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誰も見てないバイバイ

朝のラッシュアワー。混雑した電車にママとベビーカーにのる2歳くらいの女の子が乗ってきた。

圧迫感のある車内は、小さな目線には不安を感じさせる状況だったのだと思う。

少しグズる気配もあったけど、こらえる女の子。目に入ったママのハンカチが気になったようで、それに手をかける。するとママが「イヤ!触らないで」と女の子の手を振り払う。

すぐに次の駅に着き、ベビーカーは背中側から降りていく。続いて降りていく30代くらいのスーツ姿の女性。小さな女の子は低い位置から、かわいらしい目線をおくり無邪気に“バイバイ”と手を振る。

その女性は気がつかず、女の子の“バイバイ”は返されることはなかった。

40代くらいの女性が乗った車椅子と、それを押す男性も同じ駅で降りようとする。だけど車椅子のタイヤに、なにかが挟まったようで動かず、男性は少し焦っていた。

近くにいたサラリーマンが、タイヤに挟まっていたエコバッグに気がつき、それを引き抜き車椅子は無事動き出した。

車椅子に乗った女性も、それを押す男性も。電車の発車時刻を気にしながら慌てていて、手伝ったサラリーマンへの会釈も「ありがとう」もなく降りていく。

入れ違いで淡い水色の素敵な着物を着た年配の女性が乗ってきた。

「すみませんね。手すりにつかまっていいかしら」と、穏やかに周囲に配慮しながら手すりにつかまる。そこでも「どうぞ」と席を譲るひとはいない。

次の駅でわたしは電車を降りて、いつもの売店へ。

背中を向けていた売店のおばちゃんは、ワンテンポ気がつくのが遅かっただけなのに「おまたせしてすみませんね。いってらっしゃい」とにこやかに微笑んでくれた。

わたしは会釈する。だけどとっさに「ありがとう」も「いってきます」も出てこなかった。

小さな手も、優しい手も。穏やかな微笑みも、気づかいも。ささやかな言葉たちもみんなシャボン玉のように空中に浮かんでは消えていってしまった。

明日は「いってきます」を言おう。


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