3、コンペンセイティング・システムの活用

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金管楽器、とりわけユーフォニウムやチューバといった低音金管楽器にはよくついている機能、Compensating System(以降コンペ)といい数学的に倍音を慣らしていった際にある音は必ず音程が高めになってしまうというのを補正するための機能です。

普通に楽器を設計した時にバランスを取って組み立てていくとIn Bb&Ebにおける下線三本以降のファ、ミ、ミ♭、レ、ド♯の低音域の音程がとても高くなってしまうのを補正できます。

これは上記の写真のように4番+他のピストンを押した時にだけ空気が流れる管ができる=管の長さを伸ばすことにより高くなりやすい音程を補正できるということで、1874年に英国のBoosy&Hooks社が開発したシステムです。

この機能ですが、多くの場合ピストンの裏側についています。そして1、2番のコンペの抜き差しは不可能な場合が多いですが3番のコンペは可能です。

これに気づかずそのまま演奏してしまい低音域が上ずったまま演奏をしている方を多く見ます。

3番管の裏についているコンペは抜き差しが可能です。自分の音感と楽器の音程感によって抜く長さは変えるべきですが、ぜひ抜き差し幅の調整を行いコンペを有効活用しましょう

一度3番のコンペ管だけ抜いて音階を演奏してみてください、ある音だけ息が抜けるのがわかります。

4、ピストンが曲がる

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フロントアクションのチューバではピストンを自分に向かって押すのでどちらかといえば負担は少ないのですがトップアクションのチューバでは上から下に押す動作になります。

また1で説明した通り姿勢のずれが起こりやすいのでそのずれた姿勢のままピストンを押し続けることによりピストン自体が曲がってしまったり、ピストンを正しい方向で押し込むためのガイドがすり減りピストン自体の動作を阻害する場合が多く見られます。

毎日抜き差しをするであろう家の鍵穴にまっすぐではなく斜めに差し込み続けるといつか金属が摩耗し鍵が開かなくなったり、鍵自体が折れてしまったりというのは想像しやすいです。

これがトップアクションに限らずフロントアクションのチューバでも起こります。

ピストンはなるべく押し込む方向に垂直に押しガイドやピストン自体を曲げたりすり減らさないようにしましょう。

まとめ

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金管バンドだけではなく吹奏楽でも多用されているトップ・アクションのチューバ、俗に縦バスと呼んでいる人もいますが素晴らしい演奏を約束してくれる名器なのはもちろんですがこの楽器特有の起こりやすい現象も多々あります。

ぜひご自分の演奏を見返し理想と離れたところはこんなヒントを思い出しながら練習をしてみてください。

ご読了ありがとうございました。




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